南相馬市立総合病院も震災と言うか放射能問題の影響が大きく、震災前に常勤医12人、非常勤医9人であったのが一時期常勤医4人まで減ったとされます。そこからの復旧ですが、南相馬市の医師募集のページに、
現在常勤医10人、非常勤医7人となっています。
かなり復旧している事が確認できます。これに加えて2/16付読売記事には、
4月からは脳神経外科と麻酔科の医師1人ずつを派遣する方向で調整中だ。
今日は3/21ですから、10日程で震災前の水準にほぼ復旧するのも確認できます。ここまでの人事は30人募集企画とまったく関係ありません。あえて言えば震災後に苦しいながらも医師をやり繰りして、1年はかかったものの震災前の水準に着実に復旧していると言う事です。この医師の数で十分かどうかですが、まず南相馬市を含む相双医療圏は人口もかなり減っているとされます。
正確な人口を把握するのが難しいのですが、公式統計の南相馬市の人口は、
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震災前の2011.2.28が7万1494人
震災後の2011.4.1が7万516人
2012.3.21で6万6105人
年度 | H.19 | H.20 | H.21 |
病床利用率(%) | 86.7 | 79.5 | 75.9 |
1日平均在院患者数(人) | 200 | 183 | 175 |
平均在院日数(日) | 20.0 | 18.4 | 19.2 |
1日平均外来患者数(人) | 432 | 378 | 357 |
おおよそ180床ぐらいの運用で、現時点ではどれぐらいかですがこれも読売記事からですが、
入院患者は震災前の180人に比べて120人程度になっており
読売記事は総合病院の医師数が「現在常勤医10人、非常勤医7人」になったのを受けてのものです。震災前が「常勤医12人、非常勤医9人」ですから、60人ほど減っているのが医師不足のためなのか、それとも入院が必要な患者が減っているのかの判断が必要ですが、かなり微妙なようにも思います。これは現地情報がないので保留にしておきます。
ただし4月には震災前の医師数水準に復旧するので、震災前の180人水準が机上では可能になります。ちなみに総合病院の病床数は一般のみの230床です。こういう復旧の速度が現地の医療事情に「なんとか」でも間に合っているのか、それとも全く足りていなくてテンテコ舞い状態なのかの情報もまた持ち合わせていません。
2/11付MRICからですが、
2011年9月、私は、亀田総合病院の亀田信介院長と共に、南相馬市を訪問しました。桜井延勝南相馬市長に、南相馬市への医療支援を依頼されました。南相馬市立総合病院の金澤幸夫院長は、特に、二次救急を充実させたいと述べられました。10月、私は南相馬市立総合病院が、医師30人を一度に募集する『攻めの医師募集案』を提案しました。人数を入れたのは、入院患者100人当たりの常勤医師数を6.7人から、20人にしたいと思っていることを、応募者にも分かってもらうようにするためです。
MRICの投稿者は小松秀樹氏です。記事にある千葉の亀田が総合病院の支援に積極的である情報発信はMRICで随所に見られます。ご存知だと思いますが小松市は亀田の副院長であり、南相馬支援に大きな関りを持っているであろう事も間違いありません。記事にある通り、昨年10月時点で30人企画が始まっている事も確認できます。
なぜに30人なのかですが、
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入院患者100人当たりの常勤医師数を6.7人から、20人にしたいと思っている
あくまでも目安ですが震災前の規模で医師配置基準を計算すると常勤医換算で20人です。どうやって震災前の「常勤医12人、非常勤医9人」で20人をクリアしていたか謎なんですが、前にやった当直人体練成術で2人当直なら3.53人、3人当直なら5.02人、4人当直なら7.06人が生み出されますから活用していたのでしょうか。よくわからないところです。配置特例をもらっても緩和は9割までですから常勤医換算18人は必要です。
当直人体練成術も置いといて、小松氏の計算は230床が9割稼動の200人ぐらいを想定している様に思えます。200人なら必要医師数は40人となり、現在の10人(もしくは4月からの12人)と合わせて30人で帳尻が合います。
2/11付MRICより、
