萩市休日夜間急患センター

まずは10/25付中国新聞より、

 地域の医師不足に対応し、主に1次救急医療を担う「休日夜間急患センター」の建設が萩医療圏(萩市、阿武町)で始まった。長門医療圏(長門市)でも近く着工し、来秋までに山口県内8医療圏すべてでそろう見込み。

 萩市は同市椿の市民病院隣に約5億5千万円(医療機器などを除く)をかけ、鉄筋2階延べ約1700平方メートルのセンターを建設。日曜と祝日、年末年始などの1次救急を24時間体制で担う。開業医の負担を軽減し、医療研修や災害時対応の場としても機能させる。

 長門市も中核病院の負担を減らすため、同市仙崎に約5億2400万円をかけ鉄筋2階延べ約980平方メートルのセンターを建設。平日夜間と休日の1次救急に対応する。いずれも県の地域医療再生基金を活用し、2013年10月に開業を予定する。

要は夜間休日診療所を公設で作ると言うお話です。カバー時間は、

    平日夜間と休日の1次救急に対応
ありきたりの時間帯ですが、開業医なり病院がカバーできない時間帯に稼動するです。よくあるお話なんですが、ここの問題点は記事の続きにあって、

 両医療圏では医師の高齢化も深刻で、40歳以上が約8割、65歳以上は2割を超える。萩医療圏では高齢化などを理由に05年以降、内科や小児科など6医療機関が廃業した。1次救急は内科13、外科11の病院・診療所が年中24時間の当番医体制(一部地域を除く)で対応するが、医師の高齢化や減少で維持が難しくなっていた。

調査の手間の関係で萩市に話を絞りますが、現在は当番医制でやっているとなっています。この辺について2012年10月1日付「市報 萩」には、

 現在、萩保健医療圏の人口10万人に対して医師数や看護師数は、県内8保健医療圏のなかで最下位となっていますが、圏域内の一次救急は、在宅当番医制により24時間365日対応するという全国的にもあまり例のない先進的な取り組みが続けられています。しかし、医師不足と医師自身の高齢化などにより、圏域の救急医療をはじめとする医療提供体制は崩壊の危機に瀕しています。

在宅当番医制が維持できなかったから夜間休日診療所を新設するとなっています。でもって萩市医師会HPで医師会所属医療機関数を確認すると、37医療機関しかありません。37医療機関と言っても内科がある医療機関は27ヶ所です。さらに萩市大島診療所、萩市見島診療所が入っていますから参加は無理で25ヶ所です。

ではでは25ヶ所の医療機関がすべて参加しているかと言うとそうでもなさそうで、11月分と12月分の救急医療担当医療機関を見る限り11ヶ所ぐらいしか見当りません。つまり月3回ぐらいは回ってくるです。さらにを言えば、参加している10ヶ所余りの医療機関のうち5ヶ所は病院であり、萩市民病院まで参加されています。

憶測になりますが、萩市で在宅当番医制が始められた頃は開業医だけで行われていたと考えます。しかし年数が経つにつれ開業医の高齢化が進み、当番参加開業医が漸減したと推測します。そのためある時期から開業医だけでは支えきれず、病院も当番に参加したものと見ます。なんとなく萩市医師会が悲鳴を上げ、在宅当番医制廃止の動きを見せたのに萩市が動いたぐらいの経緯はありそうな気がします。

病院参加も当初は応急処置的なものだったと考えますが、開業医の当番参加はますますやせ細り、いつしか病院が主体にならざるを得なくなっていったです。これは当番参加医療機関が減るほど負担が大きくなり、当番医療機関からの脱落に拍車がかかった面もあるように思われます。まあ、当番表を見る限り夜8時から翌朝8時までのオールナイト当番であり負担は軽いとは言えないと見えるからです。


そうなるとこの手の夜間休日診療所の定番である「医師会主体の運用」は最初から殆んどアテに出来ない状態が萩市には先に出現していたと考えられます。そりゃ、それ以前に在宅当番医制が崩壊寸前であるからです。そこでハコモノとして

これを新たに作ったと言う展開のようです。とは言え前提として萩市では夜間休日を支える医療戦力は先に枯渇しています。ハコモノがあっても医師がいないと医療機関は稼動しません。そうなるとセンターを支える医師は「どっか」から引っ張ってこなければなりません。これについて11/14付中国新聞には、

地域の医師不足をカバーするため、休日夜間急患センターの整備を進める萩、長門両市が、開設まで残り11カ月となった現在もセンターの勤務医を1人も確保できていないことが13日、分かった。両市では開業医が減り、休日や夜間の対応に負担が強まっている。センターには状況緩和の期待がかかるが、心細い現実が明らかになった格好だ。

どうもですが、建設計画は粛々と進めたものの医師を引っ張ってくる算段はなおざりであったようです。ま、気持ちはわからなくもありません。この手のハコモノの建設には補助金申請のために膨大な書類仕事がお待ちしています。萩市の担当者はその折衝に全力を使い果たし、医師を集めるところまで手が回らなかった可能性は十分あります。

確か萩市山口市はクルマで1時間程度だったはずで、最低限の算段として山口大に頼み込めばなんとかなるぐらいのつもりだった気もしています。ところが同日記事には、

県内の医師養成、派遣を主に担ってきた山口大医学部も「うちも医師不足は深刻。派遣できればいいとは思うが現時点では難しい」としており、打開の糸口はつかめない厳しい状況だ。

