日暮れへのツーリング(第2話)ツーリングコース

 バイク乗りが目指すのは、

『カントリーロード』

 全国には名ツーリングコースとされるものがあれこれあるけど、神戸から手軽に行けるところって、あったっけレベルなんだ。この辺は知名度の問題もあるし、名ツーリングコースとされるところは絶景もセットみたいなところもあるのよね。

 でね、ツーリングコースって行き当たりバッタリで探すのもあるけど、渚はマップで探すかな。クルマとバイクって一括りにされることは良くあるけど、クルマとバイクでは走れる道が変わって来る。

 クルマってさ、軽自動車でも一.五メートル弱ぐらい幅があるのよね。これがどれぐらいの幅の感覚になるかだけど、センターラインのある一般道の車線幅で三メートルなんだよ。三メートルの車線幅で車幅が一・五メートル弱なら余裕がありそうだろ。

 けどさぁ、そんな軽自動車でもセンターラインの無い道になると話が変わって来る。ああいう道って一車線半ぐらいって言う事あるけど、額面通りなら四・五メートルだ。軽自動車の車幅が一・五メートル弱だから余裕と思いそうだけど、走らせてる実感として狭く感じると言うか、対向車とのすれ違いに気を遣うだろ。

 これに対してバイクの車幅って七五〇ミリぐらいなんだよね。これは大きなバイクでも、小さなバイクでもそんなに変わらない。そりゃ、ハンドル幅だから、あんなもの二メートルもあったら運転できないもの。

 つまりって程じゃないけど、クルマに較べたら狭い道への対応能力が広いぐらい。バイク乗りだって狭い道が好きな訳じゃないけど、マップに記されてる道ならまずどこでも走れるのがバイクだ。

 それと走りながら目に付いた道に突っ込んでみるのだってある。クルマでもそういう走り方をする人もいるみたいだけど、そういう時に心配するのは対向車が来た時のすれ違いと、その道が行き止まりになってた時のターンなんだよね。

 そういう点でもモンキーは強いのよ。バイクでも大きくなれば、無暗に突っ込むのは怖いそうだけど、ターン問題でモンキーは有利なんだ。つうかさ、モンキーがターンできないぐらいなら、他のバイクでも無理だろ。

 もっともグーグルマップのストリートビューの網羅振りは充実してるから、たいていは『これなら走れる』と下調べしてから突っ込むけど、道に迷って突っ込むことがあるのもツーリングだ。気まぐれもあるけどね。

 そうだそうだ、ツーリングの基本装備のナビは使ってない。あれこれ理由はあるけど、バイクの振動で壊れこともあるっていうし、それ以前に渚のスマホもだいぶ年季が入っていて、バッテリーがかなり怪しくなってるのもある。それを言えばUSB電源を付けてないのもある。

 ナビを使って走る人を否定する訳でも、バカにしてる訳でもないけど、渚に言わせれば、これもまたモンキーの走り方ぐらいに思ってるぐらい。と言うのはさ、これもモンキーも含めた小型バイクの制約なんだけど、高速も自動車専用道も走れないんだよ。

 高速はまだしも自動車専用道、とくに無料のところは走らせてくれたって良いと思うけど、こればっかりは仕方がない。ひたすらツーリングは下道専科になるのだけど、下道専科だから段々と走れる範囲を増やして行くって感じになってるんだ。

 これは小型乗りって言うより渚の流儀になると思うけど、ある地点までツーリングしたら、そこまでの道を覚えるじゃない。どういうところを走って、どういうものが目印になるのもあるし、どれぐらいの距離でどれぐらい時間がかかるかもだ。

 別に特殊技能を使ってる訳じゃなくて、誰でもそれぐらい出来るよね。そしたら、そこから先に伸ばしいて行くのもありだし、他のルートからその地点を目指すのだってあるじゃない。そうやって、頭の中に自分用のツーリングマップを作っていく感じかな。

 これだって、誰でもそうしろって言う気はないからね。とくにさ、初めて行く時は迷いやすいもの。行き着くまで三度ぐらいかかったり、それこそ走りながら、ここはどこ、わたしは誰状態にも何度もなったぐらい。

 とくにナビが有用だと思うのはマイナーな名所めぐりの気がする。バイク乗りってメジャーなところを避けて、マイナーなところに行きたがる人種でもあるのよ。要はクルマで混んでないところだけどね。

 空いてるのは良いのだけど、一方で人気もないから道路案内もプアなところが多いのよね。食べ物屋さんだって、そういうところはあるもの。近くには来てるはずだけど、ここからどうやったら行くのかわかんないぐらい。そういう時にナビって威力を発揮するのじゃないのかな。使ってないから知らんけど。


 この辺の体で覚えるのはバイク乗りなら普通の感覚だと思うのよね。たとえばだけどモンキーには今どきの装備が付いていない。あれこれ無いけど、代表的なものならタコメーターとシフトインジケーターかな。

 モンキーを買った時にはカスタムで付けようかと真剣に考えたけど、高いからあきらめた。というかさ、あんなもの見ながらみんな走ってるのかな。たとえばシフトだけど、あれってエンジン音とトルク感覚で変えるはず。