南相馬市立総合病院の許可病床数は、230床でしたが、実際に稼働していたのは、180床でした。震災前の医師数は、常勤医12人、非常勤医9人でした。入院患者100人当たり、常勤医師数6.7人です。これは若い医師からみるとびっくりするほどの少なさです。これで24時間、救急患者を受けると、医師は疲弊します。このまま医師を募集しても、誰も応募しないと思いました。ちなみに入院患者 100人当たりの医師数は、国立大学病院53.1人、都道府県立病院23.9人、市町村20.2人、日赤24.6人、厚生連18.4人、国立病院機構 13.4人です(国立病院機構以外については、厚労省の平成20年の「病院報告」による。国立病院機構については、平成21年度患者数と平成22年1月1 日現在の職員数より算出)。私の勤務する亀田総合病院は47.0人(2011年4月1日)です。入院患者100人当たりの医師数が6.7人では、提供できる医療の質が違ってきます。せめて20人程度にはする必要があります。
簡単に言えば医師がたくさんいる方が、
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救急患者を受けると、医師は疲弊します
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提供できる医療の質が違ってきます
そこを震災の急場と言う事で、まず医師が集まった状態を作り、沢山いるから「救急もラクだぞ」「医療の質も高いに決まっている」状態を強引にでも作ってしまう企画にも見えます。たださすがに集まる予定だから「ほら来い」は無理があると判断したのか、もう一つのインセンテブを設けています。これもMRICからですが、
医局になじめない医師に、医局と異なる性質の人事システムを示して、医局を離れても、きちんとした卒後教育が受けられること、能力次第で、立派なキャリア形成が可能であること、被災地で活躍することが、キャリア形成のための勲章になることを理解してもらうことができれば、医師を被災地に集めることができます。坪倉医師や原澤医師は、若い医師の新しいロールモデルになりつつあります。彼らの活動が伝説になれば、日本の若い医師の行動が変容し、医療は大きく変わります。
なかなか文章が上手なので本質を見失いそうになりますが、発想は旧来の医局のバーター人事の導入です。条件の悪いところで我慢すれば、次の異動で栄転を約束するです。さすがは小松氏でバーター場所に華麗なところを用意されています。
肩書き | 氏名 |
医療法人鉄蕉会 理事長 | 亀田隆明 |
河北総合病院 理事長 | 河北博文 |
ナビタスクリニック立川 院長 | 久住英二 |
東京大学大学院医学系研究科 教授 | 渋谷健司 |
虎の門病院 血液内科部長 | 谷口修一 |
公益財団法人がん研究会 理事 | 土屋了介 |
学校法人獨協学園 理事長 | 寺野 彰 |
ときわ会グループ 会長 | 常盤峻士 |
東京大学医科学研究所 教授 | 中村祐輔 |
公益社団法人がん研究会がん研究所 所長 | 野田哲生 |
ベイラー膵島移植研究所 ディレクター | 松本慎一 |
祐ホームクリニック 理事長 | 武藤真祐 |
仙台厚生病院 理事長 | 目黒泰一郎 |
ゴメンナサイ、華麗としましたがバーター協力者の面々を見ていると全員が必ずしも華麗とは言い難そうな気がします。あんまり詳しくはないのですが、この中で南相馬のお勤め果たしてまで「次に行きたい」ところが半分もあるのでしょうか。「○○研究の第一人者」が何人かおられるようですが、一方で小松氏は、
従来の医学部では、臨床の教室であっても、臨床より基礎研究が一段上だとみなされてきました。多くは生物学的手法を用いた研究でした。医療を進歩させるのに研究が重要であることは間違いありませんが、臨床医にとって、目の前の患者に医療を提供することはもっと重要です。さらに、一人の個人が、基礎研究と臨床を両立させることは不可能です。研究上の業績で臨床現場の地位が決められるとすれば、弊害がでてきます。そもそも、二流以下の研究にはほとんど価値がありません。しかも、臨床の教室で、一流の研究成果を出すところは稀なのです。
これどう読むんでしょう。臨床教室で基礎研究をやっても成果は出ないとしています。これはなんとなく判るのですが、では一流の成果を出すために一流の基礎研究室に進めべきとしているかと思えば、
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一人の個人が、基礎研究と臨床を両立させることは不可能です
まあ、最後は亀田があると言えばそれまでですが、見ようによっては亀田ぐらいしか実質的にはなさそうな気もしないでもありません。そっかそっか、キーワードはここか、
