バイクも恋も若葉マーク(第26話)排気量マウントの話

 今日の天気予報は晴れ。ついに篠山への最終チャレンジだ。もっと早くに行きたかったのだけど、

「どうして週末ごとに雨なのよ」

 金曜まで晴れなのに、週末はずっと雨模様だったのよね。まず三田までのルートはここまでの積み重ねでわかってるから、

「アウトレットに行かずに国道一七六号に乗るよ」

 マップではそれが一番無難そうだものね。まずはあそこの交差点を目指して走ってく。

「あれはなんだったんだよ!」

 話に聞く排気量マウントってやつで良いはず。

「小型バイクにもやるものなの?」

 排気量マウントの豊富な経験者じゃないからわかんないけど、排気量マウントの基本は大きな排気量のバイクに乗ってる人が、小さな排気量のバイクに乗ってる人にマウントを取るもので良いはず。だから小型バイクにマウントを取るのは成立するはずだよ。

「排気量マウントって、大型乗りが二五〇CCぐらいにするものだと思ってた」

 そんなイメージはあるよね。この辺の淵源として良く言われるのが、かつては大型免許を取得するのがトンデモないぐらい大変で、大型バイクに乗ってると言うだけで優越感を持つ人がいたからの説もあったよ。

 今だって大型免許を取るのは大変だし、さらに大型バイクを買うのはもちろん、これを乗りこなすのは半端じゃないと思うな。

「カノンがそんな調子だから良かったけど」

 でも気分は良くなかったぞ。あれは大学の駐輪場に停めた時だったけど、あのタイミングならわざわざ待ち構えていたのかな。

「ヒマ人だろ」

 そうなるね。いきなりみたいに言われたのが、

『それオモチャかよ』

 そう見えるのは同意だ。カノンも納車の時にしげしげ見直した時にそう思ったもの。カノンだってそう見えたのだから、そう見える人が他にいない方がおかしいだろ。だから、そう見ますよねぇって返したんだ。そしたら、

『そんなんで山女坂をよう上がれるもんや』

 それは買う時も心配してた。でもさぁ、五〇CCの原付でも登ってるのを見てたから、その点はそこまで心配してなかったって答えた。そしたらさ、

『そんなバイクやったら、バイクのホンマの楽しさを死ぬまでわからへんわ』

 バイクの本当の楽しさって言われても、夏休みに免許を取ったばかりの初心者なんだよね。

「小理屈君だって初心者だ」

 小理屈君とは小陸津君のことだ。本当は『おりくづ』なんだけど、とにかくあれやこれやと小理屈コネ夫君だから、小理屈君ってあだ名が付いちゃってる。小理屈君も一回生で、前期は登山通学してたんだよね。

 小理屈君も夏休みに免許を取ってバイクを買ったみたいだけど、中型免許を取ったみたいでネイキッドタイプの二五〇CCなのは知ってた。後期になってドットって感じで増えたバイク通学の一人だ。

 つまりって程じゃないけど、バイク歴ならドッコイドッコイの若葉マーク付きの初心者になる。どう考えたってバイクを乗り始めて三か月ぐらいだもの。カノンもバイクは楽しいとは思ってはいるけど、本当の楽しさなんてわかんないじゃない。だからそれは何だって聞いたんだよ。そしたらさ、

『パワーとスピードや』

 そこかよ。パワーはあった方が良いとは思うけど、本当の楽しさってするには薄っぺらい感じがしたかな。なんて言い返そうと考えてる時に杉山先輩が来てくれた。杉山先輩は、

『あんたは何CCやねん』
『二五〇CCですけど』
『へぇ、あのサイズで一二五〇CCもあるんか』
『そうじゃなくて単なる二五〇CCです』

 そしたら杉山先輩は爆笑して、

『オレから見たら二五〇CCも一二五CCも目クソ鼻クソぐらいしか差があらへんで』

 そう言えるぐらいのバイクに杉山先輩は乗ってるのよね。あれはカワサキのバイクで、

「なんでも輸出専用モデルを逆輸入して買ったとか」

 二〇〇〇CCぐらいあるって言われる超弩級の大型バイクなんだよ。学内でも一番大きいはず。そんなバイクに乗ってれば二五〇CCと一二五CCの差なんて誤差のうちかも。小理屈君は顔を青くして逃げてった。これは桁違いの排気量マウントされたのもあるし、相手は先輩だし、

