渚の愛車はモンキーだ。時々、モンキーのどこが良いのか聞かれるんだけど、そんなもの一言に出来たら誰も苦労しない。モンキー愛を語るのなら、うんと、うんと、NinjaとかHAYABUSAのようなスーパースポーツと較べるのが良いかもだ。
スーパースポーツは強大なパワーとスピードがある。けどさぁ、モンキー乗りに言わせるとそれだけしかない。そうするのも極論だけど、その方がわかりやすいだろ。あくまでもモンキー乗りの視線での比較だよ。
スーパースポ―ツは強大なパワーとスピードを生み出すために、それを支える車体の大きさと重量、購入価格と維持費用を必要とする。当たり前の話だけど、デカいし、重いし、カネだって必要だ。
バイクがデカくて重いと取り回しに難儀するし、維持費は財布を直撃する。パワーとスピードを手に入れるために他のすべてを犠牲にしているのがスーパースポーツだ。逆に言えばモンキーは小さくて軽いから取り回しはラクだし、維持するにも財布に優しいバイクなんだ。
はぁ、はぁ、はぁ、わかるか? モンキー愛を語るって半端な覚悟じゃ出来ないんだよね。バイクって乗り物はメリットとデメリットが裏表の事が多すぎるのよ。小さいと言うのは見栄えが悪いし、軽いのは走行安定性で劣ることになる。
さっきスーパースポーツのメリットはパワーとスピードしか無いってしたけど、バイク乗りにとってパワーとスピードのメリットは別格として良いほど大きいのよ。だからパワーとスピードを手に入れるためのデメリットなんて些細なことになってしまう。
バイク乗りってさ、同じ排気量でも車体が大きいのを好む傾向は確実にあるのよ。大きくなれば取り回しが大変になるのだけど、大きいこそバイクだし、それを乗りこなすのがバイク乗りって心意気みたいなもの。
そういうバイク乗りの夢と憧れの頂点がスーパースポーツであって、それに伴うデメリットなんて気にもしないぐらいかな。なに言ってるかわかんない人も多いと思うけど、渚だってわかるのはわかる。
その点で言えばモンキーは話にならないのよ。パワーとスピードはシンプルにはパワー・ウエイト・レシオになるけど、スーパースポーツは一・〇、モンキーは十一・〇。つまりは桁違いで、バイク乗りが求めるパワーとスピードはモンキーにないんだよね。
そこからモンキーの良いところを語れって言われても、どんだけ大変かわかんないだろうな。こんなもの無理ゲーだってこと。とはいえ、だからと言ってモンキー乗りが卑下したり、卑屈になってるわけじゃないぞ。だから説明するのが大変過ぎる。
最初にスーパースポーツを対照に出したのは、その方がモンキーの特徴を少しでもわかってもらえると思ったのはあるんだ。スーパースポーツはパワーとスピードのために他のデメリットにすべて目を瞑ってるバイクだけど、モンキーはパワーとスピードに目を瞑って他のメリットを活かしてるバイクかな。
バイク乗りの夢と憧れのパワーとスピードに目を瞑ってるから、その魅力を語るのは手強すぎるってこと。だからあれこれ無理をする必要が出てくる。どんな無理かって、そんなものイキがりと強がりだ。
維持費のメリットを訴える人も多いかな。これは目に見えるメリットなんだけど、どうしたってバイク乗りへの訴求力は弱くなるところがある。どうしてかって、そんなものバイクは趣味の乗り物だからだ。
モンキー乗りが本当は主張したい魅力って走りなんだ。けどさぁ、バイクの魅力の根本であるパワーとスピードが無いじゃない。レビューなんかでよくあるカタログスペックの比較じゃ笑われるだけ。
スーパースポーツのパワーとスピードだって、あんなもの高速を含めた公道で使いようがないものってするのも単なる強がりだ。あれだけのパワーとスピードは使えなくたって、所有するだけで嬉しいとか、満足するのが趣味の世界だもの。
だからかなり捻ったロジックが必要になって来る。バイクの世界にはこういう格言があるのよ。
『バイクはカブに始まってカブに終わる』
これは釣り人の鮒に始まって鮒に終わるのもじりだけど、ある程度の真実はあると思ってる。これも今とは状況が変わってしまってる部分が多いのだけど、昭和の時代なら最初に乗るバイクとしてカブがポピュラーだったんだって。
それも五〇CCのスーパーカブで、近所のオッサンとかが仕事とか、通勤とかで乗ってる風景が日常だったぐらいかな。今よりノンビリした時代だから、タンデムで乗せてもらったり、小学生の高学年にもなれば、空き地で自分で運転したりも良くあったとか。
カブは世界の名車ではあるけど、やっぱり実用車だから、バイクが好きになればパワーとスピードと格好良さを求めるようになるのは必然だ。ひたすら大きなバイクを求めて行くのだけど、そこにバイクと言う乗り物の特性が出る。
歳を取れば体力も衰えるから大きさや重さだって負担が大きくなる。シンプルには持て余してしまうんだよ。それでもバイクに乗りたいから、パワーとスピードを割り切って軽量のカブに回帰してくるぐらいの感じで良いはず。
