去年の9月にもなつかしい話題で取り上げたのですが、まだ頑張っておられるようです。舞鶴市民病院の経緯を知らない方も「ひょっとして」おられるかも知れませんから、概略だけまとめておきます。
- 平成2年には総務大臣賞を授賞するほどの経営優秀公立病院であった。
- 聖地化前には優秀な研修システムがあり、新研修医制度以前でも全国から研修医が集まるほどであった。
- しかしその研修システムは病院会計上「赤字分野」とされ市から問題視された。
- 他にも事情はあったようだが、スッタモンダの末に研修システムの推進医師が退職させられた。
- その経緯と一連のドタバタに愛想を尽かせた医師が続々退職。(平成16年頃のお話)
- 最後は医師1人、入院患者2人まで減少。(その後「医師ゼロ」まで進行)
- その後も民間売却や自主再建などでひたすら迷走。
でもって、実際にどれぐらい落ち込んだかですが、平成21年6月付「舞鶴市民病院だより」にこうあります。
ご承知のとおり、市民病院につきましては、平成一五年度末の内科医師の集団離職以来、平成一八年三月末の外科系常勤医師の退職に続き、同年六月末には、病院長も退任し、そのときの入院患者数は、一日平均二人、加佐診療所を除く外来患者数も一日平均十六人となり、ほぼ閉院に近い状態でありました。
平成15年末とは平成16年3月ですが、この時の状態の補足情報として、2006.8.11付の勤務医開業つれづれ日記「何故存続しているの?舞鶴市民病院?」には、
地方議員☆ 井上聡 が行く!!
http://satoshiinoue.ameblo.jp/
舞鶴市民病院の現状(7月末)
記事に書かれていない情報を追加しておきます。
自衛隊の医官の派遣は今年9月末までとなっており、それ以降の医師については現在確保できておりません。
平成18年6月に院長が退任した時点で常勤医師はゼロになったと見て良いかと考えられます。つまり平成16年3月から平成18年6月の2年3ヶ月の間に病院から常勤医師がいなくなったと言う事です。これは凄まじいとしか言い様がありません。これに対する舞鶴市の対応は2009.8.30付京都新聞にあり、
京都新聞社が情報公開請求した資料などによると、同病院は2004年4月以降、7業者、薬局関係者ら3人の「顧問」と順次契約し、医師確保を依頼。この結果、常勤医7人が就任。業者と顧問に計約3600万円を支払った。現在の常勤医6人のうち、3人が業者の紹介だ。
2004年4月は平成16年4月で内科系医師大量辞職の翌月ですが、平成21年8月までに延べ3600万円払って7人の常勤医を集めた事がわかり、集めた7人のうち3人が残っているとなっています。京都新聞の情報では3人が業者経由となっていますから、残り3人は別ルートなんでしょう。ここでお断りしておきますが、業者経由であっても優秀な医師はいくらでもおられますから、業者経由の医師を貶める意図はまったくありません。
医師数がどうなったかを調べられる範囲で確認すると、
date | 常勤医の確認情報 |
平成16年3月 | 内科医13人大量辞職 |
平成18年3月 | 外科系医師辞職 |
6月 | 前院長辞職(常勤医ゼロになる) |
平成20年8月 | 内科、脳神経外科、放射線科の常勤医師5名確認(広報誌8月号) |
12月 | 新院長就任 |
平成21年6月 | 常勤医師6名確認(広報誌6月号) |
9月 | 常勤医師6名確認(京都新聞) |
11月 | 常勤医師6名確認(広報誌11月号) |
平成18年6月に常勤医師がゼロになってから2年2ヵ月後の平成20年8月には常勤医師が5名まで盛り返しています。医師が増えだした時期の特定が難しいのですが、これも広報紙に
- 平成20年度より本格的な医師確保を行い
- 平成18年、19年においては一桁台にまで落ち込んでいました
こうあったうえで、次のグラフが示されています。
京都府立が支援に回った舞台裏が舞鶴市立舞鶴市民病院(198床)の経営の惨状にあり、「中丹地域医療再生計画(案)」と言う、実質的には舞鶴の公的病院再編計画が平成19年から検討されていたことが判ります。この再編計画の俎上に上ったのは、
ここで、共済病院が再編から離脱したことで、府立医大の派遣が中心の3病院での再編となったため、医師の一層の流出の危険性は少なくなったが、3病院の医局間の調整が十分進むのか不安材料もある。
