新聞協会と記者クラブ問題とクロスメディア規制

総務省主催で今後のICT分野における国民の権利保障等の在り方を考えるフォーラムてなものが開かれているそうです。なんちゅうてもこの手の会議はテンコモリありますから、どんだけ意味のある会議かよく分からないのですが、とにかくそんな会議があることは総務省のHPで確認できます。会議の趣旨として書かれているのは、

総務省は、民主主義の基礎となるインフラであるICT分野において、国民の権利保障等の在り方について検討するため、「今後のICT分野における国民の権利保障等の在り方を考えるフォーラム」を開催します。

ICTとは information and communication technology の事だそうで、日本語的にはITとほぼ同義だそうです。会議の目的は

民主主義の基礎となるインフラであるICT(情報通信技術)分野において、「言論の自由を守る砦」をはじめとする国民の権利保障等の在り方について検討することを目的とします。

会議の名前そのものみたいな目的ですが、そういう事を検討する有識者会議である事が確認できます。この第1回会議の冒頭で原口総務大臣が話した一部を議事録から引用します。

 今、ブログをお手元の画面に出させていただいておりますが、やはり民主主義の基本は言論の自由にある、市場の基本は一人一人が公正ということにあることだと思います。そういう意味でも、放送・報道の自由が絶対に侵害されてはならない。世界の歴史を見ても、時の政治権力は自らを正当化するために、放送や通信に介入する誘惑を断ち切れず、今まで多くの言論弾圧や抑圧がなされてきました。 

 世界に類を見ないものを皆さんと一緒につくってまいりたい、言論の砦をつくってまいりたい、民主主義の砦をつくってまいりたいと思います

全文は長いのでリンク先で御確認下さい。会議を議事録まで含めて全部追っかける時間が無いので、最新の第3回を注目してみたいと思います。配布資料には「アジェンダの設定」と書いてあるものがあります。アジェンダって何かになりますが、これは検討課題とか協議事項のぐらいの意味だそうです。どうでも良いですが日本語で良いと思うのですが、とにかくアジェンダです。チョット長いですが引用します。

(1) 第1 回及び第2回会合における議論を踏まえ、ICT分野における報道・表現の自由を守る「砦」に関する検討を行うに当たり、当面、次の項目について議論を深めることとする。

  1. 放送分野における報道・表現の自由を守る取組について
  2. 通信分野における報道・表現の自由を守る取組について
    • インターネットの安心・安全な利用の確保に向けた民間の自主的取組の現状と評価
  3. 行政による対応の現状と課題
    • これまでの行政による対応(法整備、行政指導等)の評価
    • 三者的な監視組織の必要性及び課題(業務内容とその運営の政治的中立性や公正性の担保、立法機関との関係、既存の審議会や政府全体の評価機関等との関係等)
  4. その他ICT分野における権利保障に係る枠組みの現状と課題(訂正放送制度、クロスメディア所有の在り方、記者クラブ制等)
  5. 上記1.〜4.についての諸外国の状況、国際比較
(2) また、上記(1)と並行して、国民の権利保障の観点から、次のとおり、「情報に対する地域や市民のアクセス機会の拡大等を通じて、ヒューマンバリューを向上させる方策」に関する議論を深めることとする。
  1. これまで情報の受け手だった国民が自ら発信する側となるための仕組み(いわゆるパブリック・アクセス)
  2. 諸外国及び国内(地域)の状況(国内外の先進的な取組事例(ネット・ラジオの同時配信等)等)

こういうアジェンダに整理されて第3回会議は「関係者のヒアリング」が行われています。ヒアリングされた関係者は、

第3回は議事録がまだ公表されていないのですが、一悶着あったようです。その様子をこの会議の構成員である上杉隆氏が実況レポートされています。先に断っておきますが、上杉隆氏と言っても「どこかで名前を聞いた事がある」程度しか私は存じませんので御了解宜しくお願いします。

