小松秀樹氏のMRIC文書を巡る考察

小松秀樹氏のMRIC文書は、

長すぎて全文引用は無理があるのでリンク先を頑張って読んでください。


小松氏の主張のアラアラの概略

まずなんですが安房医師会の会長挨拶より、

 昭和39年に開設された安房医師会病院は老朽化し、平成12年に新医師会病院が新築されました。

 しかし、医師不足、看護師不足などが大きく影響し、医師会立としてはその健全な経営が成り立たなくなり、平成20年に社会福祉法人太陽会に経営移譲されました。

理由は様々にあるようですが、実質的には赤字負担に耐えかねて安房医師会は医師会病院を社会福祉法人太陽会に売り払ったが発端のようです。太陽会はその沿革を確認すると昭和62年7月に作られ、現在の理事長は亀田信介氏(医療法人鉄薫会理事長、亀田総合病院院長)、顧問には小松秀樹氏(亀田総合病院副院長)がおられ、ごく素直に亀田グループの社会福祉部門(特別養護老人ホーム身体障害者療護施設、ディサービス事業)の法人と解釈して良さそうです。

外野からはわかりにくいのですが、安房医師会病院買収にあたり医療法人である鉄薫会でなく、社会福祉法人である太陽会であるのが少々不思議ですが、この点について小松氏は、

太陽会は、従来、障害者支援施設、障害福祉サービス事業所、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設を運営してきた。破綻した安房医師会病院を引き受けるまで、病院を運営していなかった。安房医師会病院は、22億4000万円の公費による補助を得て、2000年に、24時間365日の救急医療を目的に移転新築された。土地は館山市の無償貸与だった。労働条件の悪化のため、医師、看護師の退職が相次ぎ赤字になった。破綻の直接的な理由は、医師会幹部が借入金の裏書を書く勇気がなかったことである。

2008年4月1日、千葉県と、館山市を含む3市1町から、押しつけられる形で、太陽会に、負債込で経営が移譲された。移譲後、安房地域医療センターと名称を変えた。亀田総合病院を経営する医療法人鉄蕉会だと、贈与税がかかるため、引き受けられなかった。より公益性の強い、社会福祉法人で引き受けた。

負債込とは豪儀ですが、とある情報(大元はタブソースの模様)によると5億円だそうです(後で訂正します)。それと「押し付けられた」とはなっていますが、これもとある情報(大元は東京新聞の様子)によると経営委譲の条件に含まれていたようです。まあ、誰だって負債付きの物件は嫌でしょうから「押し付けられた」の実感はあったのだと思います。

ただなんですが負債込みの一方で無償譲渡となっています。だから贈与税の話が出てくるのですが、安房医師会にしても譲渡にあたり負債を売却益で精算したかったはずです。太陽会も買い取りと負債肩代わりでどちらが得かは詳細に検討したはずで、たぶん負債込みの方が太陽会にすれば「それなりに損」であったかもしれませんが、別に丸々負債を善意で背負い込んだものではないと私は見ます。民間病院ですから嫌なら辞めるは常に残されているわけです。

さてなんですが、センター(安房地域医療センターを以後こう略します)の経営を引き受けた太陽会ですが、来年度に向けて無料低額医療の導入を打ち出しています。それに安房医師会が反対しているのが話のテーマで、これを小松秀樹氏が真っ向両断にぶった切っているのが概略です。小松氏が医師会一般にあんまり良い感情を持っていないのは周知の事ですから、かなり辛辣に反論されています。


無料低額はどうやって行うのか?

小松氏はまるで常識のように「無料低額」を主張されていますが、私は恥ずかしながらどうやったら「無料低額」医療が行なえるのか存じませんでした。保険医療は言うまでも無く公定価格であり、割増も論外ですが、たとえば自己負担分のサービスもまた大きな違反になるからです。これについては情報源を伏せる必要も無いので法務業の末席様からアドバイスを頂いています。社会福祉法第2条3項9号に

生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う事業

社会福祉法第2条3項は「次に掲げる事業を第二種社会福祉事業とする」となっており、この中に無料低額医療があります。この第二種社会福祉事業ですが厚労省HPの生活保護と福祉一般:第1種社会福祉事業と第2種社会福祉事業に、

【第2種社会福祉事業とは】
比較的利用者への影響が小さいため、公的規制の必要性が低い事業(主として在宅サービス)です

経営主体
制限はありません。すべての主体が届出をすることにより事業経営が可能となります。

では無料低額の減額分はどうなるかと言えば医療機関負担です。簡単には太陽会の負担で行われるです。小松氏の主張も単純かすれば、社会福祉法人が法人の趣旨に基づいて社会福祉事業を行うのに、それに正面から反対する安房医師会は「いちゃもんつけ」であるの論旨になっています。たしかにそうではあるのですが、やられる方の安房医師会にすれば「たまったもんじゃない」の発想が出てきても不思議ないと思います。それでも正面から論じれば分が悪く小松氏の