ここでもう一つ問題提議をしたいのだけど、モンキーは初心者の入門バイクであるかどうかだ。渚は違う気がしてる。違うと言っても、乗りにくいとか、クセが強すぎるじゃないよ。乗りやすさなら初心者用の入門バイクの条件は余裕で備えてる。現実にもそういう目的で買ってる人も多いと思ってる。
でもね、モンキーってバイクの格言の終わりのバイク、上りのバイクだと渚は思ってる。モンキーの走りってパワーとスピードを犠牲にしたものだけど、その走りで満足できる境地に達した者が乗るバイクって言えばわかってもらえるかな。
バイクライフがカブで終るためには、サイズダウンを行う事になるけど、どこでサイズダウンを終わるかの個人差も大きいよ。でもね、ある段階で、スパって感じでカブクラスに戻ってしまう人も多い気がするの。
これはあくまでも印象だけど、二台持ちにする人っているじゃない。あれだってツーリング用の大きなバイクと通勤とか買い物用のスクーターなら良いのよ。けどさぁ、セカンドバイクにモンキーを選んでしまった人はどうかってお話だ。
ここもだけど前提は二台持てるぐらいだから、それなりにバイク歴が長くて、歳も取って来てる前提だよ。両方乗ろうとするのだけど、いつしかモンキーに偏ってしまう人が多い気がしてならないのよね。
二台持ってるからモンキーの非力さはよりわかるし、不満があればいつでも大きなバイクにするのも出来る環境じゃない。なのにモンキーに偏って行くんだよね。あれってさ、モンキーの走りに満足してしまった以外の理由がないはずだ。
これじゃ、わかりにくいか。ずっとバイクに乗ってたら、どういう走りが出来たら自分が満足できるかの基準が出来てるはずなんだよ。言い方を変えれば、パワーが欲しいはあっても、それがひたすら欲しいと言うより、これだけあれば十分ぐらい。
そこに満足を見出しちゃうと、パワーとスピード以外のモンキーの魅力が輝きを増して来る感覚と言えば良いのかな。ここの点だけど、我慢じゃないのよね。我慢と思ってる人は不満となり、サイズアップに動くもの。
初心者が入門用にモンキーを購入したら、どうしたってパワーとスピードにそのうち我慢が出て来るし不満になるはずだもの。そうなるのは渚だってわかるよ。そうなれば小さいとか、軽いとか、維持費が安いなんてメリットは単なる我慢の材料になり、そのうち振り切られてしまう。
けどさぁ、ダウンサイズに傾きだしたバイク乗りなら、自分の求める走りって、こんなもので十分だと感じるし満足もしてしまう。そうなってくると大きなバイクのデメリットがドンって感じで重くなってくるぐらい。
ああ、たくメンドクサイ。ここまで語らないとモンキーの魅力って伝わらないし、伝わったところで、わかんない人には絶対に伝わるものか。それとさぁ、これだけ理論武装しても、やっぱり非力だ。
よくさぁ、市街地走行なら問題ないってレビューがあるじゃない。あんなもの当たり前だ。市街地走行ってさ、ひたすらクルマの後ろを走るだけだろうが。あんなところなら、スクーターでもポルシェとか、フェラーリとか、ランボルギーニと肩を並べて走るどころか追い抜く事だって出来るだろうが。
それより何より、バイク乗りは市街地走行なんて好きじゃない。あれは仕方ないから走ってるだけ。バイク乗りが走りたい道ってね、左右の視界が広がっていて、クルマがあんまりいなくて、信号も滅多にない道だ。そういう道にたどり着くために市街地を突破してるだけ。
でもさ、そういう道って大きな声では言えないけど、走っていて気持ちが良いからバイクだってスピードが出るのよね。大きなバイクにしたら飛ばしてるって意識すらないかもしれないけど、あははは、置いて行かれる。
抜かされたって走行性能が桁違いだから地団駄踏むほどの悔しさはないけど、どこかでまだコンチクショウの気持ちがあるのが若さの証明だと思ってる。そこまで渚は枯れてないからね。
それとさ、バイク乗りが集まって来るコースには、バイク乗りが集まって来るスポットがあるんだよ。道の駅とか、コンビニ駐車場の時もある。休憩ポイントとして手頃だから、渚も休憩するのだけど、どうしたってコンプレックスを持っちゃうかな。
そういうところって、どこから湧いて来たのかと思うぐらい大きなバイクがずらって感じで並んでるんだよ。バイク乗りって大きなバイクが好きだし、渚だってそういうところはあるから場違い感があるもの。
排気量マウントはされたことないけど、なんかさ、したくなる奴の気が少しだけわかったぐらい。排気量マウントの定番は、
『そんなバイクじゃ、バイクの本当の楽しさがわからない』
言いたくなるかな。だって逆立ちしても大きなバイクの走りを体感できないものね。けどさぁ、けどさぁ、バイク乗りって、ただバイクを走らせるのに魅力を感じる人種なんだよ。余りあるパワーを使うのもバイクだけど、非力なパワーを振り絞るのもバイクの走らせ方だと思ってる。
とにかく、そういう理論武装を常に求められるのが、モンキーだけじゃなく、小型乗りの宿命なんだよね。どうだ、思い知ったか。