そこから話は果てしも無く脱線した。サヤカも同い年だからアラフォーなんだけど、あれっていくつまで出来ると言うかするものなんだって話になったんだよ。その昔、貝原益軒が自分の奥さんに聞いたそうだけど奥さん曰く、
『女は灰になるまで』
こればっかりは歳を取ってみないとわからないけど、
「ギネスの認定高齢出産の記録では自然妊娠では五十七歳、体外受精で六十六歳となってるよ。非公式だけどインドでは七十五歳で双子を産んだ記録もあるそうよ」
インドも体外受精らしいけど、その歳でそこまでして子どもが欲しいものかな。それにしても五十七歳ならまだしも、六十六歳とか、ましてや七十五歳で閉経してなかったんだろうか。世界は広いね。まさかギネス記録に挑戦したユーチューバーとかじゃないよね。
妊娠は閉経の問題があるからさておき、やるだけだったら男が女に欲情さえすれば可能と言えば可能かもしれない。女はどうしても受け身になるから最後は男がスタンバイ出来るかどうかだろ。
「男だったらエロ爺が若い女の処女を散らすのはエロ小説とかのありふれた設定だよね」
エロ爺でも、もうちょっと若い狒々親父でもね。年齢的な限界はあるだろうけど、いくつなんだろ。これこそ個人差は大きいと思うけど、クスリとか使えばかなりの高齢でもやれる人はやれそうな気がする。
男はそんな感じだとして女の問題は・・・こっちの方が大きいかも。男は女に欲情してスタンバイになるのだけど、いくつまで男をスタンバイさせる事が出来るかの問題になってしまいそうだ。
男は若い女が好きなのよね。だってだよ、マナミもアラフォーになっちゃったけど、アラフォーどころかアラサーでもオバハン扱いとか、お局様扱いする男は幾らでもいるのよね。
「そういう男は即座にブルキナファソに飛ばす」
そんな理由で飛ばすなよな。アラフォー女のヒステリーだと思われるぞ。
「立派過ぎるセクハラだから当然よ」
でもさぁ、例外的なのを除いたらせいぜい六十代ぐらいまでじゃないかな。だって六十代相手に頑張れる男を想像するだけでかなりの努力が必要だけど、七十代相手になるとそれこそ想像を絶するじゃない。
「でもいるじゃない」
あれか。なんかフェミの元祖と言うか大御所みたいな女がいる。過激な発言で有名人になってるけど、その女が恋に落ちてるんだよ。それもあれってある種の略奪愛じゃないかと思うんだ。まあ、好きだった男の奥さんが亡くなって引っ付いただけだけど、どんだけ待ってたんだって話だ。
「だけどさぁ、ラブラブだってなってるよ。あれはやってるはず」
そんな気がするのはする。何十年待ち続けたかって話だものね。その想いが炸裂しない方が不思議すぎる。ここだって本来は男の問題になるのだけど、その気がなければくっつくものか。もちろん証拠なんてないよ。あんなものフライデーだって撮れるものじゃないもの。
だからあの歳になっても可能の傍証にはなるだろうけど、やっぱり例外じゃないのかな。正直なところ想像するにも無理があり過ぎる。本当のところは引っ付いただけでやってない可能性だって残るものね。
「そう思いたいけど、老人ホームで問題になってるらしいよ」
老人ホームに入るぐらいだから七十代以上のはずだよね。そんな歳になってもあるのかよ。あるどころか、ポピュラーとまで言えないかもしれないけど、例外とも言えないそうなんだ。
「大っぴらに言えるような問題じゃないから実態は闇の中って感じみたい」
そりゃ、立派な大人なんてレベルどころか人生のラストステージに入ってるから、あれに励んだって文句を言う人はいないだろうし、結果が高齢妊娠とか、ましてや高齢出産になるのはギネス級だろ。
「問題の本質はそこじゃなくて・・・」
これも、へぇぇだけど、ああいうところってやるのは禁止になっているのか。これは高校生ぐらいの風紀云々の禁止じゃなくて、
「みたいだよ。あれって激しい運動だし血圧も上がるでしょ」
まあそうなんだけど、そうなった時に何が起こるかわからないのが高齢者ってことか。下手すりゃ脳出血とか心筋梗塞であの世行きもありそうだものね。
「下手しなくてもあり得るのが高齢者だよ。ギックリ腰ぐらいならすぐに起こしそうじゃない」
高齢者って持病があるのが多いし、体だって歳相応にどうしたって衰えるものね。そんな体であれに励めば、それこそ何が起こるかわかったものじゃないぐらいか。それでもさぁ、高齢者になると他人、とくに年下の意見なんて聞かない人が増えるじゃない。
「それだって自分の家で頑張るのは勝手なのよ。何があっても自己責任だからね。問題は施設でそんな行為に励まれることなのよ」
老人ホームみたいなところはそんなところまで管理責任を問われるのか。大変な仕事だな。でもさぁ、そこまでになっているのに止められるものかなぁ。高校生だって禁止されてもやるでしょうが。
「まあ、そうなんだけど、事故が起これば管理責任を問われて賠償金も支払う必要が生じるの」
カネが絡むと、どれだけ面倒になるかは離婚交渉の時によくわかったけど、対策なんてあるのかな。
「何度か注意してダメだったら強制退所よ」
それしかないか。
「でもねぇ、それもまた大仕事になるみたい」
退所しないって頑張るとか。
「それもあるかもしれないけど、退所させるとなると家族への説明がいるじゃないの」
問答無用で説明も無しで追い出せないのはわかるけど・・・ちょっと待ってよ、そんなこと家族に説明するの!
