オチのある記事

ssd様のところで拾った軽い話題です。3/5付KFB福島放送からなんですが、ssd様以上に捻り様がないので構成で工夫して後追いします。こういう記事を読む時にはまず見出しを読みます。誰でもそうだと思うのですが、

    21年度の県立病院事業の赤字が大幅圧縮
この見出しを読めば誰だって福島の県立病院の経営が改善したのだと思います。現在の医療情勢、福島の医療情勢を考えれば間違い無く「ビッグニュース」ですし、この見出しを読んで「これは視察して参考にするべきだ!」と感じた福島県以外の公立病院関係者、県の財政担当者は少なからずおられたと思います。知事クラスでもいても不思議ありません。

「大幅圧縮」の程度も書かれています。

    純損失額(赤字)が20年度の約22億6000万円から約14億円に圧縮される見通しになった。
差し引きすると8億6000万円、4割弱程度が1年で改善したのは偉大な成果と呼べるんじゃないかと思います。「こりゃ、ますます視察団を♪」と考えた他の都道府県関係はここまでは多いと思います。さらに次はもっと凄くて、
    ただ、医師不足で十分な診療態勢が取れず患者が減ったことなどで、医業収益は20年度決算より約7億円低い約77億円となる見通しで、依然として県立病院の経営は厳しい状況が続いている。
ここでは
  1. 医師不足で診療体制が不十分
  2. 不十分なために患者減少
  3. 医療収益が前年度より約7億円減少
どことも変わらない状態とも言えますが、それでも大幅赤字圧縮を成し遂げているのですから感歎すべき成果です。さぞや画期的な経営手法を編み出し導入したんじゃないか受け取れます。医療経営の常識として医療収益を減らしながら赤字を大幅圧縮するなんて、まさに福島マジックとも考えられるからです。物見遊山ではなく真剣な視察団を送る価値があると思っていたら、次の個所でギャフンです。
    赤字の減少は国の地域活性化・経済危機対策臨時交付金の約11億円を活用できることが主な要因。
「あのなぁ〜」と言う気分になられた方は少なからずおられたと思います。確かに交付金も収入に組み込めるでしょうし、その結果として赤字が大幅圧縮したのはウソでもなんでもありませんが、見出しに誇らしげに書くような事かと言う事です。視察団派遣を考えていた方々は、この下りでひっくり返ったかもしれません。しかもこの交付金は、「おい、おい、おい」と言いたくなるような赤字の「大幅圧縮」であることがわかります。記事全体を示します。

21年度の県立病院事業の赤字が大幅圧縮

県立病院事業の平成21年度決算見込みで、純損失額(赤字)が20年度の約22億6000万円から約14億円に圧縮される見通しになった。

ただ、医師不足で十分な診療態勢が取れず患者が減ったことなどで、医業収益は20年度決算より約7億円低い約77億円となる見通しで、依然として県立病院の経営は厳しい状況が続いている。

赤字の減少は国の地域活性化・経済危機対策臨時交付金の約11億円を活用できることが主な要因。

各種費用の削減などにも努めた。

総収益は約123億円、総費用は約137億円の見込み。

国の交付金は21年度限りで、さらに21年度にスタートした県立病院改革プランで掲げた初年度の医師確保人数は達成できない見通し。

県立病院はへき地医療など収益を上げにくい医療部門も担うため、22年度も厳しい経営状況が続くとみられる。

近年の県立病院事業の単年度純損失額は、19年度が19億5500万円、18年度が22億7700万円など、高水準で推移している。

記事の後半は病院会計の内容について書かれているのですが、どうもあちこちの数字を適当に引用しているようで実態がわかりにくくなっています。私も公立病院会計に詳しくないのですが、記者もあんまり詳しくないように思えます。わからないで済ますのも癪ですから、福島と同じかどうかの確証はありませんが、前にやった十和田中央病院の公立病院改革プランの概要を参考に考えて見ます。