 こうなってきたらシフトアップだとか、逆にシフトダウンとかだ。とにかく非力だから、市街地走行だったらしょっちゅうシフトチェンジやってるようなもの。あれだけやらされれば、体が勝手に反応してシフトを変えてるだろ。

 格好良くいえば、モンキーの心臓と会話しながらやってるんだ。そりゃ、最初はあった方が便利だろうけど、慣れたら不要の気がする。もちろん、それでも欲しいって人を否定する気はないけどね。あったら、あったで便利そうだもの。

 古臭い乗り方って言う人もいるだろうけど、どう乗って楽しんでも良いのがバイクだと思ってる。それぐらい自由な乗り物だもの。もっともだけど、最近ではバイクの乗り方だけじゃなく、あれこれと、

『こうしなければならない』

 こうやってSNSで頑張る人が増えてる気がする。そうやって自分の意見を主張するのは何の問題も無いのだけど、従わない人をとにかく攻撃しまくる人が目立つのよ。例えにするのは無理があるけど、バイクならナビを使わないのはアホの極みみたいとすれば良いかも。

 世の中にはある事をするのに、あれこれと手法がある場合があるじゃない。なかには、そんな七面倒というか、やりにくそうってのもあったりする。でもさぁ、本人はその手法に慣れ親しんでいてなんの不便も無いってのも珍しくもないのよ。

 当人が困ってないのなら放っておけと渚なら思うけど、SNSとかになれば敵視して相手を黙らせるまで攻撃しまくるのも普通にいる。もちろんリアルでもそんな面倒臭いのはいるけど、SNSでは暴れ回ってる感じが強い気がする。

 あんまり触れたくないけど政治なんかそう。SNSで政治なんか、かつてはどちらかと言うとマイナーだった気がするんだ。マイナーは言い過ぎとしても、時事の話題の一つぐらいの扱い。

 これがさ、なんかひたすら湧いて来てる。あれってさ、政治がSNSの有用性を認めたからだとは思うけど、とにかくウザイ。だってさ、とにかく政治信条が違う相手は叩き潰すしか考えてない。そのためには、なんでもアリなのが正義ぐらいにしか見えないもの。

 政治ってそういう世界なのかもしれないけど、ある政治思想の方はとにかく戦争反対でしょ。そりゃ、戦争賛成とか、戦争推進には渚だって反対だけど、たとえ攻め込まれたって話し合いですべて解決って主張なのよね。

 だいぶ前になるけど、酒でも酌み交わして話をすればなんて意見が出てたぐらい。そうやって揉め事を解決出来たなら渚だって文句はないけど、国内で、この平和な日本で、政治信条がちょっと違うだけで話合いすら出来てないじゃない。

 それすら出来ないのに、鉄砲持って、戦車に乗って攻め込んで来る異国の人とどうやって話し合いで解決するのか不思議すぎる。でも、そんな事は気にもしないでひたすら頑張ってるのはなんだか過ぎるよ。


 政治は置いとく。置いとけないのが政治だけど、別に日本をどうしようって気概は渚にはない。それより渚には切羽詰まった大問題がある。切羽詰まったも飾り過ぎだな。手遅れになってしまった大問題だ。

 渚がモンキーにたどり着いたのは、若いけど悟りの境地に入れたわけじゃなく、当然のようにサイズダウンの成れの果てだ。つまりは。それだけの年数が経ってしまってる。そうなんだよ、渚だって若い頃は中型を乗り回してた。

 バイクこそモンキーで落ち着いてるけど、男も同じように落ち着いたり、あきらめたりしてるわけじゃない。この歳になっても燃え盛るのは、

『籍を汚したい』

 もとい結婚したいなんだよ。けどね、もう普通の意味での結婚は無理になってしまってる。何が普通かはSNSなら揉めそうだけど、そんなもの愛する人の子どもを生むだ。こればっかりは女は損なんだよね。

 同い年の男ならまだ作れるのよ。でも女となれば極端に難しくなる。それこそ老化ってやつで、なかなか妊娠しないし、妊娠したって流産してしまうリスクが高くなるし、トドメは子どもだって問題がある確率が跳ね上がる。

 それ以前にこの歳の女と結婚したいなんて男を見つけるのが至難になる。そりゃ、男だって結婚するからには子どもだって欲しいのは普通だろ。わざわざ渚ぐらいの女を選ぶとなれば、そういう理由のある男になってしまうのよね。

 後悔先に立たずって良く言ったもので、気が付けば売れ残り商品どころか、廃棄処分品になってるのが現実だ。でも、あきらめたくない。とは言え、誰でも良い訳じゃない。いくらこの歳になったって、やりたいのは幸せな結婚だ。誰が離婚まで織り込み済みの結婚なんてやるもんか。

 だったらあきらめろって言われそうだけど、夢を持つのは渚の勝手だ。誰の意見だって聞くもんか。現状がひたすらシビアなのは放っておいてくれ。