動きかな?

麻酔科医様のコメントより、

    効率病院ですが、この2年で労基法に対しては、ものすごい意識改革がありました。
    昔は、時間外労働がどのくらいあろうが、おかまい無しでしたが、最近は、時間外が規定時間を過ぎると、産業医の面接をうけろとか、なんとか。
    このぐらい、当直とか、時間外が規制されているなら、働き続けられそうです。

これがかなり広がっているのか、それとも麻酔科様が、たまたま恵まれているのかは開業医の私では判断がつきません。ただそうかもしれないと考えさせる状況証拠はあると思われます。


医師が労基法違反で労基署に相談に赴くケースは、ここ2年ほどで急激に増えたと感じています。駆け込んだ後がどうなるかもかなり周知されています。勤務医の労働実態は突付けばボロの塊みたいなところがありますから、労基署の指導が入れば後始末は大変な事になります。滋賀県立成人病センターの件を何度も取り上げましたが、労基署が一度指導に入れば姑息な対応はヤブヘビ状態になる危険性を秘めています。

この労基署への相談にどれほどの知識が必要かと言えば、たいしたものではありませんし、必要な証拠の質も訴訟に較べれば遥かに程度の低いものでOKです。労基署は怪しむに足る証拠程度があれば、比較的気軽に指導に乗り出してくれます。まあ病院なんて調べれば絶対にボロが出るぐらいは労基署もよく御存知と言う事かもしれません。

勤務医側はこうやってネットで情報交換をしていますが、病院側もなんらかのネットワークで情報交換をしています。某病院の某事務部長は「事務長ネットワークがある」とか10年程前に話してくれた事があります。あっても不思議はないもので、別に労基法違反対策のためではなく、診療報酬改訂などの対策や、医師や看護師などの人事情報、さらには長期入院患者対策などでネットワークがあっても不思議ではありません。

労基署が指導に入られると病院は大損害を受けます。金銭ももちろんですが、労基署の指導に対応するための対策にかなりの神経と労力を費やすと考えてよいでしょう。またこれがマスコミにでも報道されれば、そのデメリットは簡単には計算できないものがあります。たとえ公立病院であっても、対外的には病院長や開設者である自治体の長が責任を取らされても、対内的には事務職員に責任は及びます。

自らにいつ起こるかわからない厄介事ですから、経験者の情報も病院側のネットワークで周知されていても不思議はありませんし、対策も検討されていても、これもまた不思議ありません。


ここで対策と言っても労基署の動きを封じ込めるのは厄介です。やろうと思えば相当な政治力が必要です。政治力があればそちらの方向に動くでしょうが、どうやら現在のところは無いようです。そうなると取り得るべき選択枝は、医師に労基署に駆け込ませない様にするしかありません。駆け込ませないようにするには、

  1. 駆け込むのをデメリットで封じる
  2. 可能な限り労働環境を整備し、その気を起させないようにする
この二つの選択枝が考えられます。ここで「デメリットで封じる」で一般企業でよく用いられるのは「クビにする」です。クビに出来なくとも冷遇してイビリ出すと言うのはポピュラーな手法です。これも医局人事が華やかなりし頃なら、教授に十分な「誠意」を見せて、そういう医師をその病院だけでなく、医局人事から放逐するなんて手法も使えましたが、今はかなり難しくなっています。

そういう手法が通用する地域であれば、今でもそうなっているかもしれませんが、その手法が通用しにくい地域であるなら、「その気を起させない」方法を取らざるを得なくなります。もともと勤務医は病院への帰属意識は薄いですが、通用しない地域では医局への帰属意識も薄くなっており、また肝心の医局も医師不足からブラック病院と判れば、病院に協力するより医局員を保護する方に動きやすくなっています。


本当に水面下の動きとして、勤務医保護に病院サイドがどれほど動き出しているかどうかは不明です。そういう病院もあるらしいのは麻酔科医様の情報で確認できますが、どれほどの拡がりになっているかも把握しようがありません。ここで思うのですが、本当にそういう動きがあるのなら、病院は大いに宣伝するメリットはあると思います。

理由は単純で、そういう病院なら勤務医は集まりやすくなります。医師が病院を選ぶ理由は様々です。技量を発揮できる症例にあたれる「やりがい」はもちろんの事ですが、それは現在では必要条件になっていると考えています。十分条件として良好な勤務環境も本音では求められていると思われます。

両方を満たすのは理想ですが、若手と呼ばれるうちは必要条件に重きを置くでしょうし、中堅以降ならだんだんに十分条件に重きを置く傾向が強くなると考えています。医師であっても年齢とともに体力は確実に落ちますから、それにつれて若い時ほど十分条件を無視できなくなるからです。医師不足に悩む病院が本当に欲しいのは中堅クラスの医師ですから、宣伝どころか喧伝しても良いぐらいと思います。

単純すぎる近未来図ですが、十分条件をいち早く整えた病院が勝ち組として栄え、十分条件を精神論のみでカバーしようとする病院が負け組に転落して行ってもおかしくはないような気もします。もちろん病院の性格や、勤務する医師の志向、年齢による馬力の関係で、十分条件の満たし方は病院によって差は出るでしょうが、旧態依然の管理では「そして誰もいなくなった」どころか「ある日、誰もいなくなった」はいつでも危険性はあります。


それと、もし麻酔科医様がコメントしてくれた動きが徐々にでも広がっているのなら、これは勤務医の努力の賜物と思います。政治は正直なところ何もしてくれていません。これからの方向性としては、こういう動きを確実に広げる事と、そういう労働環境であっても経営が成立する様に政治が動かす事になります。

道はまだまだ遠いですが、少しだけ動き出している様に思う事にしておきます。それぐらいは明るいニュースとして前向きにとらえたいからです。それにつけても思うのは、世の中を動かすには理より利の方がやっぱり効果的なんですねぇ。