療養担当規則の2条の4の2は「保険医療機関は、患者に対して、第5条の規定により受領する費用の額に応じて当該保険医療機関が行う収益業務に係る物品の対価の額の値引きをすることその他の健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益の提供により、当該患者が自己の保険医療機関において診療を受けるように誘引してはならない」として割引診療を禁止している。割引が禁止されているため、生活保護受給一歩手前の患者が医療にアクセスしにくくなっている。これを救済するために、無料低額診療がある。

これは手強い存在になります。そのためか小松氏も思う存分書かれています。それでも正直なところ違和感が残ります。理由は千葉の亀田だからです。これは千葉の亀田が悪辣な経営方針とか医療方針を取っているの意味ではありません。医療水準について言えば、若干の異論は存在するにしても優秀です。経営もまた優秀であるのは有名なところです。

気になるのは「経営も優秀」である点で、現在の医療経営で優秀であるためには並大抵でない経営努力が必要です。ノホホンと無駄ガネを垂れ流すような事業に手を出すとは到底思えないです。小松氏が謳う理想論は美しいですが、これはあくまでも建前でキッチリ算盤は弾かれているのではないかです。その傍証として、

無料低額診療を行うにあたって3つの原則が重要だと考えている。第一に病院の存続が脅かされてはならない。

小松氏は病院負担が増える分について

無料低額診療を実施するための資金は、寄付で集めたいと考えている。寄付集めの専門家とも相談を重ねている。

これは正道ですがチト空論と思わざるを得ません。言ったら悪いですが、房総半島の南部地域の無料低額医療のために、そうそうは寄付が集まるとは思えませんし、そんなものを真剣にアテにして千葉の亀田が動くとは信じ難いです。


無料低額方針の淵源

平成24年1月12日付社会福祉法人太陽会理事長 亀田信介「安房地域医療センターの減免措置取り止め問題をめぐる新聞折込みについて」より、

昨年10月,事前に何の話し合いもないまま,館山市より「来年度から安房地域医療センターへの固定資産税ならびに都市計画税の減免措置を行わない」との意向が示され,私どもは大変驚き,困惑いたしました。

どうも譲渡時に固定資産税と都市計画税の減免措置を受けていたようです。2008年に太陽会に譲渡されてから4年目にこの減免措置の打ち切り方針が館山市に浮上したようです。この辺の事情についてMRICのVol.400 館山市長による安房地域医療センターへの固定資産税等減免措置停止問題についてには安房地域医療センター事務部長補佐 亀田総合病院経営企画室 小松俊平氏の主張として、

太陽会は経営委譲により、病院建物等の資産とともに、953,784,000円の負債を承継した。太陽会は経営委譲の際、安房広域、構成市町、安房医師会と協定を締結し、地域医療、救急医療の確保を約束した。太陽会は経営委譲以降、館山市長から、病院建物等について固定資産税等の減免措置を受けてきた。減免措置は、安房地域医療センターが担う地域医療、救急医療の中核としての機能の公益性を理由に行われてきたものだった。また、経営委譲前から安房医師会に対して継続して行われてきたものだった。

太陽会が引き継いだ負債は5億円と上記しましたが、正確には9億5000万円ほどあったようです。病院建物等の固定資産税の減免措置は安房医師会時代からのものであり、これを太陽会が引き継いでから打ち切りするのはおかしいの主張で宜しいかと思います。気持ちはわかります。太陽会の経営計画は減免措置が長期に続くの前提で行われているはずですから、梯子を外されるようなものです。ここにはセンターの収支が紹介されていますから引用しておくと、

本業の収益を示す医業収益(税込み)は、2008年度3,162,546,208円、2009年度3,617,243,714円、2010年度 3,589,556,534円だった。本業の損益を示す医業損益(税込み)は、2008年度△130,301,447円、2009年度 △113,903,689円、2010年度△88,373,185円だった。補助金収入などを含めた経常損益(税込み)は、2008年度 △53,151,703円、2009年度△36,593,501円、2010年度31,977,582円だった。

これに対して減免額は、2008年度(納税義務者、減免申請者ともに安房医師会)31,000,200円、2009年度(以降納税義務者、減免申請者ともに太陽会)28,290,700円、2010年度27,401,200円だった。なお、2011年度の減免額は28,241,100円だった。減免措置の有無が安房地域医療センターの収支に与える影響は甚大である。また現在、安房地域医療センターでは総事業費約14億円を投じて救急棟を建設中である。救急棟完成後の影響はさらに大きくなると予想された。

