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「カランカラン」
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「ちょっと聞いてほしいことがあるんや」
「なに、なんでも聞くよ」
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「追悼式の時はありがとう。ユッキーも喜んでくれたと思ってる」
「そんなん当たり前やん」
「シオに隠し事はしたくないねん」
「いいよ、いいよ、ホントになんでも聞くから」
「実は・・・」
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「そっか、コトリちゃんとの婚約復活やん。私が飛び切りの結婚式の写真を撮ってあげる。特別サービスでタダでイイよ。もちろんタダだからって手抜きしないから安心して」
「そうやねんけど・・・」
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「やだ、イイのよ。選ばれるのは一人なんだから。もっとイイ男探すからだいじょうぶだよ」
「うん、それもそうなんやが・・・」
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「どうしたの天使だけじゃ不満? 悪いけど愛人になってくれはやだよ」
「そんなこと、冗談でも言わんといてくれる」
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「どうしたん。天使やん、天使のコトリちゃんやん。イイ子と思うよ。きっと幸せにしてくれるよ。コトリちゃんなら私だって心から祝福するよ」
「ボクもコトリちゃんが不満だなんて思った事もないよ」
「じゃ、イイやん」
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「シオもコトリちゃんもユッキーを失ったボクを一生懸命慰めてくれたんだ。本当に感謝している。二人がいなければ立ち直れなかったかもしれない」
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「二人がボクのことを本当に想ってくれてるのも痛いほどわかってる。でも選べるのは一人。一人を選べば一人を傷つける。そんな事はボクにはできないんだ」
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「でも命日の時にユッキーが『ちゃんと選んであげなさい』ってささやいた気がしたんだ。そこである条件をクリアできたら選ぶことにしたんだ」
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「条件を確認するには二人を騙すことになるので、やるのは凄い苦痛だったんだ」
「なにをやったの」
「心を試すだよ」
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「なにをしたの?」
「コトリちゃんにはお断りをしてシオを選んだと告げ、シオにはコトリちゃんを選んだと話した」
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「二人がそれを聞いて、ともに相手を心から祝福したら条件クリア。どちらかが少しでも悲しがったら、ユッキーだけを愛することに決めたんだ」
「コトリちゃんは」
「喜んで祝福してくれた」
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「シオもクリアした。それでもやはり選ぶべきじゃないと思ってる・・・」
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『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
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「一緒にチェリー・ブロッサムを飲んでくれへんかな」
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「アカンかな」
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「一杯目、それとも二杯目?」
「出来たら二杯目にしたいんやけど」
「二杯目で本当にイイの」
「もちろんや、シオさえそれで良ければ」
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「私をカズ君の奥さんにして下さい」
「あれっ、ボクが先に申し込んだんだよ」
「イイの、こうしたいの」
「あ、そっか、あの時の?」
「そう。あの時の続き」
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「ユッキーの影を死ぬまで引きずり続けるボクでホンマにエエんか」
「もちろんよ、どうかお願いします」
「かなり辛い思いをさせる時があると思うけど、ついて来てくれるかい」
「必ずついて行く、それはユッキーからも頼まれてるから」
「ありがとう」
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「カズ君。二杯目だから、一杯目からのステップは省略ね」
「あの話か、さすがに一杯目からはもうエエは。でもここからはきちっと二人で踏みたいな」
「楽しみにしてる。じゃ、乾杯の音頭がこれからの二人の始まりね」
「よっしゃ。では、シオがボクのプロポーズを受けてくれたのを祝して」
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「乾杯」
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「記念写真撮ろうよ」
「そやな大事な記念日やもんな。マスターに撮ってもらおうか」
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「写真家の先生をお撮りするのは緊張します」
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「聞いてもイイ?」
「エエよ、なんだって」
「なんで私だったの」
「そりゃ、愛しの初恋のシオだからさ」
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「お願いがあるの」
「わかった」
「えっ、なにがわかったの」
「今から転がり込んで来い」
「なにがあっても離さない」
「愛しのシオのためなら命を削っても離れない」
「もう、それは言わないで。それは、それは大事にさせて頂きますよ。旦那さま」
ユッキーは私も天使も候補として認めていたが、優先したのはあくまでもカズ君の幸せ。カズ君の心の傷が癒え、新しい恋が出来るようになった時に、天使が先にアタックした理由を考えれば良いだけかもしれない。
あの時に天使にあって私になかったもの。それは愛情の純度の受け取られ方。私の愛情は勘違いとカズ君に思われていたのが、私に足りなかったカード。それがそろってなかった最後のカードだったんだ。そうなんだよ、私の愛情はずっと疑われていたんだ。
それは同棲時代が終り、私が心を試した時からかもしれない。いや初めて結ばれた夜からかもしれない。その前からずっとだったかもしれない。私の本当の想いは一度たりともカズ君に伝わってなかったんだ。私はカズ君の愛情を同情の延長線上と思ってた時期が長かったけど、カズ君も私の愛情を同情の延長線上とずっと思ってたんだ。二人の想いは一度たりとも交わったことがなかったんだ。これこそがユッキーのあの言葉、
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『シオリもそれじゃ辛いかもね』
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『でも必ずしもそうなるとは限らないみたいだし』
もう一つ、ここまで来てやっと、やっと気づいた事があるの。それはユッキーがすべてを認めて許していたこと。そうなって欲しいと心から願っていたこと。
じゃ、えっ、まさか、そんなことが・・・倒れてからユッキーがカズ君に会わなかった理由がやっとわかった気がする。でも信じられない。そんなことが出来る人間がいるなんて・・・
理由は一つしかあり得ない。すべてはカズ君にユッキーの目の前で誓わせないことだったんだ。ユッキーに会えばカズ君は必ず二度と他の女を愛さないと誓う。これをユッキーの前で心の中でも誓えばカズ君は絶対に守る。
残された時間を自分のために使うより、自分がいなくなった後にカズ君が幸せになるようにユッキーはしたんだ。そのためにわざわざ三重の障壁を自分で作ってカズ君と会うのを避けたんだ。そんなことを誰が考えつくと言うのよ。
ユッキーの最後の言葉が甦る
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『ははは、カズ坊は幸せ者ね。こんなにみんなに想ってもらってるのなら、きっと大丈夫だわ。ちょっと安心した。これで私も心配せずに済みそう』