ツーリング日和6(第1話)北へ

「行くで」
「らじゃ」

 草木も眠る丑三つ時って言うけど、あれはいつやと思う。時刻の概念は古代からあって、日本も中国流の時刻概念は早くからあってん。一日を十二等分して、それに十二支をあてはめたやっちゃ。

 今でも名残りはあって、正午つうのは、午の刻が昼の十二時のことからやねん。ほいでな、一刻をさらに四等分して、午の刻やったら午の一刻、午の二刻、午の三刻としとってんけど、このうちの二の刻を正刻っていうねん。午の刻の真ん中やからや。そやから正午やねん。

 一の刻、二の刻、三の刻は文章で使われてんけど、言葉で使う時は一つ時、二つ時、三つ時って言うてたんよ。それと午の正刻は昼の十二時やけど、夜の十二時は子の正刻や。日の出が卯の正刻で、日の入が酉の正刻になる。

 子の正刻と午の正刻は固定やけど、卯の正刻と酉の正刻は当たり前やけど変動になる。そやから同じ一刻でも、夏は昼が長なって、夜が短かなる。冬はその逆や。これを不定時法って言うんや。

 現代の定時法に出来へんかった一番の理由は時計があらへんかったからや。江戸時代ぐらいから機械時計も登場はしとったけど、ムチュクチャ高いし、置時計やねん。そやから空見ながら時刻決める方が現実的やったぐらいやろ。

 空見て時刻決める言うても、昼間ならまだしも夜はどうしとったかになる。これが夜でもかなり決めれてたんや。寅の刻の始まりは東の空が白み始めた時やねん。お日さん昇る前から明るなるやろ。

 卯の刻の始まりは空が白んできて星が見えなくなる時や。卯の正刻が日の出やからな。卯の刻はともかく丑の刻やけど、寅の刻の前の時間帯になる。寅の刻は空が少しでも白んで星が消えるまでの間やねんけど、

「要するに丑三つ時って、東の空が白み始める寸前の時間帯だよ」

 一番夜が深いとしたのと、和時計の十二支は方角も示したから、

「丑三つ時って丑寅になるのよね」

 丑寅は東北で鬼門になるのあるねん。今は五月やから日の出は五時や。夜の一刻は一・七時間ぐらいやから、

「東の空が少し白んでるから今は寅の刻ね」

 そうや三時やねん。これまでのツーリングで一番の早出や。さすがにこの時間帯はガラガラやから国道四十三号をまず西に走ってく。

「西宮神社だよ」

 ここから国道一七一号から国道一号で京都を目指す。

「西国街道だね」

 まあ似たようなとこや。期待通りにスムーズや。こんな道、昼間に走ったらエライ目に遭うで。だいぶ白んで来たな。ちなみに夜の時間帯を指す言葉に未明ってあるけど、報道では零時から三時ぐらいの時間帯で、おおよそ丑の刻や、

「東の空が白み始めるまでね」

 そやけど本来の未明は日の出前の時間帯で寅の刻から、卯の一刻ぐらいを指すねん。あんなもん何時頃って報道すれば済むはずやけど、どっかに不定時法の名残りがあるのかもしれん。

「日の出とともに、もうすぐ京都ね。城南宮の看板が見えて来た」

 京都やのうて伏見やねんけど、ここから東に入って山科から大津の方を行くねん。この時間帯でも出来たら京都市内はパスしたいからな。三十分ほどで大津に到着。ここから琵琶湖西縦貫道路を快走と言いたいところやねんけど、そうは問屋が卸してくれへんねん。西大津バイパスは走れるんやけど、湖西道路と志賀バイパスがアカンねん。

