新聞は詰んでいるか

6/2付時事通信より、新聞社に

赤報隊の散弾銃襲撃事件を忘れたか。即死した記者みたいになりたいか

こういうFaxを送ると脅迫で刑事告訴され、新聞の紙面を飾る羽目になるようです。脅迫と批評の差を理解しないと言論の自由を履き違える事になります。良識のある皆様は思いつきもしないでしょうが、老婆心までに「注意」として掲げておきます。


さて話は変わるのですが、先週の土曜日に新聞関連の公式データを少しまとめてみましたが、なにぶん新聞関連のデータは肝心の販売部数からして闇のベールに包まれて判然としないところが多々あります。それでも周知の事実として前提と出来ることがあります。

  • 新聞産業の収益構造が悪化し、大新聞社でも赤字決算を余儀なくされている
  • 販売収入は謎でも広告収入は比較的客観的な電通データがある
  • 広告収入は新聞経営の柱の一つである(2008年度の新聞協会公式データでも新聞社収入の26.4%を占めます)
とりあえず大新聞社の赤字のソースですが、読売新聞はファインドスター 広告ニュースより、

株式会社読売新聞グループ本社は、平成21年3月期単体決算を発表した。

売上高は13億2800万円、営業損益は2億5100万円の赤字、経常利益は7億5900万円、当期純利益は8億700万円となった。

読売はまだ営業損益が赤字なだけで経常利益は黒字ですが、朝日新聞となると、5/24付読売新聞より、

 朝日新聞社が24日発表した2010年3月期連結決算は、景気低迷で企業からの広告収入の落ち込みが響き、本業のもうけを示す営業利益が40億円の赤字(前期は34億円の黒字)に転落した。

 営業赤字は、連結決算の公表を始めた00年3月期以降で初めてだ。

 税引き後利益も33億円の赤字(前期は139億円の赤字)と、2期連続の赤字だった。

なかなか厳しそうな数字が並んでいます、産経新聞はチト古いのですが2008.12.26付J-CASTニュースより、

子会社の「サンケイリビング」をフジテレビに売却した関係で、売上高は978億500万円から17.4%減の808億1900万円にまで落ち込んだ。9億2900万円の黒字だった営業損益は、4億3400万円の赤字に転落。特別損失として「事業再編損」16億8400万円が計上されており、純利益は前年同期では1億1700万円の黒字だったものが、19億8400万円の赤字となっている。

単体ベースでは、売上高は前年同期が588億1200万円だったものが539億4300万円に8.3%減少。営業利益は9億2700万円の黒字が10億7800万円の赤字に転落。一方、純利益は、特別利益として「関係会社株式売却益」39億100万円が計上されたことなどから、前年同期は2億2900億円の黒字だったものが、5億8300万円に倍増している。

以後はは立ち直ったのでしょうか。優等生と言われている日経も、3/9付朝日新聞にて、

 日本経済新聞社が9日発表した2009年12月期連結決算は、本業のもうけを示す営業損益が37億円の赤字(前期は169億円の黒字)となり、連結決算を公表している00年以降では初の赤字に転落した。新聞や雑誌での広告収入の落ち込みが響いており、純損益も132億円の赤字(前期は48億円の黒字)。売上高は前期比13.1%減の3154億円だった。

もう一つの大新聞社は書くまでも無いので省略します。新聞社の収入源は三本柱で、

  • 販売収入
  • 広告収入
  • その他収入
紹介した決算報道のうち朝日と日経はともに広告収入の落ち込みを大きな理由に挙げています。とくに朝日の赤字を解説した読売記事は、
    景気低迷で企業からの広告収入の落ち込みが響き
こう解説しています。この解説が正しければ景気が上向きになれば広告収入が増加し、再び経営は安定化しそうな印象を持ちますが、本当に景気が回復すれば新聞社の広告収入が回復するかどうかを電通データから分析して見ます。


まず2008年度と2009年度の広告収入の変化ですが、

年度 総広告費 新聞広告費
2008 6兆6926億円 8276億円
2009 5兆9222億円 6739億円
減少額 7704億円 1537億円
減少率 11.5% 18.6%


総広告費が11.5%の7704億円減少していますが、新聞広告費は総広告費の減少率をさらに上回る18.6%の1537億円減少しています。これは景気低迷で新聞広告が減っただけでなく、もう一つの動きとして新聞広告離れが起こっている事を示唆するデータです。2年間の変動だけではまだ言い切れないのですが、2009年度の総広告費は前年度より減ったのは確かですが、金額から言えば2005年度の5兆9625億円と変わりません。2005年度と2009年度を比較してみます。

年度 総広告費 新聞広告費 新聞広告シュア
2005 5兆9625億円 1兆377億円 17.4%
2009 5兆9222億円 6739億円 11.4%


総広告費に差はないのに、当時の新聞広告費は2009年度では1兆円を超える金額があった事が確認できます。理由も簡明で総広告費に占める新聞広告のシュアが大幅に低下しているためです。

ここで電通データの解釈に注意が必要なんですが、2007年度から総広告費の集計法が改訂されています。改訂項目を挙げておくと、

  1. マスコミ四媒体広告費は、「雑誌」の推定対象誌を増加(専門誌・地方誌等を拡張)した。
  2. 「インターネット広告費」は広告制作費を推定した。
  3. プロモーションメディア広告費は以前のSP広告費の呼称を変更し、内訳を見直した。
  4. 「屋外」は以前の広告版・ネオンに屋外ビジョン・ポスターボード等を追加した。
  5. 「交通」は以前の鉄道・バスに空港・タクシーを追加した。
  6. 「折込」は全国の折込料金を見直して推定した。
  7. 「DM」は以前の郵便料に民間メール便配達料を追加した。
  8. 「フリーペーパー・フリーマガジン」の広告料を推定した。