これじゃわかりにくいですねぇ、表にして見ます。

項目 2008 2009 2010
医業収益(税込み) 31.6億円 36.2億円 35.9億円
医業損益(税込み) △1.30億円 △1.14億円 △0.88億円
経常損益(税込み) △0.53億円 △0.37億円 0.32億円
減免額 0.31億円 0.28億円 0.27億円


さすがは亀田で経営譲渡後に確実に経営を立て直しています。とにもかくにも譲渡から3年目の2010年度には経常損益を黒字に転じています。また医業損益の赤字分も確実に減少させています。この後のデータは書かれていませんが、予想として医業損益の赤字はさらに減少から黒字に転じてもおかしくないですし、経常損益の黒字分はさらに拡大する事は予想されます。

う〜ん、これを見ると館山市の言い分がかえって判る様な気がします。安房医師会時代は掛け値無しの赤字経営で、税の減免措置ぐらいの援助をしなければ病院自体が消滅する状態であったと見ます。だから減免措置が行なわれたです。ところが太陽会経営になり経常損益も黒字化出始めると「税負担の公平性」意見が出てきたのだ見ます。もちろん背景には財政難があります。それこそ補助金まで貰って黒字なのに税金さえ免除があるのはおかしいです。

太陽会にしてみれば大赤字病院をここまで建て直して、今の時点で「それはないやろ」です。ただ

    また現在、安房地域医療センターでは総事業費約14億円を投じて救急棟を建設中である
たぶんここについてさえ、見解は真っ二つに分かれ、館山市にすれば「そんなものが作れるぐらいなら税金払え」でしょうし、太陽会にすれば「安房地域への医療充実のためにやっているのに」ぐらいだと思います。長々と紹介しましたが、無料低額の淵源はここだと私は思います。


第二種社会福祉事業を行うメリット

地方税法

第三百四十八条

 市町村は、国並びに都道府県、市町村、特別区、これらの組合、財産区及び合併特例区に対しては、固定資産税を課することができない。

十の六  第十号から前号までに掲げる固定資産のほか、社会福祉法人その他政令で定める者が社会福祉法第二条第一項 に規定する社会福祉事業の用に供する固定資産で政令で定めるもの

社会福祉法第二条第一項とは「この法律において『社会福祉事業』とは、第一種社会福祉事業及び第二種社会福祉事業をいう」です。無料低額医療の場合、全体の10%以上なら固定資産税は減免されるそうです(ソースは確認できませんでした)。ちょっと話をまとめます。

  1. センターは固定資産税及び都市計画税の減免措置を受けていた
  2. この減免措置を廃止する動きが館山市に出た
  3. 医療の無料低額を第二種社会福祉事業として行う事により、固定資産税の減免を狙っている
  4. 「無料低額負担分 < 固定資産税」の関係がある可能性がある
4.の「無料低額負担分 < 固定資産税」の関係がある可能性があるの傍証は小松秀樹氏の力説にかえって現れています。

医師会は、既得権益を維持するために、しばしば社会の要請に答える努力を抑圧してきた。間宮会長、原副会長は、社会が必要としている活動の邪魔をせずに、自分たちでも努力してみてはどうか。無料低額診療は、社会福祉法に第2種社会福祉事業として規定されている。第1種社会福祉事業と異なり診療所でも実施可能である

さらに再引用しますが、

生活保護受給一歩手前の患者が医療にアクセスしにくくなっている。これを救済するために、無料低額診療がある。

そういう方々はセンター受診者だけではなく、太陽会の他の関連施設、さらには鉄薫会の本山亀田病院にもおられるはずです。あれだけ安房医師会を非難されたのですから「他は?」の疑問が当然出てきます。何ゆえにセンターにのみ無料低額を突如持ち出したかです。(ここで太陽会及び鉄薫会が既に第二種社会福祉事業として無料低額化を行っておられるのなら故無き誹謗中傷であると陳謝させて頂きます。私が探す限り確認できませんでした。)

センターのみに持ち出した傍証は他にもあります。2008年に経営譲渡されて以来、今までは無料低額化は行っていないのは確かです。持ち出したのは今年に入ってからですし、あれだけの長さの小松秀樹氏の文章のうちで亀田グループが行ってきたとは一言も書いてありません。ゆえに本音は経営上の、

    「無料低額負担分 < 固定資産税」の関係
これにあると見られても致し方ないと思います。固定資産税は表に示した金額よりも、新設される救急棟の分がさらに上乗せされる点は御留意下さい。


評論家と経営者の2つの顔

話は一皮剥けば亀田と館山市の税金問題だと私は感じます。取れるところからは1円だって取りたい館山市と、ホワイトナイトのはずだったのがに梯子を外された思いの亀田のバトルです。この点では亀田に私は同情します。せっかく立ち直ってきたセンターなんですから、税金を取り立てるにしても、もうすこし手続きを踏んで慎重に行うべきだったです。

