十月のある日にカズ坊に図書館のミーティング・ルームに誘われた。考えれば二人っきりになるのはスタンツの練習以来。スタンツの練習の時はそこまでドキドキしなかったけど、今日は妙に意識してまう。それにしてもなんだろ、漫才の新ネタの練習かな。
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「ユッキー、夏休みの宿題の時はありがとう。それだけやなく、色々助けてくれてありがとう。せめてもの感謝の印です。お誕生日おめでとう」
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「嬉しい、もらってイイの」
「もちろんや」
「開けてもイイ」
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「うわぁ、これ欲しかったんだ。よくわかったね」
「そりゃ、夫婦漫才やってるから」
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「ありがとう」
「ユッキー様に喜んで頂ければ幸せです」
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「カズ坊、おはよう」
「おはよう、ユッキー。なんじゃ、そのチャラチャラしたペンケースは」
「カズ坊には物の価値がわからんのか」
「わからいでか、ほいでも人には合う合わへんがあるんや。ユッキーが使うたら猫に小判、豚に真珠や」
「そう見えるんはカズ坊のセンスが便所虫以下って白状してるのと一緒や」
「言いやがったな」
「どっか間違いでもあるか」
クリスマスの時も贈ってくれた。やっぱりミーティング・ルームに呼び出されて渡された。カズ坊の不思議さは、ウチにプレゼントしているのを他人、とくにみいちゃんに知られるのを怖れてるくせに、それでもウチにプレゼントしてくれる点。それも、ウチが密かに欲しがっていたものを何故か探し当てて贈ってくれる。
一回も『あれ欲しい』『これ欲しい』なんていったことなんかないのよ。それなのにカズ坊にはなぜかわかってしまうみたいなの。それだけウチのこと見てくれてるんやと思うし、それはすっごい嬉しいんだけど。でも誰にも知られたくないのも一緒。
このプレゼントをもらう時なんだけど、ミーティング・ルームで二人っきりなの。その時にウチは変われるの。ウチは普通に受け答えできるの。氷姫でもなく、ユッキー様でもない普通のウチに。表情だけは自信がないけど、たぶん一番普通の、一番可愛いユッキーに近い自分に。でも、翌日にはぶち壊し。あの漫才が炸裂しちゃうと、カズ坊からのプレゼントだって誰も思わなくなっちゃう。
ウチは自慢したいの、ひけらかしたいの。カズ坊からもらったって言い触らしたいの。それで誤解でも何でもされたいの。なのに、なのに、カズ坊はそうさせないために漫才しているとしか思えない。カズ坊にとってみいちゃんがどれだけ重いか思い知らされる。ウチより何倍も、何十倍も。それでもウチの変化には気づいたみたいで、
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「ユッキーはボクからプレゼントもらう時だけは別人や」
「そうかしら」
「でも、年二回しかないから織姫みたい」
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「カズ坊、織姫って言われるのは光栄だけど、悪いけどそれだけはやめて」
「一年に一回しか会えへんからか」
「それもあるけど、お願い」
それでもウチは嬉しいの。その日もカズ坊からクリスマス・プレゼントもらってルンルンで家に帰ったんだけど、どうも腹が痛む。お腹でも壊したのかとおもったけど、段々痛みは強くなっていくの。
翌日になっても痛みは収まるどころか増してく感じ。我慢してたんだけど、痛いものは痛い。ウチの不幸なところは『痛い』の表情さえ出ないところで、誰も気が付いてくれなかった。家に帰ってもますます痛みは強くなり、
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「今日はご飯はいらない」
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「カズ坊、おはよう」
「ユッキー、ちょっと来い」
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「虫垂炎です」
手術が済んで意識が戻った頃にカズ坊が血相変えて病室に飛び込んで来てくれた。ウチはホンマに嬉しかった。でも手術されちゃったのは女としては残念だったから、
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「私、キズモノになってもた」
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「どこかキズモノやねん。そんなこと言う奴はボクがぶっ飛ばしたる」
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「盲腸なんて切ったらしまいやし、すぐに元気になる。みんなユッキーのこと心配してるし、早く帰って来て欲しいって思てる」
「カズ坊も?」
「そんなもん答えるまでもないやろ」
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「やっぱり山本君は木村さんとコンビ組んでただけの事はあるわ」
「お見舞いに行く話が出た時に、すぐに手を挙げて、それこそ走って行ったものね」
「モモコもチラッと見たけど、凄い形相だったよ」