リテラリシーと言うより推理遊戯

6/4付中国新聞より、

実態2時間、高額報酬 山口大医学部教授

 山口大大学院医学系研究科(宇部市)の杉野法広教授(49)=産婦人科学=が、下関市立豊浦病院から「非常勤医師」名目で毎週、高額の報酬を得ていることが3日、病院などへの取材で分かった。教授が大学に提出している兼業承認申請書は「週1回、7・75時間勤務。7万5千円」となっている。しかし、午前中の2時間程度の勤務でこの額を受け取っている。2004年度からで総額は2千万円を超えるとみられる。

捻りは利いていますが、まとも批評はssd様の7.5万円出せば教授が飛んでくる実例を御参照下さい。出来るだけ簡略に説明しておけば、山口大の教授が7.75時間で7万5千円の兼業申請であったのが、実態は2時間で7万5千円であるから

    問題だ!
こういう風に批判されているものです。

何と言うか、何を批判しているのかポイントがわかりにくい記事なんですが、とりあえず教授は兼業の承認を正式に得ています。バイト料を支払うのはバイト先病院ですから、この状態でも5年ぐらいは文句も言わず支払っています。教授の仕事振りに応じて支払うのはバイト先の病院ですから、7.75時間働いてもらおうが2時間であろうが、それで価値があると認めれば問題ないはずです。

あくまでも推測ですが、もともとが2時間で7万5千円であり、バイト先の病院は公立病院ですから、手続き上、7.75時間働いた事にしていた可能性も十分あると思っています。教授側も手続きの整合として大学には7.75時間として手続きしているみたいな感じです。こういう事も不正とは言えますが、世の中ではままあることです。

2時間で7万5千円は確かに相場よりかなり高いですが、これも考えようで、現役の大学教授に普通の病院で気軽に診察してもらえるメリットの評価と言う事になります。こういう点に価値を見出す患者も少なくないですし、実際に診てもらわなくとも、そういう「大学のえらい教授」が外来にいるだけで病院のアピールにつながります。直接的にも間接的にも、そういう点を集患効果として高く評価すればあり得ない金額とは必ずしも言えません。

あくまでもたまたま知っている実例ですが、マスコミにも良く登場し、政府の事業仕分け人にも参加された某有名心臓外科医は、1996年頃ですが1回の心臓外科手術の病院からの報酬が約10万円で、それ以外に半年足らずでベンツの謝礼をもらっています。世の中にはそういう相場感覚もあると言う事です。某有名心臓外科医に対しては、それぐらいの報酬を支払ってもバイト先病院としては十分にメリットがあった事になります。

手続き上は若干の不手際はありますが、これだけで騒ぐのもチト妙なお話です。本来と言うか、記事に仕立てるなら

  1. もともと7.5時間勤務のはずであったのが、2時間に勝手に短縮され、なおかつ報酬は7.5時間分要求されて困っている
  2. 医局からの医師派遣の見返りに高額報酬を強要されていた
これぐらいの「悪事」はセットで欲しいところです。これなら高額報酬の裏にカラクリが存在し、不正な高額報酬との色彩が強く出ます。ところが支払い側のバイト先病院のコメントは、

中村事務長は「私はその時間でのお願いは知らなかった」。上領頼啓病院長は「自分の名前で依頼文書を出していることも知らない」と話した。

額面通りに受け取れば、何の事やらミカンやらのコメントを残しています。これもまた額面通りに受け取れば、教授が2時間で7万5千円の報酬である事に何の不満どころか、気にさえしていなかった事を示しています。



さてなんですが、推理遊戯です。記事のリンク先を確認して欲しいのですが、金銭的な事実関係が妙に詳しい事がわかります。はっきり言って記事にはそれしか書いてありません。この金銭的な情報ですが、通常はそう簡単には判るものではありません。つまり誰かが中国新聞にタレこんだ可能性が濃厚と考えられます。ですから情報としてはその点だけは妙に詳しいと言う事です。

仮に教授の何かに不正を感じ記者が掘り起こしたものであるなら、この程度の情報はまだ記事にする段階のものではなく、本丸の不正が明らかになった段階で、ついでに叩く材料程度であるからです。これだけの情報で記事に書きたてると言う事は、情報がこれだけしかなく、これだけで後は高度の創作性で疑惑を大きくする様に依頼されていた可能性を考えます。

そうなると記事の読み方としては、誰が何のためにこの情報を中国新聞にタレこみ、この教授を貶めようとしたかになります。利害関係者として思い浮かぶのは、情報源との関係も考慮に入れると、

  • バイト先病院
  • 産婦人科医局
  • その他大学関係者
この辺りに絞り込まれる事になります。

このうちバイト先病院は、産婦人科医の派遣を受ける立場であり、わざわざ教授との関係に波風を立てる必然性が少々低い事になります。内部的に7万5千円が問題になりかけていた可能性も考えられますが、今後の関係を考えると、こんなに表立って事を構えるのはデメリットが大きいと考えられます。もう少し穏便に事を進めるだろうと言う事です。

産婦人科医局となると教授の追い落とし、誰かが後釜に座る陰謀論が思いつきやすいのですが、問題は教授の年齢でまだ49歳です。ここは49歳だから年齢的に教授にもうなれない「とある人物」の陰謀も考えられなくはありませんが、それほどの遺恨を残す教授選でも行なわれたのでしょうか。私も医局の事情はお世辞にも詳しくありませんが、一般的に教授選がいかに激烈であっても、任期中に追い落としまで行なわれるのはドラマの中の話だけのように思います。

その他大学関係者ならどうかです。教授の上の肩書きとなると、附属病院長とか、学長になりますが、これを巡る争いにでも巻き込まれているのでしょうか。かつては、学長選とかで怪情報が乱れ飛ぶなんて事もあったとは聞いた事もありますが、新聞まで巻き込んでの騒動は滅多にあるものではありません。テレビドラマの様に、そうそう日常的に白い巨塔が展開されるわけでは無いからです。

通常は年功序列の順送りで、よほど歳が近い実力者が並立し、さらに感情的にも対立した時に、ごく稀に起こる程度です。それにここも教授の年齢の49歳が立ち塞がります。山口大の内情など知りようがありませんが、そんな内紛が学内で燃え盛っているのでしょうか。テレビドラマ的にはありそうではありますが、実際となると「さぁ?」てな感じです。


ここで大学関係者のスモール・バージョンはあるかもしれません。学長選までスケールの大きな院内抗争劇ではなく、個人的な怨恨の線です。理由はなんでも良いのですが、この教授になんらかの恨みを抱き情報を中国新聞記者にリークした可能性です。この線は結構現実性があり、たとえば事務系職員なら教授の兼業申請の内容や期間、さらには金額の情報を集めるのは可能です。

この線ならバイト先の病院関係者の可能性も浮かんできます。こちらの方が、兼業申請の内容と、実態の差の情報を収集しやすい立場です。記事情報も大学関係の情報は兼業申請書の内容だけであり、主にバイト先病院の情報ばかりですから、これだけの情報を個人で集めタレ込むのであれば、バイト先病院の事務系職員の方が可能性は高いと推理されます。

もうちょっとだけ推理を広げれば、記者とタレコミ者の間に個人的な関係があったと考えるのも成立します。個人的な関係で頼まれたので、記者も腕を揮って記事を書いたという線です。

ところで元はなんの話だっけ。ま、いっか。