謎が謎を呼ぶ地域医療振興協会の不思議な人事

昨日の話の延長戦です。詳細は昨日のエントリーを読んでもらうとして、概略をまとめておきます。

  1. 横須賀うわまち病院は平成14年7月から、横須賀市民病院は平成22年4月から地域医療振興協会(協会)が指定管理にて経営を請け負っている
  2. 平成22年4月に横須賀市民病院が指定管理になった時に、指定管理前の5人の小児科医は全員入れ替わった
  3. 現在の横浜市民病院小児科には5人の医師が確認されるが、同じ医師が横須賀うわまち病院でも小児科医としてスタッフ紹介されている
ここまでは事実です。ここからが昨日の集まった情報を基にしたムックです。


ホームページ問題

ホームページの内容の分析は昨日やりましたから端折りますが、普通に見れば横須賀市民病院には5人の常勤小児科医がいるように見えます。同じように横須賀うわまち病院にも15人の小児科医がいますが、横須賀市民病院と重複する5人も含めて15人の常勤小児科医がいるように見えます。

常勤か非常勤かはどこにも明示されていないとは言え、良く調べてみても「どうも」ホームページに記載されているは医師は常勤医らしいの判断が出来ます。こういう状況で、もしどちらかの小児科医が実は非常勤であるとなればどうなるかです。これは法務業の末席様からですが、

イエイエ、HPでの公表が事実と異なる(乖離している)場合に、そのHPを読んで同業他者より優れていると誤解する人が多ければ、それは不当景品類及び不当表示防止法(景取法)4条1項1号の「優良誤認」にあたる可能性があります。掛け持ち勤務のアルバイト医師ばかりなのに、さも常勤の医師だと誤認させるようなHPを作成し、受診する患者などに非常勤のアルバイト医師より常勤医師の方が安心できると思わせる意図があれば、それは立派な「優良誤認」となるでしょう。

こうした優良誤認の表示をする事業者には、そうした不適切な表示を止めるよう都道府県知事の是正指示を出します。事業者が都道府県知事の指示にに従わないときは、内閣総理大臣名の差し止めを指示する措置命令が出され、その措置命令にも従わない場合は二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金という刑事罰があります。

実際に是正指示が出たり、ましてや法に問われる事があるかと言われれば、実地に疎いのでなんとも言えませんが、あんまり好ましい状態とは言えないぐらいはさせて頂いてよいでしょう。もちろんどちらも常勤であれば無問題なのですが、どちらも常勤の壁はかなり厚くなります。


常勤医の定義とは

これがなかなか手強いもので、西岡税理士事務所発「医業経営情報」にはまずこうあります。

医療法第25条第1項の規定に基く立ち入り検査要綱に常勤医師等の取扱いについてという別紙があり、そこには常勤医師の定義として「病院で定めた医師の1週間の勤務時間が、32時間未満の場合は、32時間以上勤務している医師を常勤医師とし、その他は非常勤医師として常勤換算する。」と書かれています。

ここも「どうも」なんですが、

    病院で定めた医師の1週間の勤務時間
こちらが優先するようです。何に優先するかと言えば32時間よりです。傍証を挙げておきたいのですが、これは愛媛県の資料です。

(1)常勤医師とは、原則として病院で定めた医師の勤務時間の全てを勤務する者をいう。
 ア 病院で定めた医師の勤務時間は、就業規則などで確認すること。
 イ 通常の休暇、出張、外勤などがあっても、全てを勤務する医師に該当するのは当然である。

(2)病院で定めた医師の1週間の勤務時間が、32時間未満の場合は、32時間以上勤務している医師を常勤医師とし、その他は非常勤医師として常勤換算する。

つまり勤務時間が32時間以上なら、これをすべて勤務する医師が常勤医と言う規定になっています。32時間は非常勤医換算に用いられ、非常勤医であっても週に32時間以上の勤務となっていれば常勤医1名に換算できるとなっています。実は32時間であれば非常勤医でも無条件に常勤換算できるかと言えば、どうもそうではないようで、これは日医の病床の種別の変更についてからですが、

常勤医師は1人とし、非常勤医師は全員の1週間の勤務時間を積み上げた上で、当該病院の医師の通常の勤務時間で換算した数とします(常勤換算)。

例)常勤医師が6人、非常勤医師が8人で、医師の通常の勤務時間が40時間の場合(非常勤医師は、AとBが20時間、C、Dが10時間、F、Gが4時間とします)