これらの項目が2007年度から集計に加えられたために総広告費は増えています。ですから金額はともかくシュアについては単純比較しにくいところはあります。ただここで考えて欲しいのですが、改訂されて増やされた分野も広告費に変わりはありません。新たに開拓された広告分野とは言えますが、企業が広告するに当たり、どの手法を選ぶかは自由であると言う事です。

広告費として新聞広告を選ぶ選択枝も平等にあったはずですが、それを選ばず流れていった分野とも言えるかと思います。新聞社側から見ると、取り込めなかった広告費と言ってもよさそうな気がしています。単純比較はできませんが、十分に参考になるデータと考えます。


新聞広告が総広告費の中に占めるシュアがどうなっているかを調べてみます。広告図書館様の過去の広告費のデータからなんですが、

1990年代の初頭に大き目の落ち込みがあった後、緩やかな減少傾向を示し、2000年から減少傾向をさらに強めているのが確認されるかと思います。もう少し単純に言えば、過去19年の間、一貫してシュアの低下が続いているとも言えます。ではその間の総広告費の変動がどうなっているかです。
1993〜1994年度頃に5兆円台まで落ち込んだ後は3年ほどで回復し、2006年度までおおよそ6兆円前後で推移していると見て良いかと思います。集計の改訂があった2007年度から後の動きは微妙ですが、改訂によって増えた総広告費の増加分が2年で消えうせたとも取ることは出来ます。上述した様に改訂による増加分は新聞広告には無縁の分野で、2007年度からの減少分は、新聞広告が従来からの牙城としていた分野にも大きく影響してるだろう事は推測されます。

一方でこの間の新聞広告費の動きを見てみます。

1990年代もシュアは漸減傾向でしたが、総広告費すなわちパイの増加があり金額的にはアップダウンこそあれ、そこそこの数字を維持しています。ところが2000年以降はアップダウンのうちアップがなくなり、2005年度以降は加速度をつけて金額も減少している事がわかります。新聞広告費と総広告費の相関をグラフで表してみるともっと良くわかります。
1991年度から2003年度までは総広告費の増減と新聞広告費の増減は相関関係が認められそうですが、2004年度からは関係が乏しくなっています。総広告費が増えても新聞広告費が増えなくなっています。これは総広告費が膨らんでも、それ以上に新聞広告費のシュアが減少し、景気の上昇(総広告費の増加)の恩恵に与れない状態を示していると考えられます。

つまり景気の低迷は新聞広告収入を減らすのは間違いありませんが、景気が少々回復しても容易には新聞広告収入が連動して増加する可能性が低い事を表しているとも解釈できます。集計方法の改訂があって単純比較は難しいのですが、新聞広告の広告費の中に占める地位は長期低落を延々と続けている事は間違いありません。

とくに2004年度から2006年度まで確実に確認できる総広告費の増加と、それに対する新聞広告費の低下は非常に深刻な状態を提示しています。金額ベースによるデータでも2004年度から企業の新聞広告離れが顕著になったと出来そうな気がします。ジリ貧からドカ貧へのギアチェンジです。


さて、新聞社だって広告収入が経営を大きく左右するのは熟知しているはずです。金額としてそこそこの収入があった1990年代でもシュアの低下と言う地盤沈下は、データとして知らないはずがありません。2000年代になってその金額さえジリ貧傾向が著明になれば、この回復方法にあれこれ手を尽くしてはずだとも言えます。なんと言っても死活問題ですし、対策への情報収集は十分可能な企業でもあるからです。

しかしデータが見ての通りです。どれだけ対策を行なっても新聞広告のジリ貧傾向は止まらず、2004年度からはジリ貧からドカ貧に移る傾向さえ示しています。そうなれば経営を維持するためには、

  1. 広告収入に頼らない経営体制を構築する
  2. 新たな広告のビジネスモデルを創造し、V字回復を目指す
広告収入に頼らないとなると、販売収入とその他収入で支えなければなりません。ここで販売収入が増える見込みがあるかとなれば、誰しも疑問視するところです。データは企業の新聞広告離れを鮮やかに示していますが、新聞販売もまた新聞離れが深刻になっています。そうなるとその他収入で広告収入と、販売収入の目減り分を補う必要がありますが、かなり難しそうな課題です。

V字回復の困難さは過去のデータが示しています。よほど革命的な発想が出てこない限り、現状の低落傾向を打破するのは困難そうに思えてなりません。もちろん出てくるかもしれませんが、現在のところ世界中の新聞社が編み出せていませんから、かなり困難な課題に素直に見えます。

2つの手法が実現困難であるとすれば、景気回復による広告収入の増加を期待すると言うのもあります。ただし2009年度でも11.4%のシュアしかなく、これも2010年度には10%程度にさらに減少しても不思議ない状態です。このシュアで1兆円の広告収入を得るには、総広告費が10兆円クラスに膨れ上がる必要があります。10兆円といえば現在の総広告費の2倍弱ですから、

    超弩級のバブル景気を待ちわびる
なにか神風が吹くのを期待する経営方針になってしまいます。こういう局面を打開するには天才的な一手が必要なのですが、ひょっとしたらもう詰んでるのかなぁ。