日医執行部

今日も元ライダー様のコメントからなんですが、

いまだに「日医は開業の団体」と叫んでいる高名な医療崩壊論客の大先生もいらっしゃいますが、 この日医の提案では開業医には何の利益もないことは明白です。利益を得るのは誰でしょうか?そうですね、今でも勤務医をこき使っている病院経営者です。彼らは、研修医の移動が県内にとどまれば、勤務医を確保しやすくなりますし、学生に実習という名の労働をさせることができます。そこからも「日医は病院経営者の団体ではないのか?」との推測が可能です。実際に現会長は病院経営者ですし、事故調法案で暗躍、いや活躍された日医の理事先生も産科病院経営者でしたね。普段は「マスゴミはうそつき」といっている方々の中にも、マスコミが大好きな「日医は開業医の団体」というフレーズを疑わない方がいらっしゃるのは滑稽ですね。

私も虚をつかれた思いでしたので取り上げてみます。

「医師は開業医の団体である」は確かによく使われるフレーズですが、開業医と言っても立場は様々です。大多数は私のような個人開業医(無床)です。一般的にもそう思われていますが、私立病院のオーナーもまた開業医です。徳洲会だって広義の開業医になります。かつては医療経営の拡大ステップとして、

    無床診療所 → 有床診療所 → 中小病院 → 大病院 → 病院グループ形成
こんな感じの成功譚を聞かされたものです。今でも大病院とまでいかなくとも、老健とかリハビリ・センター、介護ステーションをグループに持って手広く経営されている方は決して少なくありません。個人開業医(親子、兄弟程度も含めます)も病院オーナー(今日は医療グループを率いる経営者も含めます)も開業医と言う点では同じですが、利害関係はかなり異なります。

経営者と言う表現なら、個人開業医と病院オーナーもそうなりますが、かなり立ち位置は違います。個人開業医は肩書きに理事長とか、院長とか付けてもしょせんは零細企業主であり、経営者と言っても個人商店の商店主ぐらいの立場です。一方で病院オーナーは会社の社長と言う立場が相応しいと思います。経営規模が違えば当然立場も利害も異なります。これは商店連合会の利害と、経団連の利害が異なるのに似ています。


さてなんですが医師会は日医を頂点とするピラミッド構造ですが、権力の中枢は執行部にあります。説明するまでもないかもしれませんが、日医は会長はもちろんの事、執行部選出も末端会員とまったく関係の無いところで行われます。末端会員が関与しているのは「間接の、間接の、間接の、・・・・・・」であって、実質として関与はゼロとして良いものです。関与が無いと言う事は、選出にも関与が無いとのと同様に、執行部が仮に失態や失策を行っても、何の影響力も行使できない存在です。

一方で会長を始めとする執行部は日医を代表して様々な施策や提言を行います。減らされたとは言え、各種の医療系の審議会に出席するのも執行部による人選です。昨日紹介した医学部教育や研修医教育への提言も日医を代表して行われます。ごく簡単にはかなりの権力を末端会員から無批判で獲得している事になります。


さて冒頭で書いたように「医師は開業医の団体である」は良く使われるフレーズですが、ここの「開業医」にはどんなイメージを抱かれているかです。やはり個人開業医のイメージが強いかと思います。医師会員だって実はそう思っています。理由は単純で、実際に活動の場を置く市町村医師会では殆んどが個人開業医であり、医師会員の構成者の大部分が個人開業医であるからです。

当然ですが日医も個人開業医の代表であると思われても当然なんですが、現在の執行部のメンバーを見て少々驚きました。


役職 氏名 本職
会長 原中勝征 医療法人杏仁会 大圃病院(199床)理事長・院長、社会福祉法人筑圃苑理事長
副会長 横倉義武 医療法人弘恵会 ヨコクラ病院(199床)院長
羽生田俊 羽生田眼科医院(たぶん無床)・院長
中川俊夫 医療法人新さっぽろ脳神経外科病院(135床)理事長・院長
常任理事 今村定臣 医療法人恵仁会 今村病院(34床)院長
三上裕司 特定医療法人三上会 東香里病院(317床)理事長、グループあり
石井正三 医療法人正風会 石井脳神経外科・眼科病院(56床)理事長、グループあり
今村聡 医療法人社団聡伸会 今村医院(たぶん無床)院長
葉梨之紀 医療法人葉梨整形外科(無床、ただし老健80床あり)理事長
高杉敬久 医療法人社団スマイル 博愛クリニック(無床)院長、もともとは透析病院
保坂シゲリ こどもクリニック 南大沢(たぶん無床)副院長
石川広己 特定医療法人社団千葉県勤労者医療協会(千葉民意連)理事長
藤川謙二 医療法人聖医会 藤川病院(50床)理事長
鈴木邦彦 医療法人 博仁会(169床)理事長、看護学校までグループで持っています


現会長が病院経営者であるのは聞いていましたが、14人の執行部役員のうち、個人開業医に近いのは、どうも3人だけのようです。残りの役員は大小ありますが、病院や医療グループの理事長クラスと判断して良さそうです。もちろん日医会員ですし、ここまで登りつめられまで、大変な年月と努力をかけられていますから、その席におられる事自体は今のシステム上からの文句はありません。

