科技研でも一悶着。科技研側はボクと涼にそれぞれ独立した研究室を与えてくれようとしましたが、
「真と一緒じゃないとヤダ」
涼が渋りまくって同じ部屋。これで良いかもしれません。涼が山姥状態になった時のコントロールはかなりの慣れとコツが必要ですから、一緒の方がなにかと好都合かもしれません。
ボクは浦崎班で作った審査AIの発展系を考えています。こんなもの、どれだけ需要があるか疑問の部分はあるのですが涼はさわやかに、
「まずオリンピック」
なんじゃそれっと思いましたが、フィギュア・スケートの採点だそうです。フィギュア・スケートの採点が技術点と芸術点を合わせたものになりますが、とかくもめやすいそうです。
芸術点なんかどうしても主観が入りますし、さらに基本が国別対抗ですから、自国選手への入れ込み、ついには勝つために買収疑惑が良く出るところだそうです。だったら止めれば良さそうなものですが、とにかく人気種目です。
技術点に関してはパーツごとの単純作業の繰り返しですからAIの得意分野ですし、芸術点も観衆の反応で良いのなら、写真でやった技術の応用で可能のはずです。作れそうですが、こんなもの売れてもしれてる気がするのはボクだけでしょうか。
「審査員が失業してもコーチとかで食べられるよ」
涼は楽観的です。とはいうものの、さすがに右から左に出来るものじゃありませんから、ひたすらデータ収集に取り組んでいます。科技研でも妙に期待さえている感じがして変な感じです。
涼の方はやると思ったらやっぱり不老研究のようです。それも執念深く麻吹アングルです。あきらめていたと思っていたのですが、
「麻吹アングルにコネクトできたら不老になる可能性があると見た。だってだよ、加納志織や麻吹つばさだけでなく、泉茜も新田まどかもそうだもの。統計的確率からして、可能性はかなり高いはず」
ですが間もなく打ち砕かれることになります。科技研に入ってしばらくしてからボクたちの歓迎レセプションのようなものが開かれました。ジェームズ・ハンティング博士にも挨拶させて頂いて感激しました。
科技研なのですがエレギオンHDの直営になっています。所長もエレギオンHDの月夜野社長です。ところが長期休暇と言うか、長期出張中らしく、
「如月が代行として挨拶させて頂きます」
ボクも涼も目が点状態で、バーで麻吹つばさと一緒にいたユッキーと呼ばれていた女なのです。ボクらのところまで足を運ばれて、
「科技研に来られたのを歓迎します。なにかご不満な点があればご遠慮なくお伝えください」
これが如月かすみ副社長、一緒におられたのが夢前遥専務と霜鳥梢常務。三人並ぶとまさに美の競演。
「痛~い」
涼のツネりが炸裂します。バーの時の話になったのですが、
「ちょうどよかった。あの時に後から遅れてきたのが月夜野よ」
たしかコトリと呼ばれていたはずですが、あの女性が社長だったとは。レセプションが終わってから涼は、
「不老研究はしばらく棚上げ」
「どうしてだい」
「夢咲遥三十九歳、霜鳥梢同じく三十九歳、月夜野うさぎ五十一歳。いずれもカメラに特技無し」
「それにしても不思議な会社だな」
去年のツバル紛争の時に月夜野社長はたまたまツバルに出張中だったそうで、巻き込まれて帰国が出来なくなったそうなのです。そこで急遽エレギオン・グループの指揮を執ったのが如月副社長。
「港都大のしかも考古学部の大学院生だったんだろ」
「エレギオンのミステリーよね」
科技研に移ってしばらくしてから結婚式を挙げました。涼は今さらなんて言ってましたが、嬉しそうにウェディング・ドレスを選んでました。社員割引きでクレイエールのブライダル・プランが利用できると聞いて涼が俄然乗り気になったのは笑いましたけど。
媒酌人は悩んだのですが浦崎教授に頼みました。ちょっと悪いことしたかな。と言うのも、科技研の仲間たちが押し寄せてしまったのです。主賓がハンティング御夫妻と聞いて目をシロクロさせていました。さらに、
「はい、視線をこちらに向けて、もう少し向き合うような感じで、そうそう、もうちょっとリラックスして、自然な笑顔で・・・」
頼んでいたカメラマンが知らないうちに差し替えられていて、現れたのが麻吹つばさだったのです。撮影が済むと、
「おめでとう。良い研究だったと褒めておく。天羽博士が写真の研究から手を引いたのを知って、祝杯上げたヘタクソが多かったのには笑ったがな」
隣で微笑む涼は麻吹つばさにも負けていません。
「元気で丈夫な子であることを祈る」
さすがは世界の巨匠です。見抜いていました。さらにサプライズとして如月副社長の飛び入り祝辞があったり、月夜野社長のビデオメッセージがあったりで賑やかな披露宴になりました。
そうそう妊娠してから変わったのが、あのジェラシーが穏やかになってくれたことです。一時は太ももが青あざだらけで大変でしたからね。
「自信かな。もう真は逃げるはずがないと安心しちゃった気がする」
「エエ加減、信用してくれよ」
あの激しいジェラシーも涼が使っていたサヴァン能力の副産物だったのかもしれません。なにかボクの理想の涼にどんどん近づいていく気がしています。
「後は料理を頑張る」
「二度と手を出すな」
涼はグリーンカレーのリベンジに挑んじゃったのです。前回は入院騒ぎになりましたから、
「なに作ったの」
「ホワイトシチュー」
匂いは大丈夫そうですが、
「何が入ってる」
「玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、マッシュルーム」
普通だな。
「ブロッコリー」
「下茹でしたか」
「もちろん」
合格だ。マッシュルームの石づきも取ったって言うし。
「鶏もも肉に塩胡椒して焼いた」
ほう、ちゃんと皮から焼いたって聞いて感心した。
「バターでブロッコリー以外の野菜を炒めて鶏肉を加え水を入れて茹でた」
完璧じゃないか。
「ブロッコリーを入れて、そこにホワイトソースの素を入れてさらに茹でて、牛乳を足した」
満点だ。大喜びで食べたのですが、一口食べたら悶絶。
「涼、なにをした」
「言い忘れてた。コクと甘みが増すようにホワイト・チョコレートを三枚入れた」
入れるな! どうして余計な事をする。チョコレートを隠し味にするのはありだけど、多ければ良いってものじゃないだろう。それにだぞ、味見して自分が耐えられないと感じたものをボクに嬉しそうに進めるな。
「だって、人によって感性が違うから、真なら美味しいと感じるかもしれないと思ったのよ。やってみないとわからないじゃない」
「それ以前の問題だ!」
誰だって苦手はありますから、ボクが作れば済む話です。涼は可愛い。