どうも舞鶴共済は京都府立系ではないらしく、これだけが原因かどうかはまったく不明ですが、再び舞鶴市民に京都府立からの医師派遣が再開されたと考えて良さそうです。府立病院はこういう事態になると本当に大変だと思います。ではどれほど京都府立の支援が本気なんであろうかです。とりあえず新院長は間違い無く京都府立からの派遣です。
新院長以外の5名の医師がどうなっているかです。異動や入退職はいつでも起こりうるので広報紙から拾ったデータが今でもそうであるかの確証はないのですが、新院長就任まで院長代行を勤め、現在は副院長の医師がおられます。ところがこの医師はググっても正体不明です。医籍検索にさえ「どうやら」引っかからないのです。
同姓同名の医師が少なくとも2人以上はおられるようなんですが、医籍検索では「平成9年」が1人だけで、たぶんこの人物ではないと考えられます。他にも京都府立の麻酔科におられるのも確認できますが、これもまた確証はありません。ちょっと席次が浅すぎる感じがするからです。それ以外の4人は広報紙から確認できます。
医師 | 経歴等 |
消化器内科 内科診療部長 |
出身校:関西医科大 経歴: 昭和30年生まれ昭和56年 関西医科大学医学部卒業 平成18年 関西医科大学第3内科講師 主な勤務先 |
脳神経外科医 | 出身校:神戸大学 経歴: 昭和41年生まれ平成11年 神戸大学医学部大学院卒業 主な勤務先 神戸大学医学部附属病院・兵庫県立柏原病院・新須磨病院・西脇市立西脇病院・京都ルネス病院・西宮渡辺病院 |
神経内科医 | 出身校:山口大学 経歴: 昭和48年生まれ平成17年 山口大学医学部大学院卒業 主な勤務先 |
放射線科医 呼吸器内科医 |
経歴: 昭和48年生まれ平成10年 山口大学医学部卒業 主な勤務先 |
素直に見て、京都府立から派遣された医師はいないように思われます。そうなると新院長は独りで舞鶴市民に派遣された可能性が出てきます。新院長は平成20年12月に派遣されてますから、本気で支援する気があるなら、同時に何人かの医師が派遣されるのが自然です。12月の時点で無理であっても平成21年4月時点では派遣されて然るべしです。
今時の事ですから、医局人事華やかなりし頃の様に、系列に入れば、それ以外の医師を追い出すみたいな事はしないにしろ、何人かは確実に派遣されるのが支援です。舞鶴市民病院は医師が壊滅的にいなくなったので、機能を大幅に縮小しているとは言え、常勤医師が6名に増えた事により、平成21年6月の広報誌にありますが、
今年度後半の入院患者数は、療養病床は42床まで、一般病床は、リハビリを中心とした回復期と亜急性期診療で40床まで増やすことを目標
これでも奇跡のような復活です。ただし目標は変わっているかもしれませんが、
許可病床数198床(一般 175床、療養型病床群 23床)
一度にこの目標に到達するのは無理としても、4人程度常勤医が増えれば一般病床を100床程度まで稼動させる事は夢ではありません。つうかその役割を新院長に期待しているかと思われます。4人と言っても、昨今の医療情勢では右から左に捻出できる数でないのはわかるとしても、院長以外に1人でも2人でも派遣できないかの素直な疑問は出てきます。どうなっているのだろうと言うところです。
京都府立の本気度はなんとなく察せられるような気はするのですが、経営はV字回復しているかどうかです。これも広報紙に一部データがありましたから掲載しておきますが、まず患者数です。
-
平成18年度:10.1人
平成19年度:17.5人
平成20年度:37.2人
平成21年度:68.0人
-
平成20年度:45.4%
平成21年度:82.9%
経営の細かい数字を探し出せなかったのですが、広報紙に経営支援補助金、つまり赤字補填のための繰入金のグラフが掲載されています。
項目 | 19年度 (実績) |
20年度 (実績) |
21年度 (見込み) |
|
経常収益 | 医業収益 | 1901 | 1909 | 1796 |
医業外収益 | 77 | 70 | 72 | |
うち繰入金 | 71 | 64 | 67 | |
経常費用 | 医業費用 | 2208 | 2091 | 1890 |
