バイクも恋も若葉マーク(第28話)堪忍してくれ

 厨二病の小理屈君だけど、カノンへの排気量マウントはちょっと違う気がする。あれってなんのためにやらかしたんだろ。あれはどう見ても計画的だったぞ。

「とりあえず排気量なマウントの定番ぐらいはやってるから、カノンに仕掛ける前に準備はしてたはず」

 杉山先輩が来てくれなかったら延々とやらかされたんだろうな。けどさぁ、排気量マウントはされた方が不愉快極まりないものだろ。

「マウント行為をされたら何でもそうだよ」

 そんなに小理屈君に恨みでも買われてたのかな。人は思わぬことで恨みを買うことがあるとは言うけど、そこまで親しくないはずなんだけどな。そりゃ、同期だから顔を合わせれば挨拶ぐらいするけど。

「まさか、いや、そうかも。そうとしか考えられなくなってきた」

 こらぁ、一人で納得するな。小理屈君はカノンに何がしたかったと言うのよ。

「あれはカノンの気を惹いて近づくためのはずだ」

 はぁ、どういうこと。

「男の子って好きな女の気を惹くために、わざと嫌がることをやるじゃない」

 待った、待った。そんな事をするのは厨二病どころか小学生のガキだろ。そんな事をする男の子の話は聞いたことはあるけど、遅くとも中学生ぐらいで卒業するものじゃないの。

「大学生でも怪しいのはいそうじゃない」

 うぐぐぐ。確かにそうだ。でもさぁ、そんな事をすれば存在感のアピールにはなるとは思うよ。でもそこにどうやったら好意なんか生まれるんだよ。残るのは、いけ好かない奴のレッテルだけだ。小学生でもそうだったじゃない。

「小理屈君を常識で測ったらいけないと思うのよ」

 じゃあ、なんで測るんだよ。

「小理屈君ってどんな根拠で暴走するかわかんない人だぞ」

 そ、それは学習させられた。小理屈の元ネタの収集がとにかく杜撰。杜撰と言うか、普通ならそれを選びそうにないものに飛びつく傾向が強いのは知ってる。ああいうセンスって確かに常識では測れそうな気がしないな。

「あの排気量マウントでカノンに近づこうとしたのは間違いないし、小理屈君的にはあれで成功と確信している可能性もあるかもしれない」

 あのね、この世に排気量マウントを仕掛けて女を口説こうとするのなんているはずないだろ。

「だから常識で測れないってしてるじゃない」

 ちょっと待ってよ。それってネット漫画の世界だぞ。パターンとして良くあるのなら、持参してきた弁当を無断でつまみ食いして、それをゲロマズだって酷評するやつだろ。迷惑男を通り過ぎたクズだけど、あのロジックって、

「そこまで気にしてやってるから、こっちの気持ちに気づけどころか、自分にベタ惚れしてるの勘違い妄想が暴走するクズ男だ」

 そういうけど、その前が必要だろ。勘違いするキッカケが必要のはずだ。そんなものどこにも心当たりはないぞ。

「いやある」

 あるものか!

「カノンがバイク通学許可証を取りに来た日に小理屈君と会ってるだろ」

 えっ、あの日のこと。会ったって言っても、カノンが先に大学に来ていて、そこで後から来た小理屈君に出くわしただけだぞ。あの時だって、バイクをとりあえずどこに置いといたら良いかって聞かれたから、許可証をもらう前でもバイク置き場で良いって答えただけじゃないか。

「だから常識では測れないんだよ」

 測れな過ぎだ。同期だからカノンじゃなくても、それぐらいの問答は誰だってするだろうが。おいおい、小理屈君の根拠にしてるソースってまさか、

「会社に来客があり、そこに茶菓子を出して愛想笑いをしたら、惚れられてるって確信するやつかも」

 あのね、そんなネット漫画もあるけど、あれって勘違いから暴走して自爆するオチが必ず付いてるだろ。あんなものをどうやって根拠に出来るんだよ。普通に読めば誰だって、

「普通に読める人ならね。でもそうじゃないのが小理屈君だろうが。あの時にカノンが見せた愛想笑いが小理屈君を排気量マウントに走らせた」

 あのね、たしかにあの時に愛想笑いをしたよ。だけど、あの場なら誰だってするだろうが。ブスッとして、ニコリとも笑わずに応対する方が変だろ。まあ、それでもあれを勘違いしたのは百万歩譲って認めたとしても、その次のステップが排気量マウントってどういう発想なんだよ。

「だから何度も言ってるじゃない。小理屈君を常識で測ったらいけないって」

 もうぶっ飛び過ぎだ。だけどやりかねないのミルの指摘は恐ろしいぐらいに説得力があり過ぎる。

「ああいうタイプって確信犯だから粘着されたら厄介だ」

 他人事みたいに言うな。そりゃ、ミルにとっては他人事だろうけど、何が悲しくて小理屈君に粘着されなきゃならないのよ。

「生まれ落ちた時からの宿命かも」

 こらぁ、それこそ他人事過ぎるぞ。ミルが欲しいのなら熨斗を付けて進呈するよ。

「生ゴミは不要だ」

 ほら見ろ。カノンだって不要だ。堪忍して欲しいよ。何が悲しくて小理屈君にストーカーされないといけないのよ。もし粘着されたら、

「リカ様に高速スライス切りの奥義を伝授してもらう」

 あんなものがそう簡単に修得出来たら誰も苦労するものか。そうなると、

「早く彼氏をゲットするのが一番効果的だろ」

 そうよね。彼氏持ちになっても粘着されたら、それこそ彼氏が小理屈君を追っ払ってくれるはずだものね。誰か出て来てくれないかな。もっとも焦り過ぎて、

「塩コショウ君とか、味ぽん君を掴んだら悲劇よね」

 それも嫌だけど、小理屈君よりマシに見えるぞ。

「じゃあ、そっちにする?」

 あのねぇ、そんなに人の不幸を願ってるのかよ。その話はこれぐらいにして、吉川の道の駅も過ぎて、市野瀬も抜けたから、そろそろのはず。あった、あった、あの交差点だ。

「直進でいざ国道一七六号へ」

 いよいよ未知の世界に突入だ。