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医局になじめない医師
ちょっとまとめると小松氏が企画するインセンティブは
- 医師が集まる魅力ある病院ではなく、医師がとりあえず集まった病院を人為的に作り上げる
- 著名医師の下への異動パスポートらしいものがありそうな雰囲気を作る
2/3付MRICからです。
肩書き | 氏名 |
南相馬市 市長 | 桜井勝延 |
番場ゼミナール 塾長 | 番場さち子 |
小野田病院 院長 | 菊地安徳 |
南相馬市立総合病院 院長 | 金澤幸夫 |
東京大学医科学研究所 特任教授 | 上 昌広 |
亀田総合病院 副院長 | 小松秀樹 |
え〜と、市長と総合病院・小野田病院の両院長は素直にわかります。小松氏と言うか小松氏が所属する亀田が昨年9月に南相馬市を訪問した時に支援の要請を市長から受けているのでこれもわかります。ほいじゃ番場ゼミナールとはなんぞやですが、調べると南相馬市にある塾のようです。なぜにと思わないでもありませんが、地場産業の有力者なんでしょうか。ま、番場ゼミナールに関しては市民代表ぐらいに解釈しておきましょう。
さてさて残り1人は上氏です。個人的にはやっと上氏と南相馬市の明瞭な関係が確認できた(前に調べとけの叱声は甘んじて受けます)のでホッとしています。上氏の役割は結構重大で、
医師の労働市場は個人的な情報交換が大きな意味を持ちます。一定の役割を果たされて転職を希望される場合、上昌広、小松秀樹が、それぞれの病院と別の立場で、転職とキャリア形成について相談に応じます。
つまり南相馬からのキャリア・アップのパスポート作成に小松氏と共に責任を負うとしています。本当に責任を負うのか、それとも言葉の額面通りに「相談に応じる」だけなのかは不明ですが、これだけの企画を立てて相談だけで終らないと一般的には受け取られるのが常識です。ただここまで深く関与しておいて、2/23付ツイートに、
南相馬市立総合病院での勤務を希望し、常勤医となった医師と話し、市の対応に呆れた。全国医学部長会議から派遣される若手医師が一週間で稼ぐ額と、月給が同じ。民間病院の半分以下だ。残業を多めにつけるとか、やりかたは幾らでもあるだろう。例年の三倍も予算があって、ゼネコンに丸投げしているのに
どうにも小松氏も上氏も気分先行で実務が追いついていない、もしくは実務を詰めてくれるスタッフに事欠いている気配がしてなりません。そう言えばキャリア・アップ先候補のバーター病院の方にも、そういう目で見ると微妙な事が書いてあり、
下記協力医師13名に、必要に応じて、助言や協力を求めます。さまざまなタイプの医療施設の経営者が含まれています。
小松氏がMRICで力説しているのは医局制度に変わる新しいロールアップモデルですが、公式には「助言や協力」となっています。読みようによってはパスポートにさえなるかどうかは微妙な表現です。13人の協力医師の施設でさえ、必ずしもバーターの受け皿になるとは明言されていません。
ソースがタブなので信憑性の問題が多々あるのですが、3/17付記事(福岡版)に、
南相馬の病院担当者に聞くと、募集から1カ月がたつが、いまだに1人も決まっていない。
これを信用するとすれば、幾つかの連想が出てきます。「1人も決まっていない」と言う事は、30人募集が純粋に全員が公募であると言う事です。どこかから南相馬で働きたいという医師が湧いてくるのを指を加えてひたすら待っている事になります。たとえば地理的に有力候補の一つである東京ですが、あそこでは地域医療振興協会が昨年の9月頃から光が丘病院の医師集めをやっています。
南相馬と光が丘のどちらに魅力があるかは好き好きですが、醒めてみれば光が丘の方が有利だと思います。光が丘には現時点で67人を集めたとなっていますが、1/3以上は協会系病院からの出向らしいの情報があります。地域医療振興協会が威信にかけて集めてもこの程度と言う事です。そりゃ何もしなければ公募から1ヶ月程度ではゼロも納得です。
何が言いたいかですが、本気で30人集めたいのなら呼び水が絶対に必要です。最低でも10人程度は「早くも決定」ぐらいの状況を演出しないと話が始まらないです。10人は見せ金の意味もありますが、もう一つ重要なポイントを含んでいます。30人なり40人集まった南相馬の医師たちの核と言うか牽引車になる必要もあると言う事です。