うち人件費 | 1119 | 1018 | 914 | |
医業外費用 | 45 | 44 | 47 | |
経常損益 | -275 | -156 | -69 | |
特別損益 | 300 | 220 | 70 | |
純損益 | 25 | 64 | 1 | |
累積欠損金 | 1145 | 1081 | 1080 | |
不良債務 | 76 | -23 | -17 | |
病床利用率 | 55.6% | 64.2% | 51.3% |
この表の単位は百万円ですから繰入金と言うか補助金は7000万円ぐらいです。繰入金の額は経営状態により変わるので一概には言えませんが10億円は腰を抜かします。単純に比較は出来ませんが、四万十市立病院の医業収入は20億円弱です。舞鶴の平成21年度の医業収入も五十歩百歩じゃないかと推察されます。あくまでも目算ですが15億円ぐらいじゃないでしょうか。
収入が15億円に対して人件費以外の医業費用はチョボチョボと考えて良いかと思います。四万十市立病院では10億円弱程度です。そうなると人件費が15億円程度かかっている事になります。平成18年度の医業収入は惨憺たるものが考えられ、医業収入が惨憺であれば支出の大部分は人件費であるとも考えられます。この時の繰入金が15億円程度ですから、人件費が本当に15億円である傍証ぐらいにはなります。そこからの推測値ですが、
-
医業収入:15億円
医業費用:25億円(うち人件費15億円)
年度 | H.19 | H.20 | H.21 |
職員給与費比率(%) | 261.2 | 176.1 | 116.9 |
平成18年度・平成19年度の繰入金が大きいのは、業務縮小に伴う退職者の増加により、退職金等が発生したと解釈するのは不可能ではありませんが、業績が回復している平成21年度でも人件費は医業収入を上回っています。四万十市立病院の人件費率は50%ぐらいですから、もし四万十市立病院並みであれば、
-
医業収入:15億円
医業費用:17.5億円(人件費7.5億円)
医師を集めるのに好条件が必要であったと言う事も考えられますが、もし院長以外の5人の医師の平均年収が3000万円で、院長が5000万円でも2億円です。そんなに給与を出しているかどうか極めて疑問ですが、2億円であっても残り10億円以上はその他の人件費です。よほどその他の職員の給与水準が高いか、それとも80床程度の病院には過剰な人員を抱え込んでいるかぐらいしか考えられません。
平成21年度の診療実績は6人の選ばれし戦士は頑張っていると思います。また更なるノビシロは残っていますが、この膨大な人件費を補うほどの収入まで稼ぎ出せるかといえば、はっきり言って無理でしょう。補うためには医師数を少なくとも2倍以上にし、医業収入も2倍以上にしないと難しいと思われます。こういう現状はさすがに問題になっているようで、6/30付朝日新聞より、
舞鶴市議会で否決された舞鶴市民病院の病院事業会計について、斎藤彰市長は7月から約3カ月間の暫定予算を組み、今月30日に市長の権限で専決処分する方針を示した。29日の定例会見で明らかにした。議会との妥協点は見いだせておらず、9月の議会は再び紛糾しそうだ。
赤字が続く市民病院の運営にあてる予算案は3月議会で否決。市は病院職員の人件費を600万円削減した修正案を6月議会に提出したが、議員から「経営が改善されていない」などの反対意見が出て再び否決され、4月に組んだ暫定予算の期限が今月末で切れる事態になっていた。
斎藤市長は会見で「赤字を減らす一方、診療収入は上昇して経営は改善している。地域医療を守るために努力している」と理解を求めた。
市長の「診療収入は上昇」は嘘ではありませんが、経営の実情は大穴の空いたバケツに水を注ぎ込むようなものであり、人件費を600万円程度削減したぐらいでは焼け石に水でしょう。桁が2つ違うんではないかの議会の感覚の方がまともなような気がします。
たぶんと言うか、構想としては「可能な限り速やかにフル稼働体制に復旧する」が目標なりスローガンになっていると思われますが、このままではフル稼働するまでに舞鶴市が負担に耐えかねるというか、もう耐えかねている様に見えて仕方ありません。やっぱりどこまで行っても舞鶴は舞鶴なんだろうとシミジミ感じます。