ツーリング日和13(第24話)室戸へ

 有明から約十四時間けて徳島フェリーターミナルに十三時二十分に到着。そこから徳島ラーメンの取材に。これも船内で昼食を取るかどうか悩んだけど食レポも大事だものね。これはラーメン好きの先輩が選んだのだけど、

「支那そば肉小を二つとめし小を一つ」

 ラーメンとご飯類、いわゆるラーメンライスにするのは好き好き。東京の有名店ならラーメンしか出さないところも多いかな。もちろん東京でもご飯や焼き飯をセットに出来るところも多いよ。

 この徳島ラーメンだけどご飯類に合うのが特徴の一つらしい。だからご飯も頼んだのだろうけど、小が一つってケチ臭いな。というか双葉には食べさせないつもりかと思っていたら、出て来たご飯に仰天。大きめのお茶碗にこれでもかの山盛。普通のお茶碗なら余裕で二杯分はありそう。これで小って、

「あそこに見えるのが大だ」

 なんだあれ、大食い選手権の店か。ラーメンだって肉小でも丼にビッシリで、大となると肉がテンコモリに盛り上げられてるじゃない。

「本当は焼き飯にしたかったのだが、さすがに食べ切れない」

 ご飯でも大盛行進曲みたいな店だけど、焼き飯となると、

 半々チャーハン・・・三合
 半チャーハン・・・・・五合
 チャーハン・・・・・・・八合
 チャーハン大・・・・・一升

 焼き飯三合なんて二人でも食べきれないよ。だってこれにラーメンがあるんだもの。

「でもライダー飯として紹介する価値はある」

 ツーリングはお腹が減るものね。というのも焼き飯は驚異の大盛だけど半々チャーハンで三百円なんだよ。チャーハン大でも千百円。ライダー飯の基本は早い、旨い、安いだから、支那そば肉大にチャーハン大でも平らげる猛者が、

「さすがにいないと思うけど、間違ってオーダーするのはいるだろうな」

 普通の店で大盛ラーメンと単品の焼き飯を頼む感覚でやらかすのはいそう、徳島ラーメンを堪能したらツーリングだ。国道五十五号をひたすら南下。途中で無料高速の日和佐道路もあって快適、快適。

 日和佐道路から今度は南阿波サンライン。急ぐのなら国道五十五号の方が早いけど、ツーリングなら絶対にこっちだ。いわゆるシーサイドロードだけど、海のすぐそばの道じゃなく、海の近くの高いところを走り抜けてく感じ。

 道路が高いところにあるからとにかく展望が良好。サルも出て来たのは御愛嬌。トラックとか、クルマでも急ぐ人は国道五十五号を走るから空いていて気持ちイイ。

「というか、地元の人と観光客ぐらいしか走らないだろう」

 みたい。だから展望所もあるけど、売店なんかないのよね。南阿波サンラインから再び国道五十五号に合流。山が海に迫ってきて、その間を走って行く。いっつも思うのだけど、こんなところでも人は住んでるのよね。

「ついに高知県だ」

 これが四国の道だ。徳島フェリーターミナルか室戸岬まででも十分にツーリングが堪能できる。こういう道をバイク乗りってツーリングしたいのだよ。ひたすら南下していた道が開けてきたら・・・なんだあのデッカイ銅像は、

「中岡慎太郎だ」

 誰だそいつ。さすが先輩、下調べに手抜かりはない。

「そうじゃなくて水無月君の手抜きだろう」

 少しだけ話は長くなるけど、戦国時代の土佐には長曾我部元親と言う英雄が現れ、四国統一寸前までの勢いだったそう。その長曾我部氏は関が原の時に西軍に加担して家康に家を潰されてる。

 そんな土佐の領主になったのが山内一豊。一豊は掛川城主だったそうだけど、上級武士は掛川からの武士で占めたそう。その代わりに冷遇されたのが元長曾我部家の侍たち。彼らは郷士として江戸時代を過ごしていたんだって。

