私がコトリ先輩の恋の相手らしい人とバーでたまたま会って話をしたのを、コトリ先輩に話したら、ぜひその時の様子を知りたいと私は食事に誘われました。今回はカウンターだけの和食屋さんです。
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「シオリちゃん、綺麗だったでしょ」
「はい、実際にお会いすると息が止まりそうになりました」
「そうでしょ、そうでしょ、あれが女神様の美しさなの」
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「世界一イイ男のカズ君見てガッカリしたでしょう」
「えぇ、はい・・・」
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「正直なところ、第一印象はちょっと・・・」
「はははは、イイのよ。気にしなくても、素直な感想だと思うわ」
「でもお話させてもらうと、とっても心の温かい人だとよくわかりました」
「もうそこまで、わかっちゃったの。ヤバイな、シノブちゃんにカズ君さらわれちゃうかな」
「滅相もありません。コトリ先輩や加納さんと争うなんて夢にも思いません」
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「今日はシノブちゃんに、特別のモノを見せてあげるわ」
「なんですか」
「ほら」
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「カズ君にもらった婚約指輪なんだ」
「凄い、凄い指輪ですねぇ」
「これをもらった時は、人生で一番幸せな瞬間と思ったものよ」
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「ところで、ユッキーさんて先輩と加納さんにとってどういう人なんですか」
「カズ君にとって最高のパートナーだった人よ」
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「今はね、コトリとシオリちゃんで争ってるけど、二人でもユッキーには遠く及ばないのよ。あの桁外れのピュアさにどうしたって及ばないの。でも、ちょっとでも近づこうと努力しているの」
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「加納さんって、高校の時からあの人が好きだったんですか?」
「違うよ。シオリちゃんがカズ君にほれ込んだのはね・・・」
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「シオリちゃんがカズ君の世話になってから、もう十年になるけど、その時からずっとカズ君一途なんだよ。コトリとカズ君の話をする時にも目がメラメラ燃えてるもの。もっとも、その時のコトリの目も燃えてるかもしれないけどね」
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「それでね、ユッキーは今でもカズ君の心の中に住んでると思うの」
「思い出としてですか」
「それは、もちろんだけど、ユッキーの心が本当に可愛い奥さんをやっているとしか思えないのよ」
「それじゃ、先輩がアタックしても・・・」
「ちょっと違うの。ユッキーはカズ君の最高の女性だったし、ユッキーにとってもカズ君は最高の男性だったの。文句の付けようのない最高の組合せだよ。そんなユッキーが願っているのはカズ君を幸せにすることのみなの」
「どういうことですか」
「ユッキーはカズ君が他の女性と結ばれて幸せになって欲しいと願っているの。これは、コトリにも、シオリちゃんにもわかっていることなの。そんなユッキーに選ばれたのがコトリとシオリちゃんなの」
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「良かったわね。カズ君にしたら珍しいことよ。よほど気に入られたのかな。ひょっとしたら、シノブちゃんもユッキーに選ばれたのかもしれないよ。シノブちゃんもカズ君が気に入ったなら頑張ってもイイよ。ただし大変なのは覚悟しておいてね」
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「そんなに怖がらなくても。会ったから知ってると思うけど、優しい人だし、話だって面白いし、シノブちゃんが退屈しないように、ずっと気をつかってくれるから安心しておいてイイよ。きっと美味しいものを食べさせてくれるよ。それと間違っても襲われたりしないから。襲うような人なら、コトリもシオリちゃんも喜んで襲われて結ばれてるわ」
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「それとね、これはコトリの頼みだけど、シオリちゃんも来てたら、ユッキーの予言の話を聞きだしておいてくれない」
「予言ですか?」
「そうなの、ユッキーが意識を失う直前にシオリちゃんはユッキーに呼び出されて会ってるの。その時にコトリとシオリちゃんの運命に関係する予言を残してるのよ。私もシオリちゃんから聞いたんだけど、あれで全部かどうかはわからないの。とにかく、聞いたのはシオリちゃんだけだからね」
「頑張ってみます」
「頼んだわよ」
コトリ先輩が勝てば良いのですが、もし負ければ、二度と天使の微笑みは見られないかもしれないと本気で感じました。