第3部後日談編:リハビリ

 話には聞いていたけど正直なところホントに辛い。理学療法士

    「最初から全部できなくても仕方ないですから、無理しないでください」
 こう言ってくれるのですが、死ぬ思いでメニューはなんとかこなしました。だってやり残そうものなら
    「今日ぐらいのお優しい、手始めの『て』ぐらいで悲鳴を上げてるようじゃ、一生寝たきりコースまっしぐらよ。オメデトウ」
 これぐらいは嬉しそうにユッキーは言いに来るからな。もっとも全部こなしても、
    「あれまぁ、こんな初歩の初歩のメニューで悲鳴を上げてるの。こんな調子じゃ寝たきり一直線よ」
 舌舐めずりするほど嬉しそうに言い放ちやがった。ユッキーの憎まれ口に悪意は毛ほどもないのは知り過ぎるぐらい知っているのですが、さすがに切り返すだけの余力がありません。悔しいけど、体力も気力も限界ってところです。
    「今日はカンベン」
    「なに甘え事言ってるのよ、明日はもっとだから覚悟しときなさい」
 ユッキーはいつもそうだった。口では思いっきりの憎まれ口を叩きながら、ちゃんとボクのために色々してくれたんだ。ホント感謝してた。アイツこそ性別を越えた親友だった気がする。恋愛感情が無い分だけ、より近かった感じもするんだ。

 思い出してみれば、高校時代はいつもユッキーが傍にいた気がする。そりゃ席がいつも隣か前後だったからそうなるんだけど、それだけでなく他の時もいつも一緒だった気がする。なにをしている時も近くには必ずユッキーがいたんだ。そうだ間違いない。

 嬉しい時にもユッキー、困った時にもユッキー、悲しい時にもユッキーだった。なんであんなにいつも傍にいてくれたんだろう。アイツだってよくよく見れば結構綺麗な顔してたよ。もうちょっとお淑やかだったら人気も出たろうに。でもあの口じゃ。

 あれっ、ユッキーの口は悪いけど。誰にでもじゃなかった気がする。ボクは置いとくとして、他は、えっと、えっと、えっと・・・まさか。あれってボクだけだったかとか。う〜んと、それ以外の時は・・・ユッキーはずっと委員長やってたから、そうだよな、委員長は優等生の役割だったから普通にというか、凛とした感じだった気がする。

 いやそうだよ、この病院でもボク以外と話す時のユッキーは明らかに口調が違う。そりゃ、医者だからボクに対してみたいなタメ口使うはずもないけど、あの口調はボク以外の人にしていた話し方だ。そうや、あの凛とした感じをなんとなく思い出したぞ。じゃ、ああやって憎まれ口を叩いていたのはボクだけだったってことか。

 今もボクを元気づけるために無理に使ってくれているのかな。そうだったら実にユッキーらしいわ。良くなったらお礼に御馳走の一つぐらいしてやらないとあかんな。アイツ、何が好きだったっけ。こればっかりは長いこと会ってないからわからへんなぁ。プレゼントも一緒の方が喜んでくれるよな。

 もうちょっと余裕が出来たら聞きだしとこう。知られずに聞きだすのは得意技。つうかユッキーってそういう点では単純だから。