将来のことは置いとくとして今の愛車はモンキーだ。モンキーはね、コータローを引き合わせてくれただけじゃなく、あきらめていた花嫁にもしてくれたんだ。だからモンキーは愛車と言うより愛の車、愛のバイクなんだ。そんなモンキーに乗ってコータローとするツーリングはまさに愛の行為だ。
「そんなん言うけど、バイクに乗って愛の行為なんて出来へんで。世の中にゼロとは言わんけど」
あのな、そんな状況で誰がやるもんか。見世物じゃないんだから。そもそもだぞ、もしやるとしたら前からじゃ無理だ。
「そやな。千草が跨ったら前が見えへんもんな」
前方の視界を確保しようと思えば後ろからになるけど、あんなもんぶち込まれながら運転なんか出来るか!
「そうやな。オレが運転するにもやっぱり千草が前に跨るから視界が悪いわ」
コータローは入れながら運転できるって言うのかよ。そもそもだぞ、そんなアクロバチックプレイを追求しなくても普通にベッドで励めば良いだけじゃない。まさかと思うけどコータローはもう倦怠期に入ったとでも言うの!
「自分を誰やと思うてんねん。千草やぞ、そんなもん百歳になっても毎日ヒーヒー言わしたるわい」
そこまでは無理だろ、
「老いらくの恋を知らんのか」
それたぶん使い方を間違ってるぞ。そんな事はともかく、どこにツーリングに出かけるかが今日の話題なんだよね。
「どうしても行ける範囲の制限の出て来るのがモンキーや」
ツーリングは道路さえ走れば出来るようなものだけど、だからと言って近所へ買い物に行くのをツーリングとは言わないのよね。ツーリングの楽しみとは走る楽しみになるのだけど、走って気持ちの良いところじゃないと話にならないもの。
市街地の信号地獄なんか仇敵にしかならないってこと。神戸に住んでるから、そういう道に出るまでの市街地走行はどうしようもないにしろ、市外に出てからだってバイク乗りが走りたい道はどうしたって限られる。
「クルマのドライブより狭いかもしれん」
う~ん、そこはどうだろ。ドライブもツーリングも似たところがあるけど、やはり同じじゃない気がする。どっちも道路を走って楽しむ点では共通してるけど、バイクの方が走れる道の範囲が広いんじゃないかな。
その差として大きいのはサイズだ。とくに横幅。軽自動車でも横幅は百四十センチあるんだよ。5ナンバーなら百七十センチになるし、大きなワゴン車になると百八十五センチもある。大型トラックなんか二百五十センチだ。
「バイクやったら、一番大きくて百センチぐらいやろ」
ちなみにモンキーで七百五十五ミリだけど、大型バイクの平均でも七百七十ミリぐらいなんだって。バイクは大きくなれば重くなるし、長くなるけど人が乗って運転するものだから、ハンドルの幅は巨大化しないはず。
「あんなもんが二メートルもあったら運転できるか!」
バイクの車幅はイコールでハンドル幅だから軽自動車の半分ぐらいとして良いかな。そうなると同じ道幅でも感覚はかなり変わってくる。
「すれ違いのプレッシャーも軽くなるで」
狭い道で嫌なのはすれ違いだものね。言うまでもないけどバイクだって広い道の方が嬉しいけど、狭い道を走るというか、狭い道を楽しめる範囲が広いと思う。それだけじゃなく、
「狭い道はクルマが嫌がるから空いてるのもある」
結果的にそうなる。ツーリングで求めるものに快走があるんだよ。快走ってぶっ飛ばせるって意味も含まれてるけど、それだけじゃなく信号が少ないとか、
「クルマが少ないのはある」
クルマの後ろを走るのは嬉しくないものね。もちろん不可避の部分はあるけど、出来ればいない方が理想だ。クルマだってそうだろうけど、信号が少なくて、空いている道だってちょっと困るのはいる。
「こんな道で堪忍してくれってクルマはおるもんな」
交通法規を守るのは良いことだと思うし、千草だってなるべく守って走ろうとはしてる。でもさぁ、それでもって道があるじゃない。それを言うとツッコンで来るのが多いからこれぐらいにしとく。ともかく快走路を求めると抜け道、裏道を探すことにはなる。そういう道は、
「カントリーロードや」
人が多く住むところはクルマも増えるものね。とはいえ裏道、抜け道がすべて快走路になるかと言えばそうじゃない。今どきの事だからあれこれ事前に調べる手段はあるとは言うものの、
「実際に走らんとホンマのとこはわからん」
