カズ坊とは時間の許す限りデートした。デートするたびにしっかりと結ばれていくのも実感してた。一方で百日がカウント・ダウンされていくのもわかった。カズ坊と結ばれて一か月後ぐらいにそれを感じた。感じただけじゃなくすべてが見えた。カズ坊には出来るだけ隠そうとしたけど、カズ坊もさすがに医者だわ、
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「ちょっと痩せたんちゃう」
「はははは、わかった。大好きなカズ坊に気に入られようと思ってダイエット頑張ってんねん。わかってくれて嬉しい。そんなカズ坊と一緒にいれて幸せ」
「いっぺん病院行った方がエエんちゃうん」
「そんなん、毎日行ってるよ。これでも医者やから安心しといて。こんな事まで心配してもらえてすごい幸せ、カズ坊大好き」
カズ坊にはウチとの幸せな記憶だけ残れば満足。たった百日足らずのウチに人生のすべてを費やしてもらって欲しくないの。でも、カズ坊の気持ちも見えてるの。カズ坊はウチを愛しすぎてる。このままじゃ、ウチ以外に誰も愛せなくなってしまう。それはそれで嬉しいけど、ウチはそうさせたくないの。
ウチはカズ坊への手紙を書いた。情けないけど、手紙を書くのさえ大変になってきてる。字がどうしても乱れちゃうけど、カズ坊許してね。この手紙がカズ坊のところに届くころにはウチは、もう起き上がることも出来なくなってる。そうタイム・リミットのステップがまた一段上がるってこと。
ウチが倒れたら、カズ坊はウチに会ったらいけないの。会えばカズ坊は優しいから誓っちゃうし、誓えば何があっても守っちゃうのも見えてる。だからウチは誓わせない。そしてね、カズ坊を癒して、新しい幸せをつかんでもらうの。会えなくなるのは寂しいけど、それぐらいはカズ坊のために我慢できるもの。
倒れたウチはカズ坊のいた病室に入った。最後の時間を過ごすのはここしかないの。カズ坊の接近は完全に遮断した。そしてこの遮断はカズ坊がいくら頑張っても突破できないよ。これもそうなるのは決まってる。そして、もうすぐ院長が来る。
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「木村先生。お願いがあります」
「あら、なんでしょうか」
「ご友人との御面会を許可して頂きたい」
「誰でしょうか」
「加納志織さんです」
シオリは来る。明日に必ず来る。ウチの最後の日に来るわ。シオリこそがカズ坊の次の相手のはず。シオリだってあれだけ辛い思いをしてカズ坊を慕い続けたんだ、ウチはシオリに託したい。お見舞いに来てくれたシオリに、
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「カズ坊のことをお願い。きっと落ち込むと思うから、出来れば相談相手になって欲しいの。もしシオリさえ嫌じゃなければ、カズ坊の恋人になってくれたら嬉しい。そこまではちょっと無理だったら、できれば誰か良い人を紹介してあげて。どうかなぁ」
最後の力を振り絞って見ても微妙。シオリのカズ坊への想いは濁りないけど、シオリには苦難の道があるのだけはわかる。一番大変なのは最後のカードを手に入れていないこと。でもコトリは既に握ってる。これはどういうこと。カズ坊と結ばれるのはコトリなの。
でもそうとは言い切れないところもある。そんなに簡単な話とは思えないの。ウチはシオリがイイ気がするから、
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「あれっ、そっか、なるほど、そういうことか。たしかにどっちがイイかなぁ。私はシオリが良いと思うけど」
ここまで口に出しちゃったけど、なんか自信がない。コトリでも悪い気があんまりしないのよね。でもね、でもね、コトリにはなんか影が見えるの。その影がなにかはわからないけど、良い感じだけはしない。でも二人のこれからの関係はシオリにとって辛いものになりそうなのだけはわかる、わかるけど、シオリには何かがある。
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「うんうん、シオリもそれじゃ辛いかもね。でも必ずしもそうなるとは限らないみたいだし、あははは、カズ坊は幸せ者ね。こんなにみんなに想ってもらってるのなら、きっと大丈夫だわ。ちょっと安心した。これで私も心配せずに済みそう」
もうウチも限界。シオリ、これだけは悪いと思うけど、ちょっと体貸してね。きっとできるはず。
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「ゴメンネ、ちょっと疲れちゃったから寝させて。今日は来てくれて本当にありがとう」
木村由紀恵が亡くなるのは五日後、そうカズ坊と結ばれてちょうど百日目。なんて正確なんだと笑っちゃうぐらい。この先の計画だけど、シオリは必ずカズ坊に会いに行く、その時にウチはカズ坊に移る。カズ坊に移ったウチはカズ坊の恋の手助けをする。それにしてもカズ坊の次の相手はシオリなんだろうかコトリなんだろうか。
どっちでもカズ坊、喜ぶだろ。女神様と天使で文句言ったら、ウチが許さない。いう訳ないか。カズ坊がホモじゃないのは良くわかったし。