福島だって遠慮深謀

隠すつもりもないのでssd様のところで見つけたネタと白状しておきます。比較のために必要なのでKBS福島放送の記事を引用します。

日付 3月5日 6月15日
見出し 21年度の県立病院事業の赤字が大幅圧縮 県立病院赤字23%減少/昨年度
内容

県立病院事業の平成21年度決算見込みで、純損失額(赤字)が20年度の約22億6000万円から約14億円に圧縮される見通しになった。

ただ、医師不足で十分な診療態勢が取れず患者が減ったことなどで、医業収益は20年度決算より約7億円低い約77億円となる見通しで、依然として県立病院の経営は厳しい状況が続いている。

赤字の減少は国の地域活性化・経済危機対策臨時交付金の約11億円を活用できることが主な要因。

各種費用の削減などにも努めた。

総収益は約123億円、総費用は約137億円の見込み。

国の交付金は21年度限りで、さらに21年度にスタートした県立病院改革プランで掲げた初年度の医師確保人数は達成できない見通し。

県立病院はへき地医療など収益を上げにくい医療部門も担うため、22年度も厳しい経営状況が続くとみられる。

近年の県立病院事業の単年度純損失額は、19年度が19億5500万円、18年度が22億7700万円など、高水準で推移している。


平成21年度の県立病院事業の純損失額(赤字)は17億3400万円で、前年度の22億6200万円から5億2800万円(23・3%)圧縮された。

医業外収益に国の地域活性化・経済危機対策臨時交付金の約11億円を活用したのが要因。

ただ、医業収益は75億7700万円で、前年度に比べ8億3800万円(9・9%)減少し厳しい経営状況が続いている。

県病院局が14日までに21年度決算をまとめた。

総収益は117億3400万円、総費用134億6800万円だった。

累積欠損金は241億7700万円に膨らんだ。

医業収益の減少は医師不足で十分な診療態勢が取れず、入院や外来などの患者数が減少したことが主な理由。

病院別の21年度赤字は会津総合が9億3881万円、大野が5億7425万円、喜多方1億7489万円、南会津112万円、宮下が106万円、矢吹32万円。

このほか病院局本局が4329万円の赤字だった。



御丁寧な記事で3月に病院事業の赤字が大幅に圧縮される見通し記事を報道し、6月になって見通し通りの結果(チョット違いますが・・・)になった事を重ねて報じています。報道姿勢として一貫しているとは言えますが、見出しだけ読めば福島の県立病院の経営が大幅に改善したとのイメージが振りまかれます。改善したのは決算上はウソでも何でもありませんが、報道姿勢としてどうなんだろうと思わざるを得ない内容です。

これはtadano-ry様がssd様のところに出されたコメントです。

>医業収益は75億7700万円で、前年度に比べ8億3800万円(9・9%)減少

 経営のプロは収益は気にしません。収益が減れば費用も減るからです。たとえば不採算部門を閉鎖しても収益は減りますが、費用の削減はそれ以上に期待できるからよいわけです。

…おわかりですね? 医業収支(=経常利益)こそがプロ(私は元ですが)が一番知りたいところです。それが書いてない時点でゴミ記事。記者は日経の記事くらい読んどきましょう。

このコメントになるべく答える様にしたいのですが、資料は平成20年度損益計算書(PDF形式)しか見つかりませんでしたから、記事内容と合わせて推測してみます。

勘定項目 18年度 19年度 20年度 21年度
病院事業収益 126億1392万円 116億6790万円 117億3400万円
医業収益

医業外収益

特別利益
90億7405万円
35億499万円
3487万円
84億1441万円
32億4378万円

1911万円
75億7700万円
病院事業費用 145億6856万円 139億2979万円 134億6800万円
医業費用

医業外費用

特別損失
138億850万円
5億2419万円
2億3585万円
134億3281万円
4億6334万円

3364万円
医業損益 47億3445万円 50億1840万円
純損益 22億7700万円 19億5464万円 22億6189万円 17億3400万円


さて問題は平成21年度の医業収益になりますが、ここは推定になります。推測する材料がこれだけしかないので強引ですが、特別損失は前年度並とまず考えます。医業外費用は支払利息と繰延勘定償却で成り立っていますから、ここは減ると考える事とし、平成19年度から平成20年度の減少額からして4億円程度とします。

医業外費用と特別損失が4億3000万円と仮定すれば、医業収入は130億3800万円となり、医業収益は54億6100万円の赤字とと推測されます。純損益の方は簡単で、平成21年度の医業外収益に

約11億円がプラスされたのがわかりますから、これが無ければ約28億円の赤字になります。さらにこの交付金は、平成22年度に新たな交付金が出ないとも限りませんが、無ければ平成21年度決算でカバーした分が平成22年度決算で露呈します。推測分を含みますが、病院事業の赤字の額をグラフにしてみます。
これだけでは経年変化がわかりにくいので福島県立病院年報からデータを掘り起こしてみます。まず医業収支です。平成21年度の分はここで行なった推測データです。
ついでに純損失です。平成21年度のデータからは交付金11億円を差し引いています。
ここでなんですが、医業外収益(及び特別利益)についての問題が実はあります。ssd様が残している2009年5月の河北新報記事には、