常勤医師は、6と算定。非常勤医師の合計勤務時間は68時間なので、その病院の医師の通常の勤務時間で換算すると、68÷40で、1.7となります。

どうも常勤換算の方法の基本は平成15年9月5日付医政発第1909010号にあるのですが、そこには、

  • 非常勤医師が複数いる場合には、非常勤医師全員の1週間の勤務時間を積み上げた上で、当該病院の医師の通常の勤務時間により換算して計算するものとする。
  • その際、1週間の勤務時間が当該病院の医師の通常の勤務時間を超える非常勤医師がある場合には、その者は当該病院の医師の通常の勤務時間を勤務しているものとして計算するものとする。

これの解釈が割れている部分もあるようで、愛媛県では非常勤医の勤務時間の合計が週32時間以上になれば常勤1人としていますが、通達はどちらかと言うと就業規則の勤務時間が常勤医換算の母数となるようです。では医療法の32時間はどうなるかですが、常勤医とするための週間勤務時間の下限を示しているみたいに解釈できそうです。

つまり就業規則で週間勤務時間を10時間とし、これを満たしても非常勤なわけです。ですから「32時間以上勤務している医師を常勤医師」の解釈は、32時間「以上」の就業規則と考えた方が良く、就業規則が40時間なら39時間働いても非常勤になるみたいな感じです。

私の解釈が間違いないかどうかは何ともいえないのですが、少なくとも週に32時間は勤務していない事には常勤医にカウントされないのは間違いないと考えられます。そうなるとダブル常勤を行うには週に64時間の就業規則に従った勤務が必要になり、これは労基法としても物理的にも分身の術でも使わないと不可能になります。

そうなると横須賀市民病院と横須賀うわまち病院の両方に常勤医として勤務するのは無理と言う結論が出てきます。


横須賀市民病院の施設基準取得

平成23年4月1日現在とした横須賀市立市民病院の基本診療料の施設基準取得一覧表があります。そこの小児科関連の取得項目をピックアップしてみます。

取得施設基準 特定集中治療室管理料1
(注2)小児加算
新生児特定集中治療室管理料1 小児入院医療管理料3
施設基準
ピックアップ
専任の小児科の医師が常時配置されている保険医療機関であること。 当該治療室内に集中治療を行うにつき必要な医師が常時配置されていること。 当該保険医療機関内に小児科の常勤の医師が五名以上配置されていること。
簡単な解釈 小児科医のICU当直が必要 NICU当直が必要 5人の常勤小児科医が必要
承認年月日 平成18年9月1日 平成22年7月1日 平成14年7月1日


特定集中治療室管理料1(注2)小児加算と小児入院管理料3は協会による指定管理前に取得したものの継続ですが、新生児特定集中治療室管理料1は協会が指定管理者になってからのものです。そうなれば当然ですが、これを満たすだけの小児科医が机上の計算上でもいると言う事になります。ま、ICU当直にしろ、NICU当直にしろ横須賀うわまち病院からの応援は期待できますから可能といえば可能です。

ただ小児科入院管理料3の5人の常勤規定を満たすためには、やはり常勤医が必要そうに思えます。当直時間で勤務時間を稼ぐと言う手もありますが、交代勤務制ならともかく、当直制では当直時間は勤務時間にカウントされません。また交代勤務ででも正規勤務にカウントされてしまうと、労働時間自体は合算されるため労基法的にクリアするのは大変難しくなります。

施設基準取得を見る限り、横須賀市民病院の5人の小児科医は常勤医である必要があると考えるのが妥当です。


小児科最高責任者が非常勤??

