小説家になろう計画では一の谷も調べ直しています。それのオマケみたいなものです。行綱が一の谷合戦に参加していたのは玉葉の
一番自九郎許告申(搦手也、先落丹波城、次落一谷云々)、次加羽冠者者申案内(大手、自浜地寄、福原云々)、自辰至巳刻猶不及一時、無程被責落了、多田行綱自山方寄、最前被落山手云々
(一番に九郎の許より告げ申す(搦手なり。先ず丹波城を落とし、次いで一谷を落とすと)。次いで加羽の冠者案内を申す(大手、浜地より福原に寄すと)。辰の刻より巳の刻に至るまで、猶一時に及ばず、程無く責め落とされをはんぬ。多田行綱山方より寄せ、最前に山手を落とさると)
これは梶原景時が朝廷に送った報告を九条兼実が聞いて書き残したものなので、行綱が一の谷合戦で
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多田行綱自山方寄、最前被落山手云々
寿永三年二月源平一の谷の合戦の時は、摂津源氏の党多田蔵人行綱義経に属し、先発隊として丹生山田に来り、義経軍の三草より来るものと会し、藍那村相談の辻より鵯越に出で、山田の住人鷲尾三郎経春に高尾より鉄拐山までの山路を案内せしめ一の谷城に拠れる平軍を一掃したり。
ここは合わせ技で行綱が山田村もしくは藍那まで軍勢を進めていたと取っています。
義経は三草山を2/4夜から2/5朝にかけて戦った後に藍那を目指しています。これも事実として良いと考えていますが、少し疑問であったのはなぜに義経が藍那を目指したのかです。これについては行綱の存在が知れ渡る前は「とにかく義経は藍那を目指した」の結果論で終っていましたが、行綱が山田村にいるのなら話は単純になります。義経は山田村に行綱がいることを知っており、三草山から山田村に直行したで良いと考えています。そうなるとなぜ義経が行綱が山田村にいるのを知っていたかになりますが、考えられるのは後白河法皇経由です。
一の谷合戦は関東源氏軍が追捕使に任じられて行われたものですが、追捕使に任じられたのは関東源氏軍であって行綱ではないとまず考えます。これじゃわかりにくいので、行綱は源氏ではありますが摂津源氏であって頼朝の出身の河内源氏とはかなり離れた関係になります。つまり頼朝と行綱の間に主従関係も同盟関係もなかったと見るのが自然です。行綱が主従関係を結んでいたのは頼朝ではなく後白河法皇です。解釈として一の谷合戦の源氏軍の構図は
こうであったと考えます。一の谷合戦にあたり後白河法皇の命で関東源氏軍は一の谷に進みますが、行綱も後白河法皇からの摂津国惣追捕使の任務として山田村に進んだと考えます。行綱が本当に摂津国惣追捕使に任じられたかについたは議論が分かれますが、実質的にそういう立場であったと見なしています。行綱が多田荘から有馬街道を通って山田村に進んだのは関東源氏軍と進路を重複しないためであったと見ています。それも後白河法皇の意向も入っていた可能性があります。たいした理由ではありませんが、範頼・義経と行綱が合流した時に生じる問題として序列問題があります。摂津源氏と河内源氏の本家問題、歳の差、それよりなによりこの時点で行綱の方が官位が上です。そのため軍勢の数、実力の問題も当然ありますが、
こういう役割分担になったと見て良いと考えます。この役割分担は源氏が京都を出陣する前に取り決められ、丹波に向かった義経も知っていたってところです。関東源氏軍と行綱は直接の主従関係はありませんが後白河法皇を介して同盟関係ぐらいは言えますから、義経はそれをアテにして三草山から山田村に直行し、そこで道案内などの斡旋を行綱に協力依頼したと考えます。それぐらいの協力は行綱も嫌がったとは思えません。玉葉の記録を基に鵯越の逆落としを行ったのは実は行綱であったの主張も出ているようですが、これは平家物語に書かれていない一点で否定します。平家物語は政府の公式記録ではなく広義の民間から出て来たものですから、行綱が一の谷で活躍をしていたら書かれているはずだからです。玉葉にも一の谷を落としたのは義経であると明記されています。では山田村から藍那方面まで進出していた行綱が平家物語に書かれなかったかになりますが、
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一の谷合戦に行綱は参戦しなかったから
関東源氏軍は一の谷を攻め落とせずに関東に帰ってもまだ良いでしょうが、行綱は摂津源氏ですから関東源氏軍がいなくなれば自力で平家に対応する必要が出てきます。そこで洞ヶ峠をやったんじゃないかと考えます。とくに2/7は開戦初日ですから、この日の結果を見てから動いても遅くないぐらいです。ところが現実は1日で一の谷は落ちてしまい行綱の出番はなくなり多田荘に帰ったぐらいを考えています。
梶原景時の報告書に行綱の名が残ったのは、これは朝廷と言うより後白河法皇への報告書であったからで、法皇の持ち駒の行綱の活躍も書いておかないと政治的に拙いの判断であったとみなして良いと考えます。行綱が洞ヶ峠で山田村から動かなかったのであれば平家物語に書かれていなくとも不思議がない気がします。