 幕末になり土佐藩は上級武士が佐幕派、郷士が勤王派になって激しく争うことになるのだけど、郷士の中でリーダー格と見なされたのが武市半平太、坂本龍馬、中岡慎太郎だそう。いわるる勤王の志士ってやつだな。

 だけど武市半平太は藩政を握ろうと活躍したものの、山内容堂の反撃に遭って捕縛され切腹。坂本龍馬と中岡慎太郎は近江屋事件で暗殺されている。そう誰も明治新政府の時代には生き残れなかったんだ。

「中岡慎太郎は商売っ気がない坂本龍馬みたいなものかな」

 そんな説明でわかるか! この銅像は桂浜の坂本龍馬の像が完成したと同時に設立運動が始まったそう。募金は難航したそうだけど七年の歳月を経て完成したのだけど、観光協会の建物が邪魔じゃない?

「真正面こそ塞いでないけど、中岡慎太郎からしたら目障りだろうな」

 さてだけどフェリーが徳島に着いたのが十三時二十分で、徳島ラーメンを食べ終わったのが十四時過ぎ。そこからひた走って室戸岬まで来たけど、もう十七時半だ。日没が迫って来てるんだ。そろそろ宿にと言いたいけど、

「安芸まで行くぞ」

 室戸から安芸までは一時間ぐらい。日もどっぷり暮れた頃に宿に到着したのだけど、先輩、宿間違ってるよ。これって立派なホテルじゃない。

「いや、ここだ」

 シングルの客席に荷物を置き、フロントで聞いた近くのお勧めの居酒屋に。ビールを飲みながら、

「このホテルはな、かつてタイガースがキャンプの時に使っていたものだ」

 そうだった、そうだった。清水先輩は阪神ファンだった。それも熱狂的と言って良いぐらい。

「熱狂的ではない。ごく普通の阪神ファンだ。熱狂的とは優勝したら道頓堀にダイブするのを言う」

 あははは、阪神ファンはキチガイみたいなものと言うものね。そうなると今日の宿は聖地巡礼かな。

「ここまで来て、このホテルに泊まらないのは許されない」

 ちょっと待ってよ。どうせ泊るなら、現在使っているホテルにしようよ。

「予算の問題だ」

 でたぁ。これも聞いた話だけど、プロ野球はキャンプ入りからシーズンが始まるようなものじゃない。これはどの球団も同じだと思うけど、ファンまでキャンプ入りするのは阪神ぐらいだと言われてる。選手と同じ宿舎に泊り、朝は、

『頑張ってこい』

 こう言って送り出し、もちろん球場にも行って、紅白戦や練習試合があると観客席で笛太鼓の世界だそう。おそらく阪神ファンで熱狂的とはそのクラスで、球場で気勢を上げるのは普通のファンなんだろうな。

 巨人ファンだって熱心だと思うけど、阪神ファンの熱心さは異様らしい。先輩が甲子園まで観戦に行った時の話になるけど、

「甲子園に行くには梅田から阪神電車に乗るのだが・・・」

 その時点で阪神の法被やユニフォームや、応援グッズで身を固めた連中がホームを埋め尽くす感じらしい。そのまま電車に乗り、さらに球場までそのキチガイ軍団が続いていき、

「球場内は祝祭場だ」

 たまたま阪神が勝ったのだそうだけど、球団歌である六甲おろしは球場内はもちろんのこと、球場外、甲子園の駅、電車の中、さらには梅田の駅まで数限りなく繰り返されて歌われるとか。

「関西では結婚式でお祝いに歌われるのは珍しくもないそうだ」

 つまり誰でも知っている歌であり、

「三番まで覚えているのは自慢ではなく、覚えていない方が恥しいとされる」

 明日は、

「一番に安芸市営球場の寄ってから出発する」

 はいはい。