「走らせてくれたらイイのに。湖西道路はまだしも、志賀バイパスは自動車専用道路じゃないじゃない」

 ユッキーが憤慨する気持ちはわかるけど、決められた事はしゃ~ないからな。志賀バイパスの先の高島バイパス、湖北バイパスは走れるけどさすがにクルマも増えて来たな。

「キャンプに来たのは懐かしいね」

 最近は行ってへんけど、また行ってもエエな。今日はそんなんしとる間があらへんから国道一六一号で山越えや。

「目指すは敦賀ね」

 そうやねん朝の三時に出発した理由がこれや。ロング・ツーリングも西はかなり行ってもたやんか。そりゃ本土最南端の佐多岬まで行ったからな。東は飛騨までは行ったけど信州は無理がある。

 そやからだいぶ考えとってん。雲仙行って本土最西端目指すのも案としてはあったし、高松から室戸岬を回る案もあってんよ。そやけど、なんとなく二番煎じやんか。そやから夢の北海道を検討しとってん。

 それやったっら新日本海フェリーで舞鶴から小樽やねんけど、舞鶴が二十三時五十分出航やねん。そんな時刻に原付で舞鶴行くのはどう考えても大変やねんよ。ちなみに敦賀からなら苫小牧に行けるけど、これも二十三時五十五分出航やねん。

「あのバイクで夜道はさすがにね」

 科技研の訳のわからんこだわりでLEDやのうてハロゲンやもんな。LEDでも怖いけど、ハロゲンならなおさらや。コトリもユッキーも夜道のロング・ツーリングは好きやあらへん。

「夜が好きなのは走り屋とか暴走族で、健全なツーリングに合わないよ」

 そんな時に見つけたのが敦賀から新潟と秋田を経由して苫小牧に行く航路や。これやったっら九時半出航やねん。これかてポーアイから京都ぐらいまで暗いけど、

「その代わりに道が空いてるはず」

 そやから幹線道路を走って行けるんやないかになったんや。

「新潟から秋田にツーリングするのも魅力的だったんだけど・・・」

 新潟にフェリーが着くのが二十一時半やねん。こんな時刻に新潟港で下りても困るし、やれることはビジホにでも行って泊まるだけになってまうやんか。それやったら秋田まで行って東北ツーリングがエエになったんよ。

 マキノから二十分も走ったら敦賀市内や。国道八号を走って行ったらエエはずや。市街地から二つトンネル抜けたらそろそろ、

「あれじゃない、敦賀新港って書いてある」

 右折やな。

「海が見えて来た」

 つうことは、

「次の交差点を右や」
「フェリー乗り場にGO」

 これや、これや。さてどこに並ぶんかな。誘導員こっちに行けってしとるけど、おったおった、バイクが並んどるわ。チケット確認してもうてボーディングブリッジを渡って船内や。左に行けってか。あそこがバイク置き場やな。

 えっと、えっと、こっちが船室に上がる階段か。フロントに行って、カードキーもうて、デラックスAのツインや。ステートAツインと悩んだんやが、今回の船旅は長いからこっちにしてん。そりゃ、明日の朝までかかるさかいな。

「六階ね」

 エレベーター下りたら、風呂が近いやん。

「新日本海フェリーもなかなかね」

 昔ながらのフェリーじゃ誰も乗らんからやろな。どこも綺麗でオシャレにしとるわ。部屋はバス・トイレがあって、ベッドが二つで、その奥にソファがあり、ライティング・デスク兼テレビ台か。

「デッキも気持ちイイ」

 小さいけど専用テラスもある。今回は必要やろ。

「お腹減った」

 途中のコンビニでサンドイッチ食べただけやもんな。もうちょっとしたらランチタイムのはずや。

「フェリーで初めてクルージングする気分」

 そやな。四国や九州行くフェリーも悪ないけど、夕方乗って、早朝下船やから、乗船して風呂入って、メシ食ったっら日も暮れてるし、寝るしかあらへん。それにくらべたら、今日はこのまま船中泊やもんな。新日本海フェリーでネック言うたら海が荒れる事やが、

「二人で行けば、いつもツーリング日和」

 そういうこっちゃ。