シオリはあれから毎日見舞いに来てる。ウチはシオリとは顔合さんようにしてる。せっかくの二人の時間を邪魔するほどウチは落ちぶれてないつもり。カズ坊のリハビリにも熱が入ってくれてる。やっぱり女の力は凄いわ。ウチではいくら頑張っても、ああはいかへんかったもんな。その点は悔しいけど、カズ坊のためにはなったから喜ばなあかん。
そんなシオリから二人で会いたいの申し出があった。どうしよかと思ったけど、高校の同級生やし、会わないのも変やし会うことにした。夕食からって言われたんだけど、幸か不幸かエライのが飛び込んできて時間がかかったんで、バーで待ち合わせにした。
シオリの話は妙だった。ウチのことを根掘り葉掘り聞きやがった。そう、ウチがカズ坊を好きだろうって、挙句の果てに、
-
「木村さん、今でもでしょ?」
「何が」
「山本君」
なんでそんなものを聞きたいのか不思議で仕方なかったけど、こうまで言いやがった。
-
「だって悲しすぎるやん。山本君が困った時だけユッキー様で現れて、済んだら去っていくなんて。退院したら山本君いなくなっちゃうよ。二度と帰ってこないかもしれないよ。ホントにそれでイイの」
カズ坊と女神様の組み合わせなんて、ガメラと白雪姫が付き合うぐらい想像しにくいからな。ガメラと白雪姫だからゴールインは当然のようにせえへんかってんけど、シオリはガメラのお節介をすっごく重いものとして受け止めているのがわかってもた。そりゃ、
-
『命の恩人。今の私があるのはすべて山本君のお蔭』
ウチとしては退いてくれたら助かるんやけど、シオリがなにを考えとるんかようわからんかった。他人事やないから歯切れが悪くなるけど、ガメラが好きやったら行ったらエエやんか。ウチもガメラが好きやから、こんだけ一生懸命お世話してるんよ。はっきりいうけど下心バリバリよ。
好きやけどライバルを見て諦めるってのは現実としてあるけど、シオリは女神様なんよ。悔しいけど今でも間違いなくそうなんは見て分かった。ガメラ大好きのウチですら女神様には今でも勝てんと思たぐらいなんよ。だからウチが退くのならまだ話がわかるけど、これはどういうこと。
ガメラの様子もちょっと変。付き合ってた時期があったのは、ガメラがシオリのことを、
-
『シオ』
こう呼んでるだけでもわかる。一度は切れたにしろ、こうやってわざわざお見舞いに来てくれて、病室に轟く大号泣とあの大絶叫、
-
『良かった、良かった、本当に良かった、生きてさえいればイイの。後は任せといて、寝たきりでも一生面倒私が見るから。絶対私が見るから安心して、もう大丈夫だから』
これ叫んだのは女神様のシオリやぞ。シオリにそこまで言わせてヨリを戻さへん男なんてこの世におらへんやろ。それやのにウチの顔を見るたびに、
-
「なんでユッキーはシオが見舞いに来る時に顔出してくれへんのよ。そうしてくれたら、シオもちょっとは落ち着いてくれるのに。ボクは病人やぞ、これじゃあ治るものも治らんようになるわい」
そんなことを考えてる時に突然ウチの頭の中にエレギオンのイメージが湧いてきたの。なにか深刻な話を次座の女神としてる。話の内容はほとんどわからへんねんけんど、ウチに課せられたのは、
-
『結ばれれば百日で死ぬ』
なんのこっちゃと思ったけど、イメージは入れ替わり、今度は兵庫津みたい。このシーンは覚えてる。次座の女神と記憶の封印を掛け合った時のもの。ウチはこう言ってる、
-
『一つだけ悪いと思うけど、わたしは主女神を預かる事によって結ばれたら百日で死ぬ呪縛から逃れてしまうの。その代り、心から満足できる想いは二度とできないの』
百日だってウチは構わへん。たとえ一日だって構わへん。たったそれだけのことで、カズ坊と結ばれるんやったら、ウチはなんの悔いもあらへん。ウチは瀕死のカズ坊を救う時に誓ったんや。カズ坊を助けるためやったら、ウチの命を差し出すって。それが百日も結ばれる期間があるんやったら十分やんか。
女神を移すのは前にやったことがある。念じれば良いだけ。移す相手はシオリでエエやろ。つうかとりあえずシオリしかおらへん。シオリもカズ坊好きやったら、ウチの百日が済んでからで我慢してくれ。ウチだってたった百日結ばれただけで、カズ坊を死ぬまで独占する気はあらへんから。
すうっとシオリに主女神が移っていくのはわかった。なんか主女神を移すのは、ウチが百日で死ぬこと以上に重大な事の気もしたけど。今のウチにカズ坊と結ばれる以上に重要な事はあらへん。ほいでもこれでホンマにカズ坊と結ばれるんやろか。カズ坊がホモに転向しとったら困るんもあるし。