上杉氏がレポートした一悶着はアジェンダの中の

これに関するもののようです。

問題は、日本新聞協会の説明の冒頭に発生した。大久保好男新聞協会メディア開発委員会委員長(読売)の発言直前、突如、浜田純一座長がメモを読み上げたのだ。

新聞協会のヒアリングは議事次第からするとヒアリングの最後であったと考えられます。浜田座長がどんなメモを読み上げたかですが、

日本新聞協会からのメモを代読します。今回のヒアリングにおいて、個別の記者クラブ・記者会見について当新聞協会はコメントしない。記者クラブ・記者会見等についての質疑応答は一切受け付けない。このフォーラムで記者クラブ問題について議論するのは違和感を持たざるを得ない」

後の上杉氏の行動についてはリンク先を御参照下さい。新聞協会が何を言ったかは読んでの通りですが、まず

    今回のヒアリングにおいて、個別の記者クラブ・記者会見について当新聞協会はコメントしない。
ヒアリングの内容について一切取材を拒否すると宣言されています。なるほど、なるほどですが、これからは事件等が起こってもこういうメモを一枚貼っておけば、新聞社の記者会見の質問は一切受け付けなくて良いようです。ここは新聞協会と新聞社は別とする事も可能ですが、この会議の場合、新聞社を代表して発言しているわけですから軽くはないと考えられます。
    このフォーラムで記者クラブ問題について議論するのは違和感を持たざるを得ない。
メジャーマスコミが記者クラブ利権の死守に血眼なのは周知の通りですが、議論する事さえお嫌いのようです。ごく常識的に考えるとアジェンダに掲載された時点で会議で合意(反対はしたんでしょうが)したはずです。新聞協会が記者クラブ制度を守りたいのは立場の問題ですから構いませんが、議論する事さえ嫌だというのはなかなかのものです。

それと新聞協会は記者クラブの正当性について絶対の自信があるはずです。どこでどういう議論がされようとも、記者クラブ制度反対の意見を論破できる理論をお持ちのはずだと考えます。記者クラブ制度についてはメジャーマスコミ以外に疑問を持つものは少なくなく、折角の機会ですから大いに自説を展開して、反論を封じ込めてしまえば良いと外野からは思いますが、議論自体を拒否する姿勢を明らかにされています。

実に楽しい御主張です。その時の様子も上杉氏の実況レポートから引用しておきます。

記者席で取材をしていたフリーランスの畠山理仁記者のツイッターを見てみよう。

〈丸山構成員、羽石構成員から「記者クラブ問題についてはアジェンダから外してほしい」との趣旨の意見。上杉隆構成員「このフォーラムには国民の権利保障等、とついている。記者クラブ問題を入れないというのは、非記者クラブメディア、通信、フリーは国民に入らないということなのか」〉

ちなみにですが、

さすがは論説委員です。



記者クラブ問題についてはガン無視の姿勢を明らかにしている新聞社サイドですが、

これについては議論をする気マンマンのようです。新聞協会の意見書を紹介する前に3/5付J-CASTニュースを紹介しておきます。

 放送局の寡占化を防ぐ「マスメディア集中排除原則」が省令から法律へとランクアップすることになった。政府が閣議決定した放送法改正案のなかに盛り込まれ、通常国会での成立を目指す。

一方、一つの資本が新聞やテレビなどのメディアを独占的に支配することを防止する「クロスメディア所有規制」については、「制度のあり方の検討」が改正案の附則に明記された。原口一博総務相はこちらも法文化する意向だが、新聞業界は猛反発している。

会議が3/1で閣議決定が3/5です。つまり原口総務大臣は会議で新聞協会の意見書を読んだ上で閣議決定を行った事になります。ではでは、新聞協会の意見書です。

クロスメディア所有のあり方に関する意見

社団法人日本新聞協会メディア開発委員会

 クロスメディア所有のあり方に関しましては、わが国にはいわゆるマスメディア集中排除原則と呼ばれるものの中に、新聞・ラジオ・テレビの3事業支配を原則禁止する規定があります。この3事業支配禁止規定について、日本新聞協会はかねてより折りに触れ、これを撤廃するよう求めてきました。

 この規定は、地上放送に関するマスメディア集中排除原則を定めた「放送局の開設の根本的基準」9条の但し書きにあるとおり、「一の者がニュース又は情報の独占的頒布を行うこととなるおそれ」を防止するのが目的であると考えます。