小松氏は医師を30人集める意義を滔々と書いておられますが、集まっただけでは烏合の衆です。出身地も、経歴も、年齢も異なる様々な医師たちが単に集まっただけではパワーにならないです。医師が集まる病院は医師数が多いからだけで集まっているわけではありません。院内の各種の「人」のシステムが優秀だから集まってくるのです。
亀田の人気が高いのは、培ったシステムが優秀だからです。しかし悪いですが南相馬にはありません。いや今の人数でなんとか回すノウハウはありますが、それを人数を増やして拡大しただけでは小松氏の主張する医療の質の向上にそう簡単にはつながりません。
集まった医師を有機的に結びつけパワーを発揮させるためには、発揮させるだけのシステム構築が必要と言う事です。集まっただけで出来るものではないと言う事です。もちろん集まった医師の中から頭立つ者が台頭し、自然にそうなるのを期待すると言うのもありますが、速成を目指すのであれば、まずノウハウを持った中核になる人材が必要であると言う事です。
そういう人材を小松氏も上氏もまったく用意せずに、30人募集の花火だけ上げた言われても仕方がないところでしょう。これでは後方で「支援、支援」と企画だけを作り、もし応募がなければ「医師の倫理も地に落ちた」みたいな批判を展開してお茶を濁すつもりではないかの見方も出てきます。小松氏、上氏には見えないかもしれませんが、外野からは人柱だけを調達し手柄だけ手にしたい様にも見えます。
きっとですが、そういう邪まな意図は上氏にも小松氏にもないはずです。純粋に南相馬の現状を見てなんとかしたいの思いから動かれていると私は固く、固く信じています。信じてはいますが、このまま30人企画が頓挫すれば上記したような邪推が生じる余地が出てきます。そうなる事は両氏にとっても不本意そのものと考えます。
小松氏の30人の狙いは上述した通り、30人(合計40人以上)のマンパワーを終結する事による医療改革です。逆に言うと集まらないとその意図は絵に描いた餅になります。様々に次の構想を書かれていますが、それらは30人が実際に結集する事が前提です。期間についても明記はしていませんが、繰り返し南相馬の医療危機を訴えられていますから2年とか、3年とか、5年とか、10年とかではなくて「可能な限り早期」であるのも自明かと存じます。
もう一つポイントは30人のマンパワーがある事がインセンティブにしている事です。応募を期待する医師も「30人いるなら」の魅力で集めようとしているのも明白です。しかし現時点では空手形も同然で、単に「建設予定地」の立て看板が一つ立っているだけに過ぎません。つまりインセンテブが本当に実現するかの様子を見ている医師もいると存じます。
だからこそ公募と同時にまとまった人数を見せる必要があると言う事です。理想的には上氏なり、小松氏がまず腹心を連れて南相馬に乗り込むべきかと存じます。南相馬の医療事情が厳しい事は両氏とも十分にご存知のはずです。立て看板一つでワンサカ医師が集まるのなら、震災前だって医師不足に苦労するはずもありません。
まず高名な両氏が手勢を率い、先陣を切って乗り込めば、30人のインセンティブもバーター条件も手厚い信用に変わります。募集企画の本気度が周知され「よし、オレも続こう」の機運がようやく芽生えると言う事です。
とくに小松氏は幸いな事に亀田の副院長です。副院長不在でも亀田はキッチリとカバーしてくれるでしょうし、亀田の副院長の椅子なら雲霞の如く希望者は殺到します。上氏については詳しくは存じませんが、その存在の有無が東大医科研の存続に関るほど重いとは思えません。言ったら悪いですが「代わりは幾らでも湧いてくる」です。そうそう現在の職を辞めよとは言っていません。某協会得意の出向でどうぞです。
上氏、小松氏本人の陣頭指揮がどうしても無理であるなら、信頼できる腹心をリーダーにされても構いません。上氏・小松氏と目に見えるパイプで繋がっているのを見せれば次善ですが効果はあります。せめて1/3ぐらいは調達した上で、残りを純粋の公募に期待するのが良策ではないかと考えます。
もう少し言えば、南相馬の30人企画は終身制ではなく任期制の色合いが濃くなっています。一定の任期が終ればバーターへのパスポートを手に入れて去っていきます。つまり常に抜ける分の補充が公募で必要です。そうならば一番理想的には公募と同時に自前で即座に30人調達し、小松氏の主張するインセンティブ環境を作り上げ、その上で補充人数を今後に期待するのが最善とも言えます。
まさかと思いますが、小松氏にしても、上氏にしても運命を共にしてくれる腹心とも言える部下がタダの1人もいないのでしょうか。元手がゼロで30人企画を打ち上げたなんて事は私は信じたくはないのですが・・・。