第3部後日談編:サプライズ

    「カズ坊、今日はちょっとしたサプライズしたるわ」
    「今日のリハのメニューは終ったで、もう堪忍してぇな。これ以上はさすがにキッツイわ」
 そんないつもの漫才をやってる途中に病室にシオが飛び込んできました。
    「わぁ〜ん、生きてる」
 私もユッキーも唖然とするほどの大号泣です。
    「ユッキー、ボクがどうなったっていうたん」
    「いや、その・・・」
 さすがのユッキーも手が付けられないって表情になって、あんちくしょう逃げやがった。こんな大号泣のシオを置いていくな、こら。ボクは病人やで。
    「良かった、良かった、本当に良かった、生きてさえいればイイの。後は任せといて、寝たきりでも一生面倒私が見るから。絶対私が見るから安心して、もう大丈夫だから」
 そこから宥めるのに一苦労しました。リハビリこそ大変やけど、経過は順調で大きな後遺症は残りそうにないこと、そうなれば今まで通りに生活できること。
    「だって木村さんが意識不明の状態で生死の境をさまよってて、その後も・・・」
 ユッキーの奴ちゃんと伝えんかい。つうかシオが最後まで聞いてられなかった早トチリだとわかって、ちょっと安心してくれたようです。やっとこさシオの号泣モードは終ってくれたのですが、今度はバリ怒りモードに入って大変です。
    「どうして私を真っ先に呼ばないのよ。あんたはいっつもいっつもそうなんだから。他人にばっかり気を使って、どうしてこんな時ぐらい自分に気を使ってもらわないのよ」
    「いや、事故直後は意識不明だったし・・・」
    「一週間だけやない。もう何か月経ってると思ってるのよ」
    「シオも忙しいやろし・・・」
    「それがどうしたって言うのよ、仕事なんか、仕事なんか・・・」
 しもた、また号泣モードに入ってもた。こうなると手が付けられへん。それでもなんとかしないと、
    「次の時は連絡するって約束するから」
    「次、次だって、次があったら私は許さないからね。こんだけ心配させやがって。次があったらぶち殺してやる」
 やってもた、今日はアカン。だいたいこういうものに『許す』も『許さない』も無いし、殺されても困るのですが、今度は号泣からバリ怒りモードにチェンジです。ユッキー助けてくれ、まだ病人やぞ、お前は主治医やないか。トドメは、
    「毎日来るからね」
 毎日これやられたら、治るもんも治らなくなるやん。おい主治医、こらユッキー、お前が種まいたんやろ。責任とれ、なんとかしろ。

 シオの号泣とバリ怒りの波状攻撃は消灯時間まで延々と続きました。いやこの日だけでなくまるまる一週間です。正直なところシオの波状攻撃の方が怖くて、辛いはずのリハビリの時間が楽しく感じたぐらいです。こんなサプライズは体に良くないよ。ユッキー、お前は友達やろ、頼むからなんとかしてくれ。なんでシオが面会の時に顔出してくれへんのや、お前がいればシオも少しは落ち着くやろ。頼む、頼むから助けてくれ。