第3部後日談編:退院前夜のサプライズ返し

 今日の昼間はどうしてもカズ坊の病室によう行けんかった。ヘトヘト状態でユッキー様モードをやるだけの気力でえへんかった。他の仕事も嫌っちゅうほど立て込んでたし、それだけで精力消耗してもたわ。でも行かへんかったら行かへんかったで、カズ坊の奴、明日、何言い出すかわからんから、ちょっとだけのぞいとこ。しっかし気合が要るなぁ。

    「お〜い、くたばり損ない」
    「おう、ユッキーか。待っとったぞ」
 なんやねん、いつもとちゃうやんか、ポンポンっと切り返さんかい、リズムに乗れへんやん。
    「何を待っとったんや。香典にはまだ早いで」
    「いや、退院前にユッキーに話したいことがあるねん」
 ちょっと待った。今からジメジメした話されたらユッキー様モードもたへんやん。
    「今日は悪いけど、クタクタやねん。長い話やったら明日にしてんか」
    「長ないよ。心配せんでもエエ」
 なんの話やねん。キザに『ありがとう』でもいうつもりか、
    「ボクとユッキーの仲やから単刀直入に言うな」
    「おう、そうしてくれ、はよ帰って寝たいんや」
    「結婚してくれ」
    「なんやて!」
 カズ坊、いくらなんでも単刀直入過ぎるやろ。あかん立ってられへん。ユッキー様モードなんてもう無理・・・・


 疲れすぎて幻覚を見てるのだろうか、それとも医局でうたた寝してて夢見ているだけなんだろか。だからもうちょっと言葉続けて・・・お願い。頭の中が真っ白になってる。あれ涙が、涙が止まらない。やだ、私泣いてるんだ。なにをしゃべろうとしても泣き声にしかならない。こんなことは夢でさえ見たことがないの。ゴメン、カズ坊、今はこれしか出来ないよ。

    「わ〜ん」
 泣きながらベッドにいたカズ坊の上に倒れ込んでしまいました。
    「OKでエエか、幸せにするよ」
 『うん、うん』と夢中でうなづくのが精一杯です。こんな事が私の人生に訪れる日が来るなんて、カズ坊ありがとう、私もカズ坊を絶対に絶対に幸せにする。それがずっとずっと夢だったんだ。早く言葉にしたいのに、なにもしゃべれない。出るのは泣き声だけ。

 カズ坊の腕が私をしっかり抱きしめてくれてる。これが一生続くのね。もう私を離さないでね。もっと強く抱きしめて、お願いもっともっと強く。今日からは、いや今からは二度とユッキー様モードにも氷姫にならない。可愛いユッキーになる。カズ坊に愛される可愛いユッキーに。

 顎を持ちあげられてる、私のボロボロの泣き顔を見ないで

    「可愛いよユッキー、愛してる」
 もうこれ以上なにかされたら、幸せで失神してしまいそう。
    「そんなに泣かんでも」
 ゴメン、カズ坊、今だけは思いっきり泣かせて、カズ坊は優しいからそれぐらいさせてくれるよね。こうやってカズ坊の腕の中でずっとずっと泣かせて欲しいの。今夜だけはワガママ聞いて、明日からはカズ坊の可愛いお嫁さんになるし、良い奥さんにもなるから。絶対、絶対なるから。

 一時間以上泣きじゃくってようやく絞り出せた言葉は、

    「ありがとう」
 世の中に奇跡はあるんだ。ありがとうカズ坊、私は世界一の幸せ者です。この夜の事は絶対に忘れない。私は心の底から感謝してカズ坊に誓うよ
    『なにがあっても、どんなことがあってもカズ坊を必ず幸せにする』