ただ亀田の反撃も少々ラジカルです。いろんな経緯はあったにしろ、どうせ税金として取られるのなら診療代金の割引きに使ってしまえです。そうすれば集患にもつながり、悪くて若干の持ち出し、たぶん試算上はプラスと出ていると推測します。たとえ若干の持ち出しになろうとも館山市への意趣返しとして、亀田として会計処理で耐えられる金額であろうです。

トバッチリは地元の開業医及び他の医療機関になるかと思います。天下の亀田の直参病院が無料低額で集患されれば経営体力が違います。同じように固定資産税の減免を第二種社会福祉事業として受けたとしても殆んどのところは、

    無料低額負担分 > 固定資産税
こうなるかと見ます。どこの医療機関でも「無料低額負担分 < 固定資産税」になるのであれば、もっと広く行われているはずです。うちだってやります。もう少し言えば、こんなものが広く行われていたら、自治体の固定資産税の減収につながりますから、遠の昔に「損するように」に改訂されています。つまりは普通にやれば損するからせめて固定資産税を減免しているのです。そりゃ医師会なら反対します。


かなり悪意の解釈になりますが、経営中枢にいる小松秀樹氏は今回の経営上のカラクリをご存知のはずです。知らないとは言わせません。亀田の副院長ですからね。MRICに2回に渡り投書した目的は、亀田側の負の本音をカモフラージュしたかったからだとするのが妥当です。同時に館山市への交渉上のブラフです。ちょうど反対意見を出してきた安房医師会をダシにして「亀田の本気」をアピールしたです。減免措置廃止なっても「固定資産税は回さないぞ」です。

これもかなり深読みですが、安房医師会の反論は有り難かったかもしれません。安房医師会も減免措置問題ぐらいは知っているはずですから、その意趣返しで亀田が無料減額医療をやられてはたまりません。センターの減免措置廃止だけなら医師会は動かないでしょうが、それとセットで無料低額診療をセンターがやるのなら火の粉が直接かかります。地元医師会として減免措置延長に協力せざるを得なくなるです。地元医師会を動かすには無料減額を断行する姿勢を見せるのが効果的になります。

一番拙いシチュエーションは安房医師会が大賛成された時です。積極推進決議でも行われたら一番困ったのは亀田であった気がしています。そりゃ亀田総合病院のある鴨川市だって安房医師会のカバー範囲ですから、センターと同様の総合病院の方も同時にヨロシクなんてやられた日には対応に苦慮する事になります。筆達者の小松秀樹氏だって、センターは無料低額が必要で亀田総合病院を含むその他は不要の説明は大変だと思うからです。


小松秀樹氏の主張は経営者感覚としてアリと思いますが、日頃の医師会憎しが勢い余って、誰だって、たとえ零細診療所だって無料低額は出来るし、やらないのは既得権云々だと言い切ってしまったのは少々拙かったかもしれません。無いとは思いますが、開き直られて小松秀樹氏の御高説に同意されたら上述したように今度は亀田が大変になります。

小松秀樹氏は亀田の責任ある立場の経営者ですが、一方で今なお著名な医療評論家です。館山市の減免措置廃止がその後どうなったかは存じませんが、小松秀樹氏は減免措置の廃止・延長に関係なく、

  1. センターは当然のように無料低額医療を粛々と遂行する
  2. 太陽会及び鉄薫会の関連医療施設も速やかに無料低額医療を実施する
これは行わざるを得ない立場になっていると存じます。ここはチト煩雑なのですが、単なる評論家であれば、主張はしても実行は無関係です。そりゃ、経営者ではありませんから実行するかどうかは他人である経営者の権限です。では単なる経営者であればどうかです。言ったからには本来は実行する方が好ましいですが、経営上のブラフはある意味常套手段です。そういう経営戦略は別に珍しくもありません。

そいでもって評論家なんですが、主張すると言う事は実行できる立場にあれば「もちろん行う」になります。経営者でないのが本来は遁辞になるはずですが、経営者でもある場合が今回のケースのように考えています。これはそんなに誤解は無いと存じます。ここで小松秀樹氏は主張したからには実行を必要とする評論家であり、さらに実行できる経営者である事になります。

つまりやるといったからにはやらなければ整合性が取れなくなるです。もちろん実行しなくとも別に構いませんが、その時には評論家としての評価は当然のように下がり、以降は経営者としての発言と見られる事になります。些細な事ですが、その程度の影響はあると思っています。なんとなく個人的にはどこかに小松秀樹氏の戦術ミスがあると思うのですが、文章になって全国発信しちゃいました。どうなる事やら。

まさかと思いますが、亀田グループが一丸となって無料低額を本気でやるつもりなのかなぁ?