    対策として基金取り崩しで9億円、職員削減で5億円を生み出すほか、国の地域医療再生交付金も活用する。
    13年度に収支均衡を図り、累積の資金不足も11年度に解消すると説明。
    こうした取り組みによって、本年度赤字も当初予想の18億円に圧縮するという。

平成21年度の医業外収益と特別利益の和は41億5700万円になります。平成20年度は32億6289万円になり、その差は8億9411万円になります。医業外収益と特別利益のところを詳しく書けば、

項目 平成19年度 平成20年度 平成21年度
医業外収益

特別利益
35億3986万円 32億5348万円 41億5700万円
一般会計補助金 12億5640万円 11億848万円
補助金 1855万円 2397万円
一般会計負担金 21億9282万円 20億7993万円
特別利益 3487万円 1911万円


平成21年度には基金取り崩しと交付金の計約20億円が加わったはずです。そうなるとそれ以外の「医業収益 + 特別利益」は約21億円になります。基金取り崩しと交付金はある意味臨時収入になるはずですが、平成20年度のの「医業収益 + 特別利益」は32億5348万円ですから、ここからの支出は11億円ほど減って21億円ぐらいになっている事になります。

実は2009年5月の河北日報記事も妙なところがあり、

医師不足によって、福島県の県立病院事業の本年度赤字が当初の18億円から26億円に拡大する見通しである ことが、19日分かった。

そいでもって26億円の赤字を

    本年度赤字も当初予想の18億円に圧縮するという
26億円から18億円にするだけなら8億円で足りるはずで、残りの12億円はどこに消えたかになります。赤字額は2009年の5月時点よりさらに拡大して28億円になっていますが、これも5月時点の18億円に圧縮だけは見事に達成されています。交付金が11億円注ぎ込まれたのは間違いないようですが、基金取り崩しの9億円はどこに行ったのかは少々疑問です。基金は結局取り崩さなかったのでしょうか。

どうにもの記事で、赤字が18億円から26億円に拡大するから、これの穴埋めに20億円を用意し、赤字の圧縮目標が18億円とは正直なところ「???」です。取材した記者も不思議に思わなかったのでしょうか。もっとも5月時点では交付金が幾ら注ぎ込まれるか不明だったかもしれませんし、理解として基金取り崩しの9億円で18億円を目指し、さらに足りなければ交付金が使われると解釈したのかもしれません。

しかし実際は「どうやら」ですが、18億円に圧縮する目標だけが残り、赤字幅が28億円になった対策として、交付金のみ11億円が注ぎ込まれたと解釈して良さそうです。



うん、うん、うん、そっか、そっか、やっと理解できました。KBS福島の記事は記者クラブ発表ネタと考えるのが妥当です。病院事業会計は年度の初めに18億円の赤字と予想されていたのが、5月時点で26億円に拡大し、最終的に28億円になっています。当然ですがこれに対する福島県の対応が問われる事になります。問われた時に福島県の成果として胸を張って発表されたのが「当初の目標の18億円以内に留めた」であったと推測するのが妥当です。

つまり記者発表の段取りとして、

  1. 平成21年度の病院事業の赤字は「17億3400万円で、前年度の22億6200万円から5億2800万円(23.3%)圧縮された」と冒頭で成果を猛烈に強調
  2. 後は単調にダラダラと、大した事でないように、病院事業会計の改善のために交付金11億円も使ったと説明
聞かされた記者の方は、冒頭の「成果、成果、当初目標達成の大成果」の強調がどうしても頭に残り、またその他の事情からも「そう書け」という要請もあって、見出しと以後の内容が「???」な記事に仕上がったと考えます。

誰しも抱く疑問は今年度はどうなるかですが、「どうも」平成21年度には基金の取り崩しが無かった可能性が高そうですから、交付金が無くなる代わりに使えるかもしれません。基金分が9億ありますから、仮に来年の赤字が30億円になったとしても、21億円程度の赤字に押さえ込むことは可能とも考えられます。21億円程度なら平成20年度よりはマシですから、さらに翌年度に問題を先送りする事も可能です。

問題になるのは総務省公立病院改革ガイドラインの達成問題になりますが、これもまた福島県だけではなく全国各地で達成できない公立病院が多数出現すると予想されます。そうなれば福島県だけが達成できなくて叩かれる危険が回避できるだけでなく、多数が達成できないのだから「さらなる支援を」として、達成できなかった多数派の自治体と連携してウヤムヤに出来る計算もあるとは考えられます。

もっともですが、本当にそこまで深慮遠謀があるかどうかは誰にも不明です。