麻吹アングルへの挑戦:山姥の秘密

 今回の研究で様相が変わったのは麻吹アングルの存在を知ってからです。ボクも浦崎教授も慌てたのですが、涼は最初から答えを知っていたで良さそうです。だってですよ、

「涼でも天羽関数は手強かったみたいだね」
「あんなのすぐよ」

 はっ?

「でも光の変動の変数処理にあれだけ・・・」
「とっくに出来てた」

 どういうこと?

「真のためよ。あんまり早く完成すると研究が終わっちゃうじゃない。だから時間稼ぎやってただけ」

 なんだって! 涼はボクと一緒の時間を引き延ばすためだけに天羽関数の完成をわざと遅らせてたってか。

「不公平じゃないの」
「不公平?」
「どうして麻吹つばさは女神で涼は山姥なのよ」

 どうしてって言われても。ん、ん、ん、ちょっと待った、ちょっと待った。

「もしかして涼も」
「だから山姥」

 これこそ衝撃でした。だからこそ自分が出来るので、麻吹つばさが特定領域の脳へのアクセスをオン・オフしていると即答できたのです。つまりオンになったときの涼が山姥で、オフの時が素敵なレディです。

 涼は麻吹つばさの撮影風景の写真をどこからか入手していたようです。おそらく泉茜や尾崎美里と同様だと思いますが、殺気立つほどの気迫は込められています。ですが厳しいですが神々しいほどの美しさを放ちます。あれを女神に例えるのはわかりますが、

「だから不公平過ぎるでしょ」

 涼がコネクトした時にに使われるパワーが半端なものでないようなのです。それこそ表情を変えるのも、声を出すのもセーブされ、オシャレとか身だしなみに使われるパワーがゼロに近くなるのは実感しています。

 それだけでは無い部分も感じています。涼も山姥になった自分が他人からどう見られるかも良く知っています。男だって見せたくないでしょうし、女ならなおさらのはずです。

「でも見せてたじゃないか」
「まあ、そうなんだけど・・・」

 涼が研究で本当に探り出したかったのは、麻吹アングルの秘密ではなく、脳にコネクトした時でも美しさが変わらない秘訣だったと言うのです。呆れたと言うか、天才には奇人変人が多いと言うか、常人には理解できないものです。

 涼が山姥状態になって見えているのが何かです。ジェイソン・パジェットは目に見えるものがすべてフラクタルになっているとされますが、涼の場合は数式になります。どうも目に見えるものだけではなく、頭に浮かんだものがすべて数式になっているで良さそうです。ところかまわず見えるものですから、あれだけノートとかに書き連ねていたのはわかりますが、

「ボクのパンツにまで書き込まなくても良かったんじゃないか。自分の服には書かないクセに」
「あれは魔除けの呪文、浮気封じよ。あんなパンツを履いて浮気できないと思って」

 ギャフン。山姥状態の涼の頭の中と言うか、思考回路はどうなってるのやら。

「見つかったの」
「見つからなかったから天羽関数で粘ってたけど、あきらめた。たぶんコネクトしてるところが違うとしか言いようがなかった」

 そもそもコネクトする感覚自体がわかりようがないのですが、

「涼の場合は、いくつかあるコンピュターを動かしてる感じかな」
「麻吹つばさと同じところにコネクトしたらどうなんだ」
「その方法も見つからなかったのよ」

 ついにあきらめた涼はスイッチを切ってボクにアタックしたみたいです。

「あの姿を見せるのも実は勇気がいるの」
「どうして、あんなに素敵になれるのに」
「だから麻吹つばさは憎たらしかった」

 どうしてイチイチ麻吹つばさが出てくるか。

「麻吹つばさがサヴァン状態になっても写真の能力が上がるだけ」

 まあ、そうみたいだけど。

「涼は知能が上がるのだけど、オフにするとおバカさんになっちゃうの。とくに真の話し相手としてはね」
「そうは感じなかったけど」

 涼は自慢げに、

「そりゃ、もう、必死になってトレーニングしたんだから」

 なんのトレーニングかと思えば、コネクトのコントロールみたいで、外見が山姥化する前に切り、また入れるみたいな感じで良さそうです。だから口調や表情があれだけ微妙に変わってたのか。

 涼は山姥状態を解消するコネクト方法の発見をあきらめて、知能を必要な時に上げる接続法のトレーニングに励んでいたようです。そのコントロール法にある程度自信がついた時に映画の話をチャンスと見て飛びついたようです。ホントなにに熱中してたことやら、

「まだ、あの頃は慣れてなくて・・・」

 旅行の時もそうだったみたいで、

「山姥状態になると羞恥心が少なくなるのよね。やばいと思って切り替えるんだけど、どう言えば良いのかな、どうにもタイムラグがあって」

 露天風呂の時だ。

「それとウッカリしてるとオフのままでいたりして」
「それってカレーの時!」
「つい気を抜いて素の涼をやっちゃったけど・・・」

 気を抜いたら、ああなるのが涼だって!

「でも、もうだいじょうぶ。ほとんど無意識で出来るから。でも料理が苦手なのはホントの話」

 なんて厄介な女だ。でもそれを含めて愛してるよ。これ以上、何を知っても・・・あんまり出てこない事を祈っておこう。

「ちなみに完全にオフなのは寝る時だけ?」
「言わせないで、ベッドもそう」

さて今夜も燃えようか。