大臣談話

3/25厚労省閣議後記者会見概要より冒頭部を引用します。なおこの概要は厚労省編集なので、大臣の真意はともかく厚労官僚の真意は十分に反映されていると考えて良いかと思います。エントリーでは分割引用していますが、原文では一気にしゃべった事になっています。

 私の方から一つ、産科医療機関についてのその後の件をお話しいたします。これは、分娩の休止、制限を予定している産科医療機関にどう対応するかということで、1月19日に長野県の飯田市で国民対話を開催しまして、その時もこの問題が出ましたので、それを受けまして、厚生労働省としても全国的な調査を実施いたしました。それから、私から直接、日本産科婦人科学会の方にも独自に調査をやってもらうように依頼をして、両方のこの調査結果が出て参りました。これは、今日10時半から地域医療に関する関係省庁連絡会議を総務省等と開きますので、その場で全て資料を公開して詳細はそこで皆さんに資料をお渡しできますので、10時半にこれを出せると思います。

この部分は昨日書いた防衛医大がらみの産科医師派遣事業にも関連している部分と思われ、産科医派遣のために、

この二つの調査を元に派遣を検討したとしています。

 私からは、まず、厚生労働省の調査の結果、本年1月以降分娩の休止または制限が予定されている医療機関が全国で77ヶ所ありました。これを更に細かく見たところ、このうち70ヶ所は、産科医療機関の集約化に伴う休止とか、近隣の医療機関で対応が可能というようなことで、地域全体で対応できる。つまり、77のうち70は、それぞれの地域で、大変なのですけれども、なんとか頑張ってやってもらって地域で対応できる案件であったと。その他の7つなのですけれども、その地域や都道府県だけでは産科医療を確保する手立てがたてられないということで、7つ赤信号が点ったということですが、この7機関について対応を今までやってみて、今日段階で対応できたところを申し上げます。

二つの調査で分娩休止予定医療機関が77ヶ所あったみたいですが、そのうち70ヶ所は、

要するに分娩を休止しても差し支えないと判断されたようです。集約化も実情は上手く行かない事が多いですし、近隣の医療機関に吸収できる余力なんてあるかは素直に疑問ですが、総務省も交えた会議では問題無しと結論付けたようです。前厚労相風に言うと「少子化に伴う自然淘汰」と現大臣は公言したことになります。なおこの判断についてはついては詳細情報が無いのでこれ以上の論評は差し控えます。

 まず、福島県の県立南会津病院ですが、これについては、4月から近隣の医療機関の協力で妊婦検診を継続すると、更に防衛省及び愛育病院より後期研修医の近隣の機関へのいわゆる玉突き派遣を実施予定で、ここは従って継続できます。それから、長野県が2つありまして、長野県の飯田市立病院、これはこの前訪れたところですが、これは4月から信州大学が派遣してくれるということで分娩を継続し、里帰り出産も継続できる。それから、同じ長野県の3番目ですけれども、伊那中央病院、これも同じように4月から信州大学から派遣してもらう。それから、4つ目ですけれども、沖縄県の公立久米島病院については、4月から県立病院が週1回派遣することによって妊婦検診が継続することとなりました。今4つ目まで申し上げましたけれども、その赤信号の7つのところのうちの、2つはこれはまだ8月くらいまで時間の余裕がありますから、これは継続してやります。従って、残りが3つで、今申し上げた4つの例は手立てがつきました。では5番目はどこかというと、これは群馬県富士重工業健康保険組合綜合太田病院、実はここも手当が出来ていたのですが、お医者さんの都合が急につかなくなりまして、これは、今の体制は、スバルですけど、富士重工業の綜合太田病院は、退職予定のお医者さんが当面継続して勤務すると共に、4月から慶応大学より週2回の派遣を確保しましたけれど、ちょっとそれでは分娩を継続して実施するまでには残念ながらいかなかったということで、引き続き再開すべく、県、大学、病院間で今検討中でなるべく早くここを手当てしたいと思います。それから、7つのうちそれで5つ目ですが、6番目と7番目は、これは、後数ヶ月はまだ余裕があるというところなのですが、1つは、長野県の国立病院機構長野病院、それから、静岡県藤枝市立総合病院。これは、今申し上げたように、もう少し時間が後数ヶ月ありますので引き続き調整をするということで、これは緊急措置ですけれども、とにかく分娩の停止ということがないように研修も行えるようにそこまでなんとか手を打ちました。