「あの体を見たらビビるだろ」

 杉山先輩は超弩級バイクでも余裕で乗りこなせる体をしてるもの。

「そりゃ、山学アメフト部のラインメンだもの」

 山学アメフト部もお世辞にも強くはないけど、一般人から見たら筋骨隆々の大男だ。口の利き方も体育会系の先輩後輩みたいなところがあるものね。あれ以上小理屈君が頑張ったらぶっ飛ばされてかも。

「杉山先輩はそんな人じゃないよ」

 まあね。バイクに乗り始めてからわかって来たことだけど、スクーター族はともかくバイク族って同志的な連帯心がある人が多いのよね。

「マイナー趣味のオタク同志愛みたいなもの」

 そこまで卑下するな! 間違ってるとは言いにくいけど。でね、カノンのモンキーは学内で一台だけなんだよ。それに関心を持った杉山先輩がちょっと前に声をかけてくれたんだ。

「なんか目を輝かせてた気がした」

 カノンでもオモチャに見えたけど、杉山先輩ならなおさらのはずだろ。なのにまさに興味津々って感じであれこれ聞かれたんだ。そして頼み込まれたから乗らせてあげた。もっとも学内だけだよ。そしたらさ、

『ちゃんとしたバイクやんか!』

 さらに、

『なんちゅう楽しいバイクや♪ こんなんをセカンドバイクにしてもたら、浮気しまくるわ』

 いくらなんでもって思ったけど、杉山先輩でも超弩級バイクを乗りこなすのは大変だってさ。通学だけならまだしも、

『コンビニに行くのも億劫になるねん』

 ツーリングだって取り回しとか駐輪場所に気を遣うとか。それはなんとなくわかるかな。

「大きなバイクの人って駐車場でもバックさせて停める人が多いものね」

 バイクにバックギアはないから、乗ったまま足漕ぎでバックさせるのだけど、あれって下りてバイクを取り回すのが大変なんだって。モンキーやダックスみたいにホイホイって感じにならないぐらい。

 ミルのダックスにも興味津々で、どっちも良いって褒めまくってくれた。そうなんだよ、杉山先輩は排気量マウントなんて頭にも無い人なんだよ。それからも、あれこれ気にかけてくれてる感じ。杉山先輩に言わせると、

『バイクのホンマの楽しさは乗ってるやつが決めるもんで、誰かに言われるもんやあらへん』

 大型には大型の良さと悪さがあり、小型には小型の良さと悪さがある。当然のように乗り方も楽しみ方も変わって来るって。二五〇CCは日本のモロモロのバイク事情からベターとはされてるけど、

『オレに言わせたら中途半端や』

 大型のような突き抜けたパワーとスピードがあるわけじゃなく、小型のような割り切った小型軽量があるわけじゃないからだって。良く言えば大型と小型の良いとこ取りだけど、悪く言えばそうなるかもぐらい。

 もっともだからと言って二五〇CCを否定してる訳じゃない。あくまでも先輩の感想だけ。小理屈君にも触れたけど、

『排気量マウントする奴は、その場で自分より大きいバイクがおったらせんはずやねんけどな』

 言われて見ればそうかも。排気量マウントが出来る最大にして唯一の根拠は、自分のバイクの排気量が大きい事だけだものね。今回もそうだけど、マウントしてるところにさらに大きな排気量のバイク乗りが出て来ればお手上げになってしまう。

「小理屈君はまさにそのままのアホだ」

 学内の通学バイクは原付一種か二種が多いけど、杉山先輩の様に大型バイクの人もいるし、中型でも四〇〇CCの人だっているものね。

「そもそもで言えば、学内で排気量マウントなんてやらかせばシコリが残るに決まってるよ」

 それもそうだ。排気量マウントはやる方はスッキリするかもしれないけど、やられる方は気分が悪いなんてものじゃない。だからツーリング先で見知らぬ相手に仕掛けるケースが多いはず。学内でなんかでやらかしたらわだかまりが残るだけだ。小理屈君は何をしたかったんだろ。