エミの青春:ピクニック

 ピクニックの話はお父ちゃんが嬉しそうに言いまわるもんだから、常連さんにも知られちゃって、

 「社長、エミちゃんは誰とピクニックに」
 「男も一緒かもしれへんで」
 「社長のことやったら心配でコッソリついて行くんちゃう」

 お父ちゃんならやりかねないと思ったけど、

 「アホ抜かせ、誰が付いて行くかい」

 そんな時にユッキーさんから、

 「日曜のピクニックだけど・・・」

 電車に乗って行くんだけど、予定より一時間早く駅に着くように言われたんだよね。とにかくバタバタしてたから、理由は聞きそびれちゃった。当日の朝にお母さんから、

 「はい、お弁当」

 駅に向かう途中だけど、やっぱり服は気になってた。やっぱりお年頃だし、どう見たってみすぼらしい。みすぼらしいと言えば髪だってなんとかしたかったし、お化粧だって少しぐらいと思ったり。

 最寄りの駅に着くとユッキーさんとコトリさんがいたんだよね。そしたらいきなりワゴン車の中に連れ込まれたんだ。

 「ちょっとプレゼントするね」

 クルマに入ってビックリ。中は美容院みたいになってるんだよ。もっとも実際に行ったことなかったけど。

 「やるわよコトリ」
 「まかせとき」

 髪がセットされて、化粧もされちゃった。

 「どう?」
 「これがエミ・・・」

 それから、

 「さあ、着替えて」

 カジュアルだけど、なにかとっても品の良い服が用意されてて、靴までバッチリ。

 「靴擦れしたらゴメンネ」

 着替えて姿見に立つと、そこにはどこからどう見ても上品なお姫様が一人。

 「帰りもこのクルマに寄ってね。わたしもコトリもいないけど、ちゃんと元に戻してくれるから」

 このままがイイと一瞬思ったけど、お母さんやお父ちゃんにバレたら大変だものね。なんか別人のようになった気分で電車に乗って集合場所の駅に。みんなが集まってるところに行ったら、怪訝な顔をされた。なんか妙な間が空いた後に、

 「エ、エミだよね」
 「やだサヨコ、忘れちゃったの」
 「それにしても・・・本当に魔法使いが現れたの?」
 「みたいなの」

 そこから目的地にテクテクと。ダム湖の湖畔だったけど、大きな芝生広場があって遊んだんだ。楽しかったな。こうやって学校以外で友だちと遊んだり、休日を過ごすなんて小学校以来だものね。お昼にしようとなってお弁当を取り出すと、可愛いお弁当箱だったんだよ。なんだかんだと言いながら買っていてくれてたみたい。

 中身はって見てみると、可愛い盛り付け。お母さんはプロだけど、あんな店じゃない。どうしたって見た目より量って感じで、普段は豪快な盛り付けをするから心配してたんだけど、こんな繊細な盛り付けも出来るんだとビックリしたぐらい。

 「エミのお弁当すご~い」
 「分けっこしようよ」

 味はさすが。

 「これ美味しい」
 「さすがは北六甲のレストランね」

 お弁当が終わったら近くの神社に移動。ここは小さいけど、縁結びの神様で有名。おみくじ引いたら吉だった。それからもゲームしたり、いっぱいお話して帰ったんだ。駅に着くとあのワゴン車がいたから行って見ると。

 「木村様から申し付かっております」

 テキパキとシンデレラ姫から灰かぶり姫に戻されちゃった。レストランに帰ると仕事だよ。これが終わってお母さんに、

 「お弁当ありがとう。あの弁当箱は・・・」
 「せめてね。あれぐらいしか、してあげられなくてゴメンね」

 週が明けて学校でサヨコと話してんだけど。

 「誰かゲットできたの?」
 「それどころじゃなかったよ」

 あのピクニックだけど、サヨコが言うにはセレクト・ファイブは全員エミ狙いだって。でもエミは一人だから、まだ四人残るからサヨコはそっちを狙う予定だって言うのよ。

 「それがだよ、エミがシンデレラ姫になっちゃったものだから、セレクト・ファイブは姫を守る五人の騎士になっちゃったのよ」

 どういう事かと聞くと、その場でエミを守る会が出来て、抜け駆けは許さないって話しになったらしい。

 「まったく、サヨコだって女だよ。失礼しちゃうよ。お蔭で潜り込む余地がなくなっちゃった」

 話が大げさすぎるとしか思えないけど、セレクト・ファイブがエミを守る会を作ったのも広がっちゃてるし、シンデレラの相手はセレクト・ファイブ以外には考えられない話まで出まわって、

 『セレクト・ファイブの誰がシンデレラ姫のハートを射抜けるか』

 これで話題が持ち切りみたいな感じになってるのよね。なんか良いのか悪いのかみたいな状態。

 「ねえねえエミは誰なの?」

 これが複雑。たしかにセレクト・ファイブはイケメンだし、背も高いけど、どうしたって幼く見えちゃうのよね。

 「そっか、そうかもね。エミが普段相手にしてるのは大人ばっかりだものね」

 おっさんが多いのはたしかだけど、若いのもいる。若いと言ってもみんな社会人だから、セレクト・ファイブでもちょっとってところ。

 「もったいない気もするけど、職業病かもしれないね」

 たとえば伊集院さん。お医者さんらしいけど、馬は上手だし、知的で見るからに大人の魅力を持ってるんだよね。伊集院さんでも年上過ぎるけど、どうしてもそうなっちゃう。それにさぁ、伊集院さんの彼女は、あのシノブさんだよ。やっぱ、イイ男にはイイ女が引っ付くものだと思ったもの。

 エミだって恋をしたいけど、シンデレラ状態じゃ、そんな時間がそもそもないのよね。まだ高一だから彼氏がいなくたって不自然じゃないけど、シンデレラやってる限り無理って事。

 本当のシンデレラだったら、魔法使いに舞踏会に行かせてもらったら、そこで王子様に出会って恋に落ちるのだけど、現実はそうならなかったし。

 「エミ、一人回してよ」
 「モノじゃないんだから無理だって」