7つに絞った絶対継続が必要と判断された病院への支援状況を解説しています。まとめると、


病院名 支援内容
県立南会津病院 福島 防衛医大愛育病院からの後期研修医派遣
飯田市立病院 長野 信州大より派遣
伊那中央病院 長野 信州大より派遣
公立久米島病院 沖縄 県立病院が週1回派遣
富士重工業健康保険組合綜合太田病院 群馬 県、大学、病院間で今検討中
国立病院機構長野病院 長野 引き続き調整
藤枝市立総合病院 静岡 引き続き調整


7つでも支援がいかに大変かが良く分かります。信州大が動いた飯田市民と伊奈中央病院はまだ良いとして、県立南会津病院は後期研修医で何とかなるか少し疑問ですし、防衛医大の裏舞台をのぞくと早期撤収の意図はアリアリとわかります。防衛医大も余力なんてどこにもありませんからね。良く分からないのが公立久米島病院で週1回の妊婦検診で分娩継続可能とは「?」ですが、その程度の規模の病院と考えて良いのかもしれません。

それより厚生労働省が重点としている7つの病院のうち3つが支援策検討中と言うのが深刻さを物語ります。防衛医大カードはもう切れないでしょうし、国立病院機構、日赤も医師ははっきり言ってかなり不足しています。それでも「どっか」から防衛医大のように引き剥がしてでも連れてこないと、厚労省と大臣の面子が潰れます。大臣が公言してしまったのですから、最後は政治的面子のための強引な員数合わせが防衛医大のように行なわれると考えます。

 それから、先程申し上げましたように、日本産科婦人科学会にこの医師派遣が必要な病院ということを現場に直接聞いて尋ねてみてくれということでお願いしたところ、100を超える病院についてこれは必要であるというようなご報告を頂きました。先程の報告は、4月から分娩休止に至るというようなことで赤信号と申し上げたのですけれども、産婦人科学会のものは、要するに、「今問題があるよ」というところは、とにかく総ざらい挙げてくれということで100を超えるということなのでありますけれども、今日、取りまとめいただいた北里大学の海野教授も10時半からの会議にお出ましになりますので、そこでもご報告があると思います。

ここを読むと厚労省が77ヶ所とした資料は厚労省の資料によるものであった事がわかります。赤信号が77ヶ所として、それ以外の黄信号が30ヶ所以上あると考えて良いかと思います。

 そこで関係省庁、それから大学、関係学会等とこれは協力していますけれども、皆さん大変良く協力していただきましたので本当にありがたいと思っております。今後、これは本当に緊急策でとにかく4月に閉鎖しないようにということでやりましたけれども、やはり抜本的な構造的な改革が必要だと思います。それについてもう一つ申し上げたいのは、勤務医の労働条件が非常に過酷であるということで、診療報酬の改定というような形で手当はしたのですが、これは病院にお金がいくが、現場のお医者さんに聞くと自分たちの給料に跳ね返らないという不満が非常に高いのです。これは我々がなぜそれをやったかというと、勤務医の皆さん方の待遇が改善される、そして給料も上がる、そういうためにやっているわけですから、病院の経営者止まりでということは、これはそういう意図ではありません。ですから、病院の経営も考えないといけないのですが、病院の経営者の皆さん方にお願いしたいのは、現場で働いているお医者さんの待遇改善、処遇を良くする。そして、診療報酬が上がった分は、お医者さんにきちんと配分するということを是非お願いしたいと思います。これは、現場のお医者さんの一番の不満なのです。大臣が一所懸命頑張って診療報酬上げてくれても自分たちのところまでいきませんよでは困りますから是非病院の経営者の方々、そこはきちんと対応していただきたいと思います。いずれにしても、これは、産科だけでなく小児科もそうだし、緊急医療体制をどう構築するか、今はとにかく緊急措置をやっただけですから、構造的な改革についてはいつも申し上げているような抜本的な改革に向けて着実に歩を進めていきたいと思います。