これによるとまず収入と支出に項目が分かれます。まず収入の方ですが、

  1. 医業収益
    • 料金収入
    • その他
  2. 医業外収益
収入の医業外収益に国(県)補助金とありますから、ここに「国の地域活性化・経済危機対策臨時交付金の約11億円」を組み込める事が確認できます。次は支出ですが、
  1. 医業費用
  2. 医業外費用
    • 支払利息
    • その他
支出の方はシンプルで、こんなものだろうと言うところです。ここで経常損益と言うのが収入と支出から計算されます。これもシンプルで、
    経常損益 = 収入 − 支出
ただし「経常損益 = 純損益(純損失)」ではありません。これに特別損益というのが加わったのが純損益です。特別損益とはなんじゃらほいになるのですが、一般的には

特別損益には「特別利益」と「特別損失」とがあります。これらは、固定資産の処分や災害などによって生じた利益や損失のことです。つまり、会社の事業活動とは関係なく、突発的に発生する損益です

これが公立病院会計で意味が同じか確かめる術はないのですが、

こうなります。ここまでが参照知識ですが、記事にある
    総収益は約123億円、総費用は約137億円の見込み
ここの総収益とか、総費用が経常損益だけではなく特別損益も含むものなら純損失は引き算ですから約14億円の赤字になりますし、これは記事の平成21年度の赤字額に該当します。国からの臨時交付金が11億円ですから、これがなければ約25億円の純損失になっていたと考えられます。

平成20年度の純損失が約22億6000万円ですから、約2億4000万円の赤字の増加ですが、もう一つエッセンスがあります。医業収入の約7億円減少です。医業収入すなわち総収入が7億円減少して赤字幅が2億4000万円しか増えていない理由を考える必要があります。理由と言っても考えられる事は単純で支出が4億6000万円減少したことになります。

支出が4億6000万円減少した理由としては、

  1. 医師不足つまり医師の人件費が減った
  2. 患者が減った分だけ材料費が減った
  3. 記事にある「各種費用の削減などにも努めた」効果
ここも十和田の事例を参考に考えると支出のうち職員給与費は約半分、材料費は1/6程度です。福島の公立病院の総費用は平成21年度で約137億円ですから、平成20年度は141億6000万円ぐらいであったと考えられます。そうなると推測ですが職員給与費は約70億円、材料費は約25億円、その他が46億6000万円ぐらいです。

ここでで収入のうち医業収入は平成20年度で84億円程度と考えられ、材料費が医業収益と比例連動していると仮定すると、材料費は2億円程度の減少になると推測されます。

それでもまだ2億6000万円が残ります。純減した医師の平均年収を仮に1500万とすれば10人で1億5000万円です。20人減れば帳尻が合いますが、残念ながら何人減ったかの情報はありません。とりあえず10人とすれば残り1億円ぐらいが「各種費用の削減などにも努めた」と考えられます。

煩雑になったのでまとめると、

  1. 臨時の交付金が無ければ純損失は約25億円に拡大していた
  2. 7億円の収入の減少があったが、支出の方は4億6000万円減った
  3. 支出の減少分として推測されるのは、
    • 材料費が2億円程度
    • 不足した医師の人件費が1億5000万円程度(10人を仮定)
    • 「各種費用の削減などにも努めた」が1億円程度
こういう事実が推測されますから、記事の書き方はもう少し変えた方が良いと思われます。たとえば、

県立病院事業の悪化は深刻化

県立病院事業は約25億円の純損失になるはずであったが、国の地域活性化・経済危機対策臨時交付金の約11億円を活用出来たため約14億円程度に留まる見通しだ。

医業収益は医師不足で十分な診療態勢が取れず患者が減ったことなどで、20年度決算より約7億円低い約77億円となる見通しで、総収益は約123億円、総費用は約137億円の見込み。ただし総収益の11億円を占める国の交付金は平成21年度限りとなっている。

近年の県立病院事業の単年度純損失額は、18年度が22億7700万円、19年度が19億5500万円、20年度が22億6000万円と高水準で推移している。また21年度にスタートした県立病院改革プランで掲げた初年度の医師確保人数は達成できない見通しとなっている。

県立病院はへき地医療など収益を上げにくい医療部門も担うため、22年度もさらに厳しい経営状況が続くとみられる。

医師「確保」は引っかかる表現ですが、これなら普通のベタ記事です。まあ、ベタ記事じゃつまらないので「高度の創作性」によるオチを盛り込んだと言われればそれまでですが、あんまり意味が無さそうな気がします。福島ではこういうスタイルの記事でも流行っているのでしょうか。