新聞協会データの周期的ウォッチング

日本新聞協会の2010年度の財務データがやっと出ました。新聞協会HPには1999年からしかありませんが、個人的に1997年からデータを残していますから示してみます。

見ればそのままなんですが、2000年時点で25223億円あった売上高が2010年度には19323億円になっています。金額にして5900億円、率にして23.9%の減少です。新聞業の三大収入は「販売収入」「広告収入」「その他収入」に分類されています。「販売収入」「広告収入」は明らかな減少傾向を示していますが、とくに減少が著しいのは広告収入です。新聞業界の広告収入の別の指標として電通データがありますが、これと合わせて見てみます。

電通データは集計法の変更があり、2000年からのデータを比較し難いので、集計法がそろっている2005年データからを表にして見ます。

電通データのおおよそ70%が新聞協会データの広告収入となっており、その点から言うとある程度の信用性が置けます。新聞業会の売上高は2010年に較べて5900億円減少なんですが、そのうち広告収入の減少は4516億円となり76.5%を占めることになります。これだけ見ると新聞不況は広告収入「だけ」がとくに大きな問題になってしまいそうですが、公式報告上はそうなっているぐらいにさせて頂きます。

広告収入が減ったがために、新聞業界の売り上げ構成もおもしろい事になっています。新聞業界の収入は「販売収入」「広告収入」「その他収入」に3分類されているのですが、このうち販売収入と販売収入が占める割合をグラフにしてみます。

広告収入が激減しているので当然こうなると言えばこうなります。販売収入自体も2005年あたりから年々漸減傾向が強くなっているのですが、それに反比例するように総売上高に占める割合が急伸しています。販売収入だって広告収入に較べれば目立たないものの2000年に較べると1025億円の減少があるにも関らずぐらいには付け加えさせて頂いても良いとは思います。

広告収入もそうですし、販売収入ももちろんそうなんですが、新聞協会データは「売上高」です。売上高に対する収益は公表されていません。売上高が減少していく中で、売り上げに対する収益が確保されているかどうかは興味があります。平たく言えば売り上げの質です。売り上げの質の見方は簡単には2通りあって、

  1. 損益分岐点的な見方
  2. 貧すれば鈍する的な見方
これを客観的に評価するには会社の決算を詳しく見る努力と知識が必要なんですが、今日はもう良いでしょう。


視点を少し変えてみます。新聞業界が斜陽産業であるのは新聞協会の公式データだけで誰でもわかります。これだけ売上高が減少すれば苦しくないはずはないという事です。いかなる業界にも盛衰はあり、衰えが見られるときにはその業界全体の地殻変動が見られるはずです。わかりやすい現象としては倒産であるとか、サバイバルのための合従連衡です。

10年間でこれだけ売上高が減少すれば何か反応が起こっても不思議無さそうですが、殆んど聞こえてきません。幾ら情報の支配者であっても、さすがに倒産とか大手の合併みたいな話はニュースになるかと思ってはいますが、個人的には存じません。新聞業界の経営苦境は風の噂ぐらいにはありますが、無事2010年度決算も乗り切っただけではなく、決算を受けてのリアクションも必要なかったのか、業界構造的に動くに動けないのかぐらいに考えています。

個人的には2011年度の新聞協会データが果たして公表されるかどうかに非常に興味があるのですが、これは来年のお楽しみにさせて頂きます。


補足情報

売上高が減り、収益も減れば、経費節減がまず行われます。経費節約といえば人件費節約が思い浮かびますが、これも新聞協会に出ていました。データを見る上の注意なんですが、2010年11月1日現在の新聞協会加盟社数です。

新聞 通信 放送
106 4 23 133


新聞協会の財務データが加盟106社すべてかと言うとそうではなく、2010年で94社です。従業員数の調査も2種に分かれており、
  1. 全数調査
  2. 回答社調査
全数調査は総数のみ掲載されており、部門別の人数は回答社調査になっています。従業員調査は2011年度までありますが、回答社調査のカバー率は一番低い時で94%、一番高いときで99%になっています。この点を御注意下さい。この辺を表にしておきますと、

年度 記者数回答 従業員総数 バー
全数調査 回答社調査
2000 80 59117 56208 0.95
2001 78 57860 54565 0.94
2002 76 57105 54015 0.95
2003 81 55806 53488 0.96
2004 80 54436 51863 0.95
2005 71 52683 49523 0.94
2006 77 52262 49668 0.95
2007 80 50911 48069 0.94
2008 90 50042 48331 0.97
2009 91 49075 47599 0.97
2010 95 47295 46433 0.98
2011 97 45964 45318 0.99
2011-2010 -13153 -10890

全数調査でも回答社調査でも約2割のリストラを行っている事になります。財務状況は上記した通りですから、厳しいものだと思ったのですが、部門別の従業員の推移をみると面白いことに気が付きました。2000年時点と2011年度の従業員数を単純に比較してみます。
年度 従業員総数 編集部門 製作・印刷・発送部門 営業部門 出版・事業・電子メディア部門 統括・管理部門 その他
総数 うち記者
2000 56208 23587 19434 11802 7772 3790 3691 5296
2011 45318 22891 20305 4462 7008 2804 3725 4428
増減 -10890 -696 +871 -7340 -764 -986 +34 -868

見ればお判りのようにダントツで大きく減少しているのは「製作・印刷・発送部門」です。続いて「出版・事業・電子メディア部門」「営業部門」「その他」ですが、従業員数減少の8割近くが「製作・印刷・発送部門」であるのが確認できます。この「製作・印刷・発送部門」が経営が厳しくなってから従業員数が減少したかですが、
見ようなんですが、「製作・印刷・発送部門」の従業員減少は売上高が減少する以前に始まっていたと見れそうです。2000年には1万2000人近くいたものが2005年には7000人を切り、さらに2007年には5000人を切っていますから、この時期に「製作・印刷・発送部門」に何らかの技術革新があり、人出が大幅に不要になったのではないかと推測します。ひょっとするとこの時期の従業員減少が、先行リストラになって経営を支えているのかもしれません。 ちょっと興味深かったので御紹介だけさせて頂きました。