ここは正直なところ失笑しました。

    病院の経営者の皆さん方にお願いしたいのは、現場で働いているお医者さんの待遇改善、処遇を良くする。そして、診療報酬が上がった分は、お医者さんにきちんと配分するということを是非お願いしたいと思います。
勤務医対策として診療報酬のあっちこっちから削り取った1400億円は勤務医にすべて配分せよとの大臣談話です。勤務医の待遇改善のために分配した予算であるからその趣旨どおり使えという気持ちはわからなくもありませんが、一体どうやって算出するのでしょうか。私の知る限り診療報酬点数表に「これは勤務医支援分の報酬」なんて色分けはしていなかったと思います。それとも今後追加通達や改定でそういう文言を挿入するのでしょうか。

それと勤務医に全部配分されれば病院の収入はほとんど増えないことになります。病院経営は苦しく、中央社会保険医療協議会 調査実施小委員会(第23回) 議事次第に出された日本病院団体協議会提出資料をまた引用しますが、

開設主体 平成17年度赤字率 平成18年度赤字率 年間赤字増加率
国立 66.14 69.29 3.15
公立 89.28 92.73 3.45
公的 45.89 58.90 13.01
医療法人 19.68 25.33 5.65
個人 14.93 21.21 6.28
その他 42.19 47.67 5.48
坂道を転げ落ちるように経営状態が悪化しています。このデータは平成18年度までですが、平成19年度に改善する要因は何もなく、診療報酬の微増分も勤務医に大幅に配分するとなれば平成20年度もさらに経営が悪化すると考える方が妥当です。それと大臣の口から零れましたが、勤務医対策費は医師に配分せよとの意図はごく素直に給与を増やせと解釈できます。現在の勤務医数は平成18年度統計で168,327人とされますが、厚労省が大好きな神の統計学である「平均」を用いれば1400億円と言っても一人当たり、
    83万1714円
これを月ごとに「平均」すると
    6万9310円
手取りにすれば4万円もあるのでしょうか。給与が増えることに誰も異存はありませんが、これで対策と言われれば叩き返す者が出て来るんじゃないかと思ったりします。ましてやこれで「対策は施され、勤務医の過酷な勤務は緩和された」なんて大見得を切られたらなおさらです。ただし大臣談話は実質は別にして良い効果も期待できます。なんと言っても勤務医には間違い無く配分せよと仰られているわけですから、経営再建の名目としての給与カットや賃金抑制への牽制ぐらいにはなります。もっとも牽制ぐらいであって実効はあんまり期待できそうにはありません。

これは老婆心だけなんですが、大臣も病院側は違う事を心配した方が良い様な気がします。勤務医の時間外賃金の正規要求運動です。別にどこの団体も支援しているわけではありませんが、「一発やるか」の温度は確実に高まっています。これを五月雨式にやられれば1400億円みたいなチャチな額ではすまなくなります。金額だけではなく労働基準局の立ち入り検査や指導みたいな鬱陶しいものが発生します。違法当直もタレコミがあり表面化すれば無事にはすまないかもしれません。

またこの時間外賃金の正規要求運動はすべての病院で起こる必要はありません。全国で10ヶ所から20ヶ所ぐらいが起これば効果は十分です。少し前までは奈良時間外訴訟の結果を待っての意識が強かったですが、これを待つまでもなく動こうという意識は濃厚に芽生えつつあります。別に正式に告発しなくともデータをそろえてのタレコミで良いのですから、方法としては案外簡便です。医師の医療抑圧への抵抗として逃散が有名ですが、気運として抵抗という選択枝を考え実行するものが現実化しつつあります。

言ったら悪いですが当直に関しても、時間外労働にしても医師は社労士を雇うぐらいの経済力はあり、さらに請求して取り戻した金額だけで余裕で報酬は支払えます。マグマ確実に動いていますし、動き出したら統括団体のないゲリラ運動ですから手に負えないものになるかもしれません