ツーリング日和20(第6話)後ろの秘密

「ところでさぁ、ホテルもトイレもバックだったでしょ」

 ラブホはバックだけどトイレは座位だ。後ろからやられるのは変わらないけど、同じじゃないな。そんな細かい違いはともかく、あんなシチュエーションで他の体位でやれるわけないじゃないの。

「それはわかるけど、マナミだっていきなりバックとか座位をやれた訳じゃないでしょ」

 サヤカが何を聞きたいかわからないけど、最初は正常位だ。バックとか座位でロストバージンした女なんていないんじゃないかな。体位のバリエーションは四十八手なんて言われてるけど、最初からすべてを極められるはずがないだろ。段々にあれこれ広げて行くものだ。

「とくにトイレなんか自分で腰を振ってるじゃない」

 あれも正確に言うとだね・・・

「やっぱりそうなんだ。マナミって妙なところで律儀と言うか、嘘を吐けないと言うか、正確性にこだわるところがあるじゃない」

 それは無いとは言えないけど、何を聞きたいんだよ。

「元夫が露出趣味に走り出した頃にはマナミだって感じてたはずよ。だから応じたんでしょ」

 そ、それは無いとは言えないけど、

「そこまでになってるマナミが、入れられる所をわざわざあんな言い方してるのが気になるのよ。それって普通の意味のバックじゃないはずだ」

 それはサヤカの気にし過ぎだって、

「でもだよ・・・」
「そう言うけど・・・」
「白状したらラクなれるから・・・」

 ・・・なんてサヤカはしつこいんだよ。警察の尋問かよ。ああ、わかったよ。そんなに聞きたいなら話してあげる。まずだけどあのクソ野郎の後ろへの執着はとにかく凄かった。関係を結んでしばらくしたら求めやがったぐらいだからな。

 だからだと思うけど愛撫の時も後ろへの責めは執念深いなんてものじゃなかった。あんなものどこで覚えたのかと思ったけど、やっぱりその手の風俗だろうな。そういうところがあるぐらいは知ってるからね。

 でもあれはちょっと好奇心レベルを超えてたな。なんかさ、クソ野郎は童貞を後ろで捨てたんじゃないかと思ったぐらいだったもの。

「童貞って後ろでも捨てれるの?」

 知らないよ。ロストバージンするには突っ込まれるしかないけど、童貞の正しい捨て方なんて聞いたことないもの。そんな事はともかくずっと求められてはいた。

「だから許した」

 あのね、誰が後ろに突っ込まれたいものか。後ろだぞ後ろ。いくら求められたって断固拒否してた。当たり前だろうが。あんなところを誰が使わせるものか。

「それはそうだけど・・・」

 でも来ちゃったんだよ。いわゆる倦怠期ってやつ。マナミじゃないよクソ野郎にだ。それで恐怖にかられちゃったんだ。マナミが男を繋ぎとめてるのはアレしかないじゃないか。それを失なったら捨てられ、逃げられるとしか思えなかったんだ。

 あの時は本当に必死だった。なんとかクソ野郎に振り向いてもらおうと悩みに悩んだんだよ。でもあれをする以上の手立てなんか思いも付かなかったし、その肝心のあれが倦怠期になってしまってる。

 切迫感と焦燥感で頭がおかしくなってた部分はあったと思う。で、ちょっと考えたんだ。後ろがメインのエロ小説とかエロ漫画ってあるじゃない。サヤカだって読んだことあるでしょ。

「BLだね」

 BL世界だったら初めてだってすんなり入るじゃない。入るだけでなくあんなに気持ち良さそうだし、入れられたらすぐに溺れ込むじゃない。

「そういう風に描いてあるけど」

 後ろは女だって男だって同じのはずだろ。男がああなれるのなら、女だって変わらないはずだって。それでも嫌だったよ。だけどさぁ、明日にも逃げられそうな危機感の前に決心したんだ。クソ野郎が求めてやまないものを満たすしかないって。

 それだって躊躇いまくった末だったのよ。他の手段でなんとかなるなら、そっちを選んでたもの。あれこそ万策尽きてって感じで差し出して開いたんだ。

「良かったの?」

 そんな訳ないだろうが。ロストバージンより十倍ぐらい強烈な体験で、ぶっ壊されるとしか思えなかった。あんなところに入れるものじゃないよまったく。

「じゃあ懲りた?」

 そんな事すら頭になかったんだ。あったのはこれでクソ野郎が満足してくれるかどうかだけ。だから必死だった。地獄のような時間がやっと終わって、クソ野郎が嬉しそうにしているのを見て喜んだぐらいだったもの。