横須賀市民病院の5人の小児科医が常勤であれば自動的に横須賀うわまち病院の5人は非常勤になります。HPの広告上の「優良誤認」になるかどうかはさておいても、横須賀うわまち病院の小児科筆頭医師と言うか責任者の立場が微妙と言うか珍妙な物になります。この医師の肩書きは横須賀市民病院でも診療部長(どうも年齢部長のようです)ですが、横須賀うわまち病院では、

    小児科部長、小児医療センター長兼任/小児科専門医研修コースの小児科プログラム責任者
かなりの重責であるのは読んだだけでわかりますが、この小児科部長が実は非常勤医である事になります。ちょっと拙いんじゃないかと思います。非常勤医であるからこの肩書きと重責は違法であるとは言い過ぎかもしれませんが、素直に考えてだれか代わりを立てるのが通常かと思われます。

それとこれは異動の時期が不明なんですが、平成22年6月1日付横須賀市立うわまち病院小児医療センターについてでは非常勤ではないと記されています。常勤とも書かれてはいませんが、非常勤医師は「非常勤」と記されているからです。

平成22年6月1日以降に小児科部長が横須賀市民病院に異動した可能性もありますが、横須賀市立病院の小児科医は平成22年4月時点で総入れ替えになっています。引継ぎ患者がいる状態で総入れ替えですから、私の推測としては信頼もあり、手腕もある人物が派遣されたと考えたいところです。つまり平成22年4月の時点で小児科部長は横須賀市民病院に赴任している方が合理的ではないかと言う事です。


アングラ情報

これはある程度信用を置いている筋から入手した情報なんですが、昨日の時点では横須賀市民の小児科医は横須賀うわまち病院からのすべて非常勤である「らしい」と言うのがありました。ただこれも追加情報があり、「確認してみたが結局よくわからない」に訂正されています。

それと小児科部長ですが、横須賀市立うわまち病院小児医療センターについてに書かれてある、

主治医一人に責任と業務負担がかかる主治医制を改革。綿密なカンファレンスと回診による情報共有で、チーム制で診療を行う。それにより、休暇や休養の時間が医員それぞれに与えられるようになる。On duty の間は責任をしっかり果たし、off はしっかり取る。「疲れ果てた「主治医」一人が24時間365日患者のそばにいるより、絶えず120%の力でぶつかってくれる「良い」医師たちが「主治医チーム」として、そばに絶えずいてくれるほうが、患者へ良い医療が提供できる」これが、当科のポリシーです。

これを文字通りに実践されている医師だそうです。これについては昨日のコメントでも補足がありました。人望篤いだけではなく、実行力にも富んだリーダーとの評価が高いそうです。ただ小児科部長とか小児医療センター長と言ってもさしたる権限はないわけで、さらに上からの業務命令には従わざるを得ない面はあるとは考えます。

そうなると今回の人事で最も妥当な落としどころは、

  1. 横須賀市民病院の5人の小児科医は常勤医である
  2. 小児科部長は横須賀うわまち病院では非常勤で「小児科部長、小児医療センター長兼任/小児科専門医研修コースの小児科プログラム責任者」を務めている
  3. ホームページに関しては事務方の手違い、もしくは更新遅れ
実質的には両病院の間を飛び回ってダブル常勤に近い可能性を考えますが、常勤・非常勤の話になるとそうでも解釈しないと話が落ち着きません。とくに小児科部長は、横須賀市民病院に5人抜けても横須賀うわまち病院にはまだ10人残る計算になりますが、たとえ非常勤であってもトップにいる必要な人材であり、他の医師では代替が難しい存在ぐらいに解釈します。

現在でも小児科部長が横須賀うわまち病院の肩書きが変わっていない傍証として、2011.5.19付レジナビに、

    臨床研修プログラム責任者/小児医療センター長
この肩書きであいさつ文を書かれています。


なんとか綺麗に収めようとしましたが、それでもなんとなくシックリいかない部分が残るムックになりました。残念ながらこれ以上は内部情報でも無いと判明しません。シックリ行かない部分としては、それほど勤務環境の改善に前向きの小児科部長が、突如広がった守備範囲にどう対応されているのかとか、ホームページの問題が「事務方の手違い」「更新遅れ」で済ませて良いかなどです。

とくにホームページ問題は、両病院とも協会所属であり、横須賀市民病院が協会の指定管理になった時に、小児科の人事異動と言うか、小児科がどうカバーするかは大きな問題になったはずです。対応は協会にとっても病院にとっても重要課題であったと思うのですが、小児科だけ杜撰な処理をしているで済むのかどうかです。

謎は残りますが、外野からの努力ではこの辺が限界のようです。思わぬ3回シリーズになりましたが、小児科部長が思わぬ濡れ衣を着せられる結末にだけはならないように願うばかりです。