 同原則が制定された1959年当時、数多くの人たちにニュースや情報を伝えるメディアの主役は新聞、雑誌、ラジオ、テレビに限られていました。しかし、その後、ケーブルテレビやBS,CSなどの新たな放送メディアの出現によって多くの視聴者が多チャンネル放送を享受できるようになりました。

 さらに今日では、インターネットの急速な普及と検索エンジンをはじめとする情報通信技術の発達により、パソコンや携帯電話などでも、世界中で大量に流通している多種多様な情報の中から必要な情報を簡便かつ瞬時に取り出すことが可能な時代を迎えています。つまり、一の者によるニュースや情報の独占的頒布のおそれを防止するまでもなく、どの放送対象地域でも、情報入手の手段の多元性、言論の多様性は確保されています。また、地域に密着したフリーペーパーの発行部数はいまや3億部に迫り、コミュニティFM局も200局を超え、コミュニティや生活情報が中心のSNSやブログも急速に拡大しています。

 こうした実情に目を向ければ、3事業支配の禁止規定を撤廃したとしても、情報の「多様性」「多元性」「地域性」が損なわれる状況にないのは明らかであり、これが同規定の撤廃を求める理由です。

 「既存秩序を破壊する技術」とも言われるインターネットの普及、デジタル化とブロードバンド化の進展に伴い、新聞社も放送局も厳しい経営を迫られています。新聞社、放送局が国民の「知る権利」の担い手として、今後も公共的、文化的使命を果たし続けていくには、経営の安定が不可欠です。そのために必要なのは、新聞と放送の間に楔を打ち込むことではなく、さらなる連携の強化を可能とする制度の整備であると考えます。

読むと微笑が絶えないのですが、クロスメディア保有とは

  • 新聞
  • ラジオ
  • テレビ
この3事業を併せ持つ事と解釈すれば良いようです。現実に併せ持っているじゃないかと誰しも疑問に思いますが、現在でも建前上は併せ持つ事は禁止されています。この辺は禁止した法律が見事なザル法であるからとされています。J-CASTニュースが伝えた放送法改正はザル法を厳密運用しようと言う趣旨と考えて良さそうです。

新聞協会は規制強化に反対されております。理由は、

  1. 放送法で規定する3事業以外のメディア(ネット、コミュニティペーパー等)が発達したため、3事業を独占しても情報の「多様性」「多元性」「地域性」は損なわれない
  2. ネットに押されて新聞社も放送局も経営が厳しい
この二つであると読み取れます。新聞協会がここまで言って、4日後にクロスメディア規制強化の閣議決定されるとは世の中動いているものです。



新聞協会(新聞社)サイドのこの会議の対応をもう一度まとめておくと、

  1. 記者クラブ問題


      議論する事さえ拒否。さらにこの問題が会議で議題になっている事も一切メジャーメディアとして報じない方針。


  2. クロスメディア規制


      ザル法で築き上げた既成利権の死守だけではなく、これを正式に認め、さらに規制を無くすように要求。

メジャーマスコミがだ〜い好きな「国民的議論が必要」が一言も出ないのに実に趣があります。記者クラブ問題とクロスメディア規制の関係は、こういう風にリンクしている面があるようにも感じますが、何か半島の北の方の国と交渉しているように思えてしまいます。


さてなんですが、原口総務大臣がわざわざマスコミの大不興を買うような「記者クラブ問題」「クロスメディア規制」をこの時期に打ち出したのには、様々な憶測があります。言う人は政府による新たな情報管制の下準備であるとか、これを取引材料にして与党よりにマスコミ言論を誘導する腹積もりとかです。

そこまでになれば私には何とも言えませんが、一つだけリトマス試験紙があります。原口総務大臣ないし政府がある意味本気のうちは、マスコミサイドからの原口大臣攻撃が激化すると考えられます。それこそ原口大臣の失言らしきもの一つで、鬼の首を取ったように全社一斉に書き立てるのは間違いありません。原口大臣だけで方針が撤回されなければ、政権交代報道に驀進するのも目に見えています。

これがある時期まで攻撃が激しくても、ある時点からピタッとやめば「取引終了」「手打ち」の合図と考えて差し支えないと推測されます。この辺の事情も新聞協会が意見書で述べた通り、ネットメディアが発達していますから、続報は確実に入ってくると期待しています。