ツーリング日和(第11話)不思議な二人

 ワシは広島大三年の近藤進一じゃ。親友の土方彰としまなみ海道のツーリングに来たんじゃ。因島の水軍城で先にあの二人連れを見つけたなぁ土方で、

「声かけてみよ」

 バイクはワシらと同じやから、正直に言う、ナンパのチャンスじゃ思うたんじゃ。ナンパまで行かんでも、今治に行くのじゃったら同行したら楽しそうじゃ。じゃがの、歳の頃はそがいに変わらんはずじゃが、気後れするほどのも美人なんじゃ。あがいな美人は見たことがないぐらいじゃ。

 土方とジャンケンして負けてしもうたけぇ、ワシが声をかける事になってしもうたんじゃ。どうも次の行き先の地図を確認しとるようじゃったが、一緒にツーリングすることをOKしてくれたんじゃ。土方がガッツポーズしとった。

「コトリや」
「ユッキーと呼んでね」

 コトリさんの方はバリバリの関西弁じゃが、ユッキーさんの方は関西訛りがある程度じゃ。スタイルはコトリさんの方がすらっと高い感じじゃが、ユッキーさんは小柄で華奢な感じじゃ。

「昨日、神戸から向島まで走って来た」

 ひぇぇ、あれ走ったんじゃ。ワシも走った事はあるんじゃが、このバイクではちいと厳しいコースと距離じゃ。ましてや女の子じゃ。ガイド役を頼まれて観光の希望を聞いたんじゃが、

「とりあえず、こんだけ回りたい」

 ぎょぇぇじゃったが、出発したんじゃ。あのお二人はなんにでも興味がありそうじゃったが、とにかく見て回るスピードが早い。あれぐらいのペースじゃないと見れん言われりゃあそうじゃが、とにかくエネルギッシュじゃ。


 今治城で宿を聞くとなんと同じじゃった。ただし、ワシも土方も金欠で同級生の藤田に頼み込んで友だち価格でゲストハウスに泊まらしてもらう予定だったんじゃ、

「国道のとこにローソンあったきに」
「弁当と缶チューハイじゃな」
「一本ずつじゃ」

 食費の節約のために素泊まりの予定じゃった。ところがコトリさんは、

「旅は道連れやんか、一緒にメシ食おうや」

 昼食も御馳走になっとるけぇ、断ったんじゃが押し切られてしもうた。どがいな話をしよう思うとったら、お二人はいきなり歴史バトル。よう、あれだけ空で言えるもんじゃ。ようやく一段落ついたんじゃが、

「飲んでへんやん。そんなチビチビ飲むもんやないで」
「コトリ、これじゃ追いつかないよ」

 グイグイ飲むもんやけ、テーブルの上がお銚子だらけじゃ。するとなにやら交渉したんじゃが、

「こんなお銚子で間に合うかい」

 一升瓶ごと出てきよって唖然。さらに水を飲むようにコップ酒じゃ。

「次は賀儀屋で一升瓶」

 酒乱かと思たんじゃが、あれだけ飲んでも平気のようじゃ。

「明日もあるから、ホドホドにせんとな」

 明日の予定を聞いたのじゃが、

「石鎚山スカイラインを走るで」

 えっ、一二五CCでも走れるなぁ走れるんじゃが、ぶち苦しかったなぁ白状しとくる。それこそ二速使いまくりでやっとこさじゃ。

「UFOラインで戻ってくるのよ」

 晴れとりゃ絶景じゃが、小型バイクではぶちハードじゃ。

「朝は四時に出発や。それぐらいやったら空いてるやろ」
「スカイラインの入り口の鳥居には六時過ぎに着くはずよ」

 そがいな早い時刻に朝食の準備が思うたんじゃが、

「朝飯前のツーリングや。明日も道案内頼むで。悪いけどガイド料はもう腹の中や」

 部屋に戻ってからじゃ、

「アキラ、石鎚スカイラインの話、聞いてるじゃか」
「話にはな」

 石鎚スカイラインも昼間は観光客のクルマも多い道じゃが、深夜から、早朝になると走り屋が出没するんじゃ。かつての暴走族みたいに乱暴じゃあらへんが、あんまりガラが良うないんじゃ。ワシが聞いた話なら、レースを持ちかけて来るなぁあったはずじゃ。

「ああ、それやったらオレも聞いたことあるけぇ、一万円じゃろ」
「三万の話もあったはずじゃ」

 相手を見て変わるようじゃが、相手は大型じゃし、コースも自分の庭のように知っとるはずじゃ。それに対して、こっちは一二五CC、あがいな急坂のワインディング・ロードでは話にならんのじゃ。

「別に峠道でのうて勝負にならん」
「じゃけぇ通行料みたいに取られるんじゃろう」

 はっきり言うてカツアゲなんじゃが、問題はあの二人じゃ。

「まさか襲われんじゃろうな」
「ないたぁ言えんよ」

 十万円やら吹っかけられて、払えにゃあ体で払えやら。

「そうなったら守らにゃあいけん」
「そうじゃけど」

 ワシもアキラも男じゃが、はっきりゆわんでも喧嘩に弱い。そもそも喧嘩やらしようとも思わん。

「ボコボコにされるかもじゃ」
「男の意地を見せるしかないじゃが」

 たちまち明日の朝にコース変更を頼むことにする。そがいな危険なところのあの二人を連れていくわけにゃあ行かん。