「だから・・・」

 強烈過ぎる体験だったけど、クソ野郎の後ろへの執着は強烈だったし、一度許すと次からは拒めなくなってしまうのよ。クソ野郎を繋ぎ留めたい一心しかなかったから、やられ放題にやられたよ。

「で、どうなったの」

 サヤカも好きだねぇ。男の後ろだってマナミが経験したのと同じでひたすら痛くて辛いだけのはず。でもさぁ、痛くて辛いだけだったら誰が開くものかって話になる。あれはそれだけじゃないからBL世界が成立してるんだよ。

 女の前と同じってこと。最初は痛くて辛くとも、その先に夢と希望の伝承があるから開くんだよ。どんな伝承だって? そんなもの感じて良くなるしかないだろうが。その伝承をどんな女だって知ってるじゃないの。

 だから痛くて辛いものだってどれだけ聞かされてもロストバージンに臨むし、やったら本当に痛くて辛くたって、次を望まれると応じるじゃないの。ロストバージンで懲りて二度やらない女の方が珍しいもの。

「そ、そうよね」

 BL世界の原理も同じだって経験したかな。回数を重ねれば痛みも和らぐし、痛みが和らげば感じるが出て来るんだ。その感じるが高まればどうなるかぐらい知ってるから、そこに向かって努力を積み重ねるぐらいだよ。

 感じるが高まって、高まってついにイケた時はちょっと感動したかな。もちろん女なら誰もがそうなるかなんてわかんないけど、マナミはそうなった。嬉しかったな。ついにクソ野郎が望む状態になれたし、恐怖の倦怠期から脱出できたってね。

「男って後ろでも感じさせたいんだ」

 あったり前でしょうが! 男はね、やる時に征服感を求めるじゃない。前だって自分のモノで感じさせ、イカせる事が出来れば征服感が満たされるのよ。後ろなんてなおさらだよ。たぶん前より征服してやったの満足感は高いに決まってる。

「じゃあ、その代わりに女は二倍楽しめるとか」

 それは違うと思う。そりゃ、最後のところは人それぞれだろうけど、あんなとこ使うものじゃないと思う。だって使用用途が違うところじゃない。あそこは出すところで入れるところじゃないよ。

「だろうね。そんなに良いなら女は喜んで開きまくるものね」

 マナミだって望まれに望まれた末だし、あれだけの危機感と焦燥感に追い詰められ、他に取る手段がないからやむなくだもの。あんな状態にそうそうはならないと思うよ。

「そこまでダメになったら普通は別れるよ」

 その通りだよ。あの時のマナミは別れる選択肢が無いと思い込んでたのよね。だから最終手段として差し出したし、開いたんだよ。笑うなら笑って良いけど、今はあのクソ野郎なってしまったけどあの頃は最愛の男だったんだ。

 それこそ全身全霊で愛していた。良く言うじゃない、そんな男にはすべてを捧げ尽くすって。BLで男が後ろを開くのだって後ろしか捧げて開くところがないからのはず。

「女なら前があるものね」

 それで良いと思う。いくらすべてを捧げると言っても前までだ。マナミの不幸はたまたま後ろに異常に執着のある男を愛してしまった事だろうな。

「元夫は別格なところがあるとは思うけど、男ってそんなに後ろをやりたがる生き物なのかなぁ?」

 好奇心的な興味がある男はそれなりにいそうな気はする。そういう風俗だってあるぐらいだもの。けどさぁ、後ろが変態行為ぐらいは常識でしょ。だから本音では興味がある男がいても、自分が変態と思われたくないから普通は口にも出さないと思うんだ。

「女は?」

 後ろを商売にしている女はいるけど、あれだって商売上のもののはず。そりゃ、世の中広いから後ろに異常に興味がある女だっているかもしれないけど少ないと思うよ。それこそ知らんがなの世界だけど。

 サヤカの言う通り後ろも良くなって二倍楽しむ女もいるとは思う。けどさぁ、最初からそうなりたくて、前に引き続いて後ろを男に自ら望んで求める女なんてレアだろ。女の後ろって、どこかで無理やりとか、強引にとかが無いと開くものじゃないと思うもの。

「マナミが後ろを開かざるを得なくなったのは黒歴史だけど、そんな悲惨な経験だってひょっとしたら役に立つ・・・」

 さすがにその先は言うな。使えるどころか開発済にされてしまったけど、やっぱり使いたくない。