どうもですが山口大への根回しも行ってなかったようで、頼みに行って断られてビックリ仰天みたいな様相でしょうか。山口大がダメなら後は推して知るべしみたいな現実が担当者の眼前に展開したぐらいでしょうか。



ところでなんですが、記事を読むとこれも「どうも」なんですがセンターの医師の勤務形態は常勤医みたいに受け取れます。これも同日記事ですが、

センターに必要な医師数は明かしていないが、いずれも「1人以上で開業日を回せる数が必要」と医師確保に奔走している。

すごく気になるのですが、

    1人以上で開業日を回せる数
う〜ん、こりゃ予定通りに医師を集めたとしてもほんの2〜3人程度を想定している気がどうしてもします。たとえば10人以上を想定している気がどうしても感じられないです。現行の在宅当番医制は内科・外科が基本で休日には産婦人科も参加するみたいな感じです。産婦人科はともかくやはり内科・外科の2本立てぐらいは通常は計画されます。カバー時間は
  • 平日は夜8時から朝8時まで(現行の在宅当番医準拠)の12時間
  • 休日は24時間
1週間で考えると
  1. 月曜〜土曜は12時間(土曜も夜8時から日曜の朝8時までとする)
  2. 日曜は24時間(日曜の朝8時から月曜の朝8時まで)
単純計算で96時間あります。ここで記事の表現ですが「1人以上で開業日を回せる」ですから、常勤医は連日勤務を想定しているように見えます。とは言え1人で96時間はチトどころかかなり無謀です。そうなると2人は欲しいところですが、2人でもあんまり嬉しい勤務シフトではありません。2人なら1人あたり48時間で、勤務時間としてはラクとも言えますが、当然の事として昼夜逆転の生活が延々と続く事になります。

これは家族持ちにも嫌がられるでしょうし、独身であっても長期はあまり歓迎しないと思われます。とくに冬場なんて、日が暮れてから出勤し、夜のうちに帰宅してまた眠る生活はどこかで心身の不調を来たしそうな気がします。さらに言えば、そういう勤務シフトですから経験の浅い若手では技量の点でも、これから経験を積むと言う点でも敬遠されると思います。


推測と言うより憶測になりますが、萩市内の医療機関からの戦力供出をやるのは難しいが話の前提にありそうな気がします。つうか萩市医師会が救急から「もう手を引きたい」の意向があったとしてもおかしくありません。だから常勤医でセンターを回そうです。ただなんですが、運営上で赤字の垂れ流しは困るです。そのため医師の募集人数はかなり絞った可能性はあります。それこそ2〜3人で回したいです。

先ほど山口大への根回し工作をやっていないとしましたが、構想段階での接触は実はあり、その時にはある程度前向きの返答をもらっていた可能性はあると見ます。これも推測ですが、山口大もバイト医の供給ぐらいのつもりで受け取っていたのが、最終段階で提示されたのが常勤医構想であったです。判り難い言い回しになりましたが、私の推理では山口大が受け取っていた構想は、

  1. センターの主体はあくまでも地元医療機関である
  2. 山口大はバイト医をある程度供給し地元医療機関の負担緩和に協力する
これぐらいじゃなかったかです。ところが最終的に蓋を開けてみるとセンターの医療を少人数で回す常勤医構想であり、こりゃ無理だとお断りしたです。新たな派遣病院を2ヶ所(萩市長門市)を抱える余力は残念ながら無いです。そうなれば後はどうするかですが、
  1. 萩市萩市医師会に掛け合って、センター出務を主となって行う事を要請する
  2. 山口大には応援バイト医供給のお願いをする
地元医療機関と大学の負担割合の交渉になりそうな気がします。ここも地元の医療事情で、地元医療機関の負担があんまり大きいとセンターをなんのために作ったかの話に戻ってきます。従来とあんまり変わらないのであれば、「在宅当番医 → センター出務」に変わっただけで、考え様によっては出務する分だけかえって負担が大きくなるの考え方も出てきます。

開業医なら空き時間は家で過ごした方がまだしも身体的にラクでしょうし、病院勤務医は病院当直医以外にセンター出務医の供給が要求されます。開業医はまだしもであっても、センター方式になると病院側の負担が大きくなるように見えます。足りなければ協力するのは経緯からやむを得ないにしても、せめて月1回以内にならないと負担軽減の意味は乏しくなるです。

医師も不思議なものであの有名な村でも勤務希望が途切れないですから、これから公募でもすれば希望者が現れるかもしれません。ほいでも昼夜逆転がデフォの生活は案外ハードルは高そうな気がします。


この手の休日夜間診療所は神戸にもあり、小児救急の方に私も医師会員(医師会立です)ですから出務しています。ただ内情は神戸でもラクじゃないらしいとは聞いています。現在の小児救急参加開業医は私が参加しているほうで約60人らしいです。さらに神戸大小児科の全面協力も取り付けています。それでも当番表を埋めるのはかなり大変だそうで、担当者は先行きを考えると暗い顔をされていました。神戸でさえ小児科開業医の高齢化は進んでいるです。

そこから考えても萩市のセンターは大変だと思っています。