ツーリング日和9(第11話)皇室護衛官

 ところで肇さんは赤坂護衛署でどんなお仕事なのかな。

「主に甘橿宮家の警衛です」

 警衛? 聞きなれない言葉だけど、皇宮警察では皇族の身辺を守るのを警衛とし、皇族以外の身辺を守るのを警護と呼んで区別してるんだって。

「侍衛官を勤めさせて頂いております」

 皇宮警察は皇族の護衛に特化した組織だけど、護衛するにしても皇族により近いところで護衛する方が同じ護衛官でも格上として扱われるそう。

「そりゃ、そうやろ。テロや暗殺も側近がやらかすのが多いやん」

 距離が近いと言うのは襲いやすいにもなるものね。それだけの信用と、もちろん護衛能力を買われて侍衛官に選ばれるはず。だから外出の時でも皇族の直近は侍衛官が守り、さらにその周囲を一般の皇宮護衛官が固めるんだって。

「侍衛官やったら教養も求められるはずやで」

 茶道や華道から和歌まで詠めるようにされるとか。そう言えば馬術も入ると聞いたことがある。でも、そんなもの本当にいるの。

「警衛はお側で守る仕事ではありますが・・・」

 皇族だって人の子だものね。側にいれば話をすることもあるよね。ずっと側にいて守っているようなものだから、その間に一言も会話がない方が逆に不自然だもの。そりゃ、和歌のやり取りまではしないだろうけど、お茶会でも会場に入ってるだろうし。

「外国の賓客の警護もあるやんか」

 皇居には外国の王族や元首クラスの訪問も多いものね。それも天皇の重要なお仕事の一つ。相手にもよるだろうけど、皇居内の護衛は皇宮警察の仕事だもの。でも馬術は、

「馬車が走るやんか」

 ああそっか。あれも皇宮警察の仕事なんだ。ああいう時は騎馬警官も出ることあるものね。だったら大使の信任状捧呈式の時も、

「あれも、もちろんです」

 馬車だけでなく白バイに乗って先導したり、サイドカーに乗って警備に当たる事も日常業務の一つだそう。他にも皇宮警察には音楽隊もいて園遊会とか皇室行事で演奏したり、

「あまり知られていないものなら・・・」

 消防も皇宮警察の担当で、皇宮警察学校では消防のカリキュラムも入ってるんだって。これは知らなかったな。皇宮警察も護衛部門、警備部門、警務部門と別れているのだけど肇さんは侍衛官だから護衛部門。甘橿宮家担当だけで主に誰に付いてるの。

「喬子女王様でございます」

 えっ、あの喬子様の担当なの。今は男性皇族が増えた反動で女性皇族が少ないのよね。それと女性皇族って教養も気品も申し分ないと思うけど、

「俗にいう皇室顔やな」

 あれも不思議なんだけど、皇室の妃になるような人は皇室が始まってから選り抜きの美人のはず。そりゃお妃様だもの。そんな美人の集積がどうしてああなるのかな。

「美人の基準は時代で変わるのもあるけど・・・」

 でも時代で変わった美人の基準でやっぱり美人が選ばれるはずじゃない。本当に不思議なのだけど、そろいもそろって皇室顔なんだよ。でも喬子様は完全に別格として良い。その美貌は宮中の花と呼ばれてるもの。

 その名は日本だけでなく海外でも評判になってるぐらいなんだ。喬子様は絵に描いたような高貴な容貌と優美な振る舞いで人気も高くて、ある種の突然変異じゃないかと思うぐらい。でもさあ、ああいうのって外面はともかくが多いじゃない。

「いえ、それ以上のお方でございます」

 優しくて、親切で、

「私のようなものにも常に気配りを忘れません」

 侍衛官としてお側にいる肇さんがそう言うから、そうなんだろうね。そう言えば喬子様にはロマンスの噂があったはず。

「そ、それは・・・」

 やっぱりいたのか。皇族に本当の意味のプライベートはないものね。そこから肇さんは言葉を濁し続けたのだけど、相手はコトリだよ。逃げられるはずがないじゃないか。

「喬子様とて人を好きになり、愛する権利はございます。ですが、どうしてあの喬子様が・・・」

 なるほど、肇さんは喬子様の相手を知ってるのね。これは職務上そうなるのだろうけど、どうも相手の男を気に入ってないみたい。誰なんだろ。あの辺は菊のカーテンがあって週刊誌でもなかなか報道しないところもあるけど、

「いやボチボチ出とったで」

 だけどかなりボカしてた。この辺は情報が少しでも洩れると、相手が一般人だから迷惑にしかならないのもある。マスコミはハイエナが屍肉に群がるように寄って来るし、好き放題書きまくって責任なんか取る気もないのよね。

「それで潰れた話も多いそうや」

 そりゃ、皇族は公人にはなるけど、マスコミにしたら芸能人と同じ有名人のカテゴリーに放り込んじゃうからね。これが結婚絡みになるとゴシップ記事の美味しいターゲットしか考えてないもの。

「有名人かって名前を売るのが仕事の人と、勝手に名前が広まって有名になってるのがおるやんか」

 そうなのよね。でもマスコミ連中にしたらそんな区別はなく、有名人であればゴシップは暴き放題の対象と見なしちゃうもの。それで大変な目に遭った人は数えきれないぐらいいるけど、それを少しでも自粛させようとする動きがあると、

「報道の自由の侵害ってギャーギャー騒ぎまくる」

 もちろん報道の自由は大事よ。それを尊重しないといけないのは間違いけど、

「既婚女性をたぶらかして肉体関係を持ち、そこから盗み出した情報を野党に売るやつまで擁護するんやからな」

 もうなにそれってケースまで擁護の主張をやりまくるのだもの。お前ら何様との反感しか集めなかったもの。そのくせ身内の不祥事にはこれでもかってぐらい甘い。世に言う報道しない自由ってやつ。

「同じクラスの不祥事をマスコミ以外がやったら倒産するまで叩き続けるのにな」

 まあそれは関係ないしキリがないから置いとく。