「そりゃするしかないでしょ」
じ、地獄だ。家族ってそのやってる人の息子だとか娘になるじゃないの。息子や娘にとっては当たり前だけど自分の親、それも実の親であり、子どもの時から育ててもらってるんだよ。そんな親が、老人ホームでやりまくり、それも何度も注意してるのに止めてくれないって聞かされるじゃないの。
「強制退所って処分として重いはずだから、説明する方だって、いつ注意したか、何度注意したかぐらいの具体的な説明はするはず」
浮気調査じゃないから現場のモロ写真まで撮ってはいないだろうけど、家族にどうして強制退所になるかを納得させるために、それぐらいは必要だろうぐらいは、わかるのはわかる。けどさぁ、けどさぁ、
「手続きとして他に方法が無いじゃない」
そりゃ、説明する職員だって嫌だろうけど、聞かされる家族だってたまんないよ。耳を塞ぎたくなるとはまさにこの事だろ。マナミだってそういう立場にされたら逃げ出したいよ。
「その気持ちはわかるけど、それで終わらないのがこの地獄」
そっか、退所となれば息子なり、娘の家に引き取らないといけないのか。まさかその辺に放り捨てるわけにも行かないものね。
「それにそういう人ってブラックリストに載せられちゃうのよ。ああいう施設って横の連携もあるからね」
まさに地獄は終わらないだ。その施設がダメなら他の施設への選択肢もなくなるから、退所させられた親を自分の家で見ないといけなくなるのか。そういう人ってあれに励めるぐらい元気でもあるから、
「すぐに連絡を取り合って励むはずよ。口うるさい職員もいなくなるから」
体が続く限り地獄も続くって事か。本当に勘弁してくれの話だよ。エロ小説のエロ爺なら相手が若い女だからまだ理解できないことはない。もっともその構図は陰惨そのものだから好きじゃないけどね。
でも、でもだよ。老人ホームの場合はエロ爺とエロ婆の構図だよ。誰に欲情しようが勝手と言えばそれまでだけど、想像するのもおぞまし過ぎる。
「気持ちはちょっとだけならわかるのよ。まだまだ若いつもりだけど、話とかしてるとどうしてもギャップを感じちゃって」
それはわかる。十歳も離れると世代が違うってなるよね。これは世代の常識も変わるし、共通の話題にする興味も変わってしまう。これは逆も経験してるものね。
「だったよね。そんな歳になっちゃったって寂しい気になるもの」
だから同世代の方が寛ぐと言うか、楽しめるところは確実にある。その延長線上にあるのが高齢者同士の恋って言えばそれまでだけど、それにしてもじゃない。
「そういう感覚はその歳になってみないとわからないけど、現実を見るとあるとしか言いようが無いのかも」
う~んとしか言いようが無いけど、でもだよ、
「そこが最後の縛りのはずだけど・・・」
人ってね、あれこれ倫理観の縛りがあると思ってる。たとえば恋人が出来たら浮気はしないとかだし、結婚したらなおさらだ。その中にこの歳になったら、もうやらないだってあるはずなんだ。
「だと思うけど、そういう縛りって、やれば誰かから非難されるのがセットの部分もあると思うのよ」
なるほど。誰かも色々いるだろうけど、高齢者になれば目上の人はいなくなるものね。ウルサイ人がいなくなれば、自らの欲望に忠実になってしまうのか。それでもとは言えだよ。
「言いたいことはわかるよ。それでもお互いにそうなってしまうのかもしれないもの。でもさぁ、親ってやっぱり死ぬまで親だと思うんだ」
そこなのよね。親の責任っていつまでかって話になって来るもの。社会人になり、そうだね、結婚までしたら完全に一人前になったぐらいは言えるかもしれないけど、子にとってはいつまで経っても親は親の部分は残ると思う。離婚の時だって両親が生きていればとすぐに思ったぐらいだ。
「そこのプライドでさえ老化で衰えちゃうのかな」
悲しいけどそうなるのかも。それでも全員がそうでないはず。
「それぐらいは人間の矜持として保っていたいね」
マナミもそうありたいな。でもこればっかりはその歳にならないと絶対にわからないよ。だってそうならないとは言えないもの。誰だって歳を取るのを防げないし、歳を取れば色んな意味で衰えも必ず来るもの。でもさぁ、考えようによってはそれぐらい性欲って強大なものなんだろうな。
「これも昔から目、歯、魔羅っていうけど、女には無いと言えば無いし」
魔羅にはまだ限界があっても女はそうかも、魔羅の限界だって相当な代物としか思えなくなってきた。それこそ女も男も灰になるまで延々と燃え続けるのかもしれない。