第3部後日談編:女神の憂鬱

 今頃会ってんだろうな、あの二人。で、どうなっちゃうんだろう。あっと言う間に婚約復活でバージン・ロードまっしぐらとか。でもって、その幸せそうな二人を撮る友人のカメラマン加納志織ってか。私の役回りってそこなの。この女神様がだよ。

 それも自分でまいた種みたいなもんやん、悔しいったらありゃしない。なんで言っちゃったのかなぁ、なんでご丁寧にセッティングまでやっちゃったんだろう。しかもだよ、あの店でだよ。まあ、あの店を希望したのはコトリちゃんだから、それはしょうがないとしてもだよ。

 あかん、頭の中に三杯目のチェリー・ブロッサムを乾杯してる二人が浮かんできて消えへん。やっぱりカズ君はコトリちゃんの方がタイプなんかなぁ。そうよねぇ、ユッキーも華奢で可憐ってタイプやもんね。コトリちゃんの天使のあだ名もダテやなくて、元運動部で今でもマラソンやってるだけあって、華奢じゃないけどスリムでキュートで、どっちかと言わなくとも可憐なタイプやんか。

 それに比べると私は可憐には程遠いやん。自分で言うのもなんだけどグラマーな方やもんね。体型とその好みだけは持って生まれたものやから、こればっかりはどうしようないやんか。私じゃカズ君の好みの女になれないのかなぁ。ダイエットしても無理だろうなぁ。

 生れてこの方、自分の体型にコンプレックスをもったのは初めてかもしれないわ。この女神様が体型のコンプレックスに悩んでいると言ったら大うけするだろうなぁ。体型以外ではコトリちゃんに負ける要素はないと思ってるけど、最後の勝負がそこになったらアカンかも。

 いいや悔しいけどコトリちゃんの方が好みのタイプの可能性はあるよね。色々あったのは確かだけど、私も友達でいたはずなのに、コトリちゃんが現れるとカズ君はプロポーズまで突っ走っちゃったからね。私なんて目もくれてくれなかったやんか。スタイル以外もコトリちゃんの方がカズ君好みかもしれない。

 あの手紙の一件がなければ、ゴールインまで時間の問題だったし。あのままだったら、やっぱり私は幸せそうな二人を撮る友人のカメラマン役ってか。だから私はわざわざコトリちゃんをカズ君に引き合わせる道化師の役回りがよくお似合いってか。

 氷姫時代のユッキーってこんな気持ちだったのかなぁ。見ているのは自分でなくて、みいちゃん。どんなに頑張っても、振り向いてもくれない感じ。私のチャンスはあの時に心を試したから終ってしまい、コトリちゃんは手紙で切れかけていたのに、もう一度チャンスが訪れ今夜つないでしまう。これがあの二人に定められている運命。


 ・・・ふう、ネガティブにばっかり考えんのや〜めよ。そうよね、カズ君はかなり回復しているのは確かやけど、まだユッキー以外の女と恋に落ちれるほどにはなってないよ。いずれはそうなれると思うけど、まだそれはもうちょっと先のお話だよ。いくら天使の魅力でも一遍に持っていけるはずないよね。

 そう思ったらちょっと気が楽になってきたわ。うふふふ、コトリちゃんはビックリしてるだろうな、カズ君の変わりように。あの変わり方はドンドン強くなってる気がするの。病院の人が言っていたユッキーの感じってきっとあれよ。

 私も良くわからないんだけど、カズ君がどうしても聞きたくない時には口が出せなくなっちゃうの。いくら頑張って話そうとしても言葉が出ない感じと言えば良いのかしら。今は口に出したらダメって心のブレーキがかかっちゃうの。

 コトリちゃんは婚約復活の話をきっとしたいと思うけど、カズ君にその気がなければその話は出来なくなってると思うのよ。これは必ずしもコトリちゃんが嫌いってわけじゃないと思うけど、今の時点では聞きたくないってところかな。

 もちろんカズ君が今夜その気になれば別だけど、それだけは無いぐらいは私でもわかるわ。わかってるんだけどなぁ、わかっていてもやきもきしちゃうんだよねぇ。まあ、これで同じリングにコトリちゃんも上がった訳だから、後はカズ君の気持ち次第ね。できたら選んで欲しいなぁ。なんとかコトリちゃんに勝ちたい。