エミの青春:大事件

 かなり高校生活が楽しめるようになったんだ。部活までは無理だけど、放課後も以前みたいにシンデレラよろしく飛んで帰るのはなくなったものね。お小遣いも少し増えたから帰りにモスとかに寄ってダベってる日もあるんだ。

 エミは駅まで自転車で行って、そこから電車通学。帰りはその逆。学園の最寄りの駅はそれなりだけど駅ナカの店もあるし、ちょっとした駅前商店街があったりするところ。こじんまりしてるけど活気があるって感じかな。

 帰りもサヨコと一緒の事が多いけど、サヨコの家は駅の南側のニュータウンにあるんだよね。だから駅でサヨナラするんだけど、これに最近は大伴先輩が加わることが多くなってる。

 大伴先輩は例のセレクト・ファイブの一人でハンドボール部のエース。学年は一つ上なんだけど、本来なら部活があって一緒のはずがないんだけど、

 「北翔戦でエライ目に遭って・・・」

 北翔はこの辺では知らないものがない札付き校。正式には極楽大附属北翔高校なんだけど、元は北翔実業って言って、神戸中の不良が集まるとまで言われた学校。極楽大の系列校になって昔よりマシになったと言われてるけど、それでもとにかく気性の荒い学校で、大伴先輩はラフプレーに巻き込まれて左足を骨折。

 「あいつら、マジで足の骨折りに来とったわ」

 おかげで松葉杖生活になり、こうやって一緒かな。

 「ミツ兄ちゃん。抜け駆けだよ」

 大伴先輩の名前は御行って書いて『ミツラ』と読むのだけど、サヨコの近所。小さい時からよく遊んでたんだって。

 「違うぞ。ボクは単に家に帰ろうとしてるだけ。そこにたまたまサヨちゃんがいるだけ。そのサヨちゃんの横に『タマタマ』小林君がいるだけ」
 「無理がアリアリやんか」

 摩耶学園は中学からの募集と高校からの募集があるんだけど、サヨコも大伴先輩も高校からの入学組。実はって言うほどのことはないけど、それこそ幼稚園から高校までずっと同じ。前に聞いたんだけど、

 「大伴先輩が好きなんじゃ」
 「ミツ兄ちゃん? あれだけは対象外」

 長過ぎて恋愛対象と言うより、兄妹みたいなもんだって。そう言いながら、

 「中学の時はハンドボール部の女子マネしてたんでしょ」
 「あれはミツ兄ちゃんが、どうしてもって頼むからやってただけ」

 これも苦笑いしながら教えてくれたんだけど、前のピクニックの始まりは大伴先輩がサヨコに持ちかけたんだって。

 「たくエミが好きならストレートに行けばイイものを、サヨコや他のセレクト・ファイブを巻き込むからこんなことになっちゃうんだよ」

 エミは家が家だからオシャレには無縁みたいなところがあるんだけど、一つだけ昔からやってるのがリボン。これはお母ちゃんも好きみたいで、これだけはさせてもらってる。リボンも中学では出来なかったけど摩耶学園ではOKで、エミのトレードマークみたいなものかな。

 「エミが似合いすぎてるから、他の子がやめちゃったぐらいだものね」

 それは大げさすぎる気がしないでもないけど、摩耶学園で見かけないのは確か。サヨコの言う通りエミだけかもしれない。


 エミのリボンだけど実はサヨコもリボンが好きなんだ。その日のリボンはとくに気に入ったみたいで、思い切ってプレゼントしちゃった。サヨコには随分助けてもらってるし、リボンだけは貧乏なうちでも割とあるしね。着けてあげての帰り道で大伴先輩が、

 「おっ、馬子にも衣装」
 「うるさいわ」

 サヨコも似合ってると思うんだけどな。駅でバイバイして、サヨコはエミのリボンを着けて家に帰ったんだけど、大ニュースが飛び込んで来たんだ。

 『サヨコが攫われた』

 大伴先輩も一緒だったはずと思ったけど、大伴先輩は怪我して入院。エミも心配でしょうがなかったんだけど、何が出来るわけでもなく一晩過ごし学校に。

 もう駅から大変だった。摩耶学園生と見ればインタビューをしようとするマスコミはいるし、それを阻止しようとする教職員でもみ合い状態。そこからなんとか校門にたどりついたら、学園内に乱入しようとするマスコミとそれを阻止しようとする教職員、ガードマンまでいたよ。

 とにかく駅から校門に入るまでにカメラは勝手にバシバシ撮られるし、ビデオは遠慮会釈なしに回されてるし、訳わかんないけどヘリまでブンブン言わせながら飛んでるんだもの。

 教室に入っても騒然としてた。そりゃ、あれだけショッキングに報道されれば、寄ると触るとその話になるものね。こんなんで授業になるかと思ってたら、全校生徒は講堂に集められて緊急集会になったんだ。校長先生は開口一番、

 「稲森小夜子君は未だに行方不明です」

 どよめく講堂。そこから現時点でわかっていること、マスコミ取材に対する注意とかがあり、

 「今日はこれで休校とする。ただちに下校して下さい。明日以降は追って連絡します」

 校長先生や教頭先生、学年主任の先生や担任の先生は講堂で引き続いて記者会見。生徒は教職員に守られるように集団下校。なんか駅の改札潜ったらホッとした。結局、学校には行ったものの、マスコミ情報以上のものはなったのよね。

 現場にいた大伴先輩の話でも聞けたらと思ったけど、大伴先輩は入院してお休み。もっとも、登校しててもあんな状態じゃ話を聞きに行きたくともいけないもの。こういう時には不謹慎だけど情報通のサヨコが活躍するんだけど、攫われたのはサヨコだよ。