快走路を求めて走るのがツーリングの本質だけど、ここからは趣味が分かれて来るところはある。一つはひたすら走る派だ。
「それは分かれる言うより、楽しみ方の差や」
ツーリングはたとえ日帰りでも旅だと思ってる。千草は旅に目的が欲しい派かな。そりゃ、バイクで快走路を走るのがツーリングの本道と言っても、そこになにかプラスアルファが欲しいぐらい。
「ダムマニアはわりとおるで」
みたいだね。マニアとまで言わなくても目的地とか立ち寄るところにダムを設定している人は多い気がする。ダムにはダム湖がセットで付いてるからレイクサイードツーリングも追加される感じかな。
「ダムがあるようなとこは景色もエエからな」
他にはグルメツアーも盛り込んでる人も多いかな。この辺はバイク乗りだから、ラーメン屋とか、そば屋とか、リッチして坂越のカキなんてのもある。ココロはバイク乗りのファッションでもTPO的に問題がないところぐらい。
「アイスクリームとかもあるで」
あるあるだ。暑い時期のツーリングでアイスクリームが待ってると思うだけでテンション上がるもの。とは言うものの、ここで行動半径の縛りがネックとして出て来る。
「日帰りやったら二百キロが一つの目安になってくるわ」
二百キロ走ろうと思ったら下道ならだいたいだけど七時間は見ておく必要がある。もちろん走る道によって変わる部分はあるけど、これがおおよそ一時間に三十キロぐらいなんだよね。
「なかなか四十キロに届かんからな」
実際に走って見るとそんな感じなんだ。この時間には休憩だとか、お昼ご飯を食べたり、ちょっと観光を楽しんだりも含む時間だよ。もちろん二百キロ以上を走る人だっていくらでもいるけど、そうだね、三百キロになるとかなり根性がいるものね。
「若桜まで行って三百キロちょっとぐらいや」
もうちょっとあっただろうが。あの時はコータローが給油を粘り過ぎて、千草の生理現象がなかったらガス欠になってたぞ。
「あれはヤバかった」
それ以上に千草の生理現象もヤバかった。
「そやけど高速走れても日帰りの限界は言うほど変わらんぞ」
それはツーリング動画を上げてる人を見ればわかるのよね。あの手の動画は、こんなところを走りましたってなるのだけど、十回ぐらいでタネが尽きてる人が多い気がする。これは見ようなんだけど、
「基本は日帰りやんか。住んでるとこからやったら、それぐらいしかお勧めコースが無いとも言えるんちゃうかな」
動画に上げるぐらいだから、手持ちの中でも良い方だと思うけど、それでもそれぐらいって見えないこともない。
「何回も同じコースを出せんやろしな」
見る方からしたらそうだし、上げる方だってそうなりそう。高速を使えば行動半径は広がるけど、お勧めできるコースとなるとそれぐらいで手持ちが終わってしまう気がする。でもさ、でもさ、ツーリングの楽しみとして見知らぬ道を走るのは絶対にある。
「UFOラインとかしまなみ海道、やまなみハイウェイや、ミルクロードか」
あれは良かったなんてものじゃなく、まさに感動だった。バイクに乗っていて良かったと思ったもの。この道を走るために生きていたんだと思ったぐらい。さすがは全国でも屈指の名ツーリングコースと思った。でもさぁ、あんなところがお手軽にいくらでも転がってる訳じゃないのも現実だ。
「家から行けるところは限られてまうもんな」
それをなんとかするのがコータローだろうが。なんのために千草の夫をやらしてあげてると思ってるんだ。
「夜は頑張っとるが」
あれは満足してる。でもあれはあくまでも夜の話だ。千草の夫なら昼も満足させろ。
「昼もやるんか」
そうじゃない。千草はそこまで助平でも淫乱でもない。そりゃ、千草の体はコータローに染められた。あれも相性と言うけど、コータローとの相性はこの世で最高だと思ってる。けどね、あれだけが夫婦の楽しいのすべてじゃないだろうが!
「だから朝から・・・」
そのために朝から裸エプロンの要求を持ち出すな。たく千草の裸エプロンを想像するだけで欲情する変態はこの世でコータローぐらいしかいないぞ。
「もう一人欲しいんか」
いらないよ。そういう趣味は千草に無い。千草があれを好きにさせられたのは認めるよ。そうしやがったのはコータローなのも認める。けどね、千草は愛する男以外は絶対にNOだ。千草が体を許して良いのはコータローだけだ。