ツーリング日和26(第2話)LUUP

 モンキーは小型バイクだから高速も自動車専用道も走れないのはやはりネックにはなるのよね。だからと言って、

「オレは一五〇CCに乗るやつの気がしれん」

 難しい問題だけど、それだったら中途半端な気がするのは千草もそうだ。一五〇CCになれば高速だって自動車専用道だって走れるメリットはあるし、

「原付二種の十五馬力の自主規制からも外れるやろうけど」

 その代わりのデメリットも大きくなるものね。単純には維持費の増大だ。たった二十五CCの差と言っても、一五〇CCになれば中型に分類されてしまう。それだったら、

「素直に二五〇CCに乗ったらエエと思うねん」

 千草もそう思う。ここも二五〇CCになれば重くて大きくなるからは出て来るとは思うけど、この辺のメリット、デメリットの受け取り方は人それぞれだから構わないけどね。一五〇CCはともかくLUUPはどう思う?

「あれやったら電動チャリでエエと思うた」

 千草もそう。見かけたことあるけど、なんか無理があるのよね。

「オモロそうには見えるし、使い方次第やと思わんこともないけど、あんなもんよう認可したもんや」

 コータローもLUUPに魅かれた時期があったのか。あの手の乗り物は電動スケボーとして昔からあるものね。もしかしてバック・トゥ・ザ・フーチャーの影響とか?

「千草も若いと思うたが・・・」

 同い年だ! コータローが目を付けたのは電動じゃなくエンジン式だったのか。

「それもガソリン式とガスボンベ式があって、ガスボンベはカセットコンロのやつやねん」

 そんなのがあったのか。スタイルはキックボードでハンドル付きって言うから、今のLUUPに近いよね。

「そうやねんけど、まだ認可されてへんから、公道を走るために・・・」

 シートが必要なだけではなくウインカーもあり、要するに原付一種として認められるようになってたぐらいで良さそう。コータローはガスボンベ式にかなり魅かれたみたいだけど、

「高いのもあったし、やっぱり走れへんねん」

 モンキーも非力だけけど、そんなレベルじゃないよね。峠道どころか、街中の登りでも苦戦するレベルだったで良さそうだ。

「それやったら素直に原チャリのスクーターでエエやんかになったぐらいや」

 コスパ考えるとそうなると思う。LUUPの欠点は誰もが感じてるけど、タイヤが小さいし、ホイールベースだって短いし、

「立って乗るから重心高いやんか」

 タイヤが小さいとギャップに弱いのよね。舗装路だって荒れてるところは少なくないし、モンキーでもギャップにヒヤッとする時は幾らでもあるもの。ギャップに引っかかるとどうしたって前に重心がかかるから、

「転ぶどころか前に吹っ飛ばされるわ」

 なると思う。バイクだってと言われそうだけど、バイク乗りからみても危なっかしい乗り物に見えて仕方ないのがLUUPだ。

「手軽さは認めるけど、やっぱりあんなもんよう認可されたと思うてるわ」

 それは千草も思った。似たような乗り物が前にあったじゃない。なんだっけ、車輪の二つの上に乗って走るやつ。

「セグウェイやろ。あれも公道は走れんかったな」

 良くも悪くも新しい乗り物について警察は保守的だけど、LUUPは突然浮上して、あれよあれよと認可されちゃった感じだった。あれって、

「誰がどう見たって政治の力や。政治がゴリ押しした時は札束が動いとる時やろ」

 そうなるよね。それでも認可されちゃったけど神戸じゃあんまり普及しない気がする。

「そうなるわ。神戸は東西こそフラットやけど、南北はひたすら坂の街や」

 電動チャリでも苦戦する坂はいくらでもと言うより、普通にあるもの。この先どうなるかぐらいの話だけどね。LUUPは興味もないからこれぐらいにして、バイクも電動化するの?

「長い目で見たらそっちに動きそうやけど、クルマかって苦戦中やんか」

 一時は猫も杓子もみたいな勢いだったけど、頓挫というか足踏み状態に戻ってしまった感じかな。やっぱりまだ不便だよ。

「リチウムイオン電池は偉大な発明で、あれでEV車への道が開かれたところはあるけど、同時にEV車の限界になっとるからな」

 そんな感じだと千草も思った。それでも十年単位で見たらEV化へは進んで行きそうだとは感じてる。あそこまでEVにこだわりまくる理由が千草にはわかりにくいのだけど、

「カネと政治やろ。世の中はカネの臭いがするところに人が集まり、動かしていくのは今も昔も変わらへん」

 こっちはなるようになるのを受け入れるしかないけど千草はモンキーが好きだ。

「オレもや。やっぱりガソリン燃やして走るエンジンが好きやねん」

 その時が来ればその時だ。そうそう、ホンダのなんだっけ、

「Eクラッチやろ」

 あれはどうなの?

「わからんな。クルマ乗りに比べてバイク乗りは保守的やからな」

 オートマの一種で良いと思うし、あれはあれで便利そうではあるけど、別にクラッチで良い気もするのよね。サーキットでタイムを競うレベルなら違うだろうけど、公道でオートマにそんなにしたいのかな。

「ホンダは昔からバイクのオートマに熱心やねん。クルマがそうやからバイクもそうなるはずの見方やろ」

 日本で最初にクルマにオートマを搭載したのがホンダで、その時にバイクのオートマも発売してるんだって。クルマのオートマは今に至るで良いけどバイクは、

「さっぱり売れんで、今では珍車扱いや」

 それでもホンダはあきらめずEクラッチもそうだけど、デュアルクラッチなんかもあったはず。

「とりあえず自動遠心クラッチは大成功やし」

 スクーターはVベルトだものね。けどさぁ、けどさぁ、スクーターとかカブはともかく、バイク乗りってクラッチをそんなに苦にしてないと思うよ。

「そうなんよな。クラッチ操作も含めて楽しみぐらいに思うてるのは多いで。なかったら寂しいぐらいや」

 そこからコータローは独り言のように言ってたけど、クラッチは体が覚えてしまえば運転している時には意識も無いぐらいだけど、初めてバイクに乗る人にはかなりのハードルになるだろうって。

 千草は教習所で免許を取ったけど、それはわかるのよね。千草だって最初はエンストやらかしたし、見てるといつまで経っても発進できないのはいたもの。ここでだけどさぁ、バイク人口は八十年代ぐらいに較べると一割ぐらいに減ってるのよね。

 メーカーにしたらとにかく免許を取ってくれないとバイクが売れないから、より取りやすいAT免許を次の主戦場と考えてるのじゃないかって。モンキーみたいなカブエンジン派生型の車種展開もATが多いものね。それでもね。千草はクラッチも好きなんだ。

「オレもや。気が合うな」

 合わないのなら離婚するぞ。

「心配せんでも墓まで一緒や」

 当然だ。誰が逃がしたりするものか。