今さら日医が全医師の代表なんて戯言は言いません。圧力団体であることも容認しています。業界団体はどこであれ圧力団体であり、自分の業界の利益のために働く側面は濃厚に持っています。ここで自分の業界としましたが、正確には業界団体の所属員の利益を図るです。日医はその構成から執行部の権限が強大ですが、執行部の構成が病院オーナー優位であれば、当然の事として病院の利害を優先します。

そうであれば「日医は個人開業医の団体」と言うより、「日医は病院オーナーの団体」とした方が相応しい表現に思います。


これも一種の制度疲労かと思います。日医のごく簡単な経緯ですが、かつては大学教授支配が強力であったとされます。これに対し開業医サイドが武見元会長を担いでクーデターを起し、以後は開業医の団体となったとされています。主導権を握った開業医側は、二度と勤務医側が主導権を握れないように体制を構築したとされます。

つまりは市町村医師会でタップリと汗をかき、その実績の積み上げにより、都道府県医師会、そして日医への長い長い出世階段を作り上げています。勤務医ではこの出世階段をとても登れないと言うわけです。ただこの出世階段は個人開業医にとっても登るのが大変です。日医はともかく、都道府県以下では給与と言っても寸志程度と聞きます。

出世階段を登るには本業を相当犠牲にしないと無理と言う事です。当人が本業を医師会業務のために犠牲にしても、支障の無い人物しか出世階段を登れないわけです。日医出世階段を登れる条件は、

    必要条件・・・意欲
    十分条件・・・ヒマとカネ
前々から不思議だったのですが、日医の出世階段を登りたいと考える医師は誰なんだろうと言うのがありました。これは必要条件の意欲ではなく、十分条件のヒマとカネの方です。時間のある方は検索されると良いのですが、現在の執行部役員は医師二世、三世の方が多いのに気付きます。二世、三世だから能力が低いという意味ではなく、そういう蓄積とバックアップがないと出世階段を登れないためと考えれば納得がいきます。

個人開業医であっても二世、三世組は可能(3人のうち2人はそうなっています)ですが、個人開業医も時代的に経営が厳しくなっていますから、出世階段を登る個人開業医組が減少しているんじゃないかと思ったりしています。登れるのは基本的にウハクリだけで、それも結構な医療グループのバックアップがあるところが多いと考えられます。

ここでなんですが、病院規模の大きいところの執行部役員は、単なる名誉欲だけで出世階段を登ったとは思えません。経営者も様々ですが、日医の出世階段を登ることが自分の病院のメリットになると言うのも大きいと考えます。そうでない人もいるでしょうが、執行部役員の構成比率を見ていると、そうそう純な気持ちで出世階段を登る人が多数とは思えないからです。

実は医師会員でありながら知らないのですが、ヒョットするとオーナー院長系の日医の席は別枠なのかもしれません。現会長が執行部を組閣した時に、お仲間の病院オーナーを引き入れた可能性はあります。この辺は歴代の執行部役員、せめて前会長の執行部役員ぐらいを調べないと確認出来ないのですが、前の日医会長選挙の時に唐澤前会長が推薦した執行部役員と言うのがあるので検証してみます。

役職 氏名 本職
会長 唐澤祥人 唐澤医院(たぶん無床)
副会長 横倉義武 医療法人弘恵会 ヨコクラ病院(199床)院長
内田健夫 医療法人 内田医院(詳細不明)院長
中川俊夫 医療法人新さっぽろ脳神経外科病院(135床)理事長・院長
常任理事 今村定臣 医療法人恵仁会 今村病院(34床)院長
三上裕司 特定医療法人三上会 東香里病院(317床)理事長、グループあり
石井正三 医療法人正風会 石井脳神経外科・眼科病院(56床)理事長、グループあり
今村聡 医療法人社団聡伸会 今村医院(たぶん無床)院長
飯沼雅朗 医療法人雅修会 蒲郡深志病院(210床) 理事長
高杉敬久 医療法人社団スマイル 博愛クリニック(無床)院長、もともと透析病院
前田美穂 日本医科大教授
石川広己 特定医療法人社団千葉県勤労者医療協会(千葉民意連)理事長
藤川謙二 医療法人聖医会 藤川病院(50床)理事長
新田國夫 医療法人社団つくし会新田クリニック(たぶん無床)理事長、ただしグループ事業多し


ちょっと笑ったのは会長以外に13人の執行部役員候補がいるのですが、9人までが現執行部役員でした。お蔭で手間が省けたのですが、これは執行部役員候補自体がオーナー院長が多数であると見ても良さそうな感じです。前会長には私も含めて批判的であったのは認めますが、こうやって見ると、今や少数派の叩き上げの個人開業医組であった事がわかります。

世間が日医を見る目はともかく、ウォッチャーとしては日医執行部役員の構成も十分に注意して観察しておく必要がありそうです。