新聞データの備忘録

新聞社自体のデータと言うのが摩訶不思議な事に、信用が非常に置き難い公称データである事は説明の必要もないでしょう。ですから新聞社が経営危機と報じられてもどこのデータがどうなっているかを数字で指摘するのが非常に厄介です。裏データを集めるほどの情報収集力も無いので、今日備忘録としたデータもネタモトは公式データの本山である新聞協会のデータです。

公式データから真相を推測しなければならないのが厄介ですが、公式データでもある程度の真実を語る部分があるとは考えますので、今後の参考にまとめておきます。まず新聞の総売上高がまとめられています。新聞社の収入源としては、

  • 販売収入
  • 広告収入
  • その他収入
こういう風に分類されています。どう考えてもこれですべてな訳ですが、ちなみに新聞協会の最新データは2008年度であり、この3者の収入配分は、
    販売収入:57.5%  広告収入:26.4%  その他収入:16.1%
ちなみにデータとして掲載されている最も古い1998年では、
    販売収入:52.0%  広告収入:34.6%  その他収入:13.4%
比率で言うと広告収入が顕著に低下しているのがわかります。収入のうち広告収入は比較的客観的なデータが挙げられています。新聞広告費のデータは電通データであるからです。電通データがどれぐらい信用できるかの問題も出てきますが、新聞社発表のデータよりは信用が置けそうな気がしています。

この広告収入ですが、電通データは新聞広告費となっています。電通は宣伝屋ですから、集計しているのは新聞広告に関る総費用の集計と考えます。この広告費とは別に新聞協会は広告収入を公表しています。これは新聞広告費のうちで新聞社の収入となったものと考えます。発表されたデータをまとめてみると、

年度 広告費 広告収入 広告収入/広告費
1998 11787 8584 0.73
1999 11535 8448 0.73
2000 12474 9012 0.72
2001 12027 9687 0.81
2002 10707 7709 0.72
2003 10500 7544 0.72
2004 10599 7550 0.72
2005 10377 7438 0.72
2006 9986 7082 0.71
2007 9862 6646 0.70
2008 8276 5655 0.68
2009 6739 未発表


2009年度の広告収入が公表されていないのですが推測は可能です。広告費に対する広告収入は2001年を例外として0.70程度です。もう少し細かくみると、1998年時には0.73あったのがジリジリと下がっているとも分析されます。ここは素直に2008年の0.68をあてはめれば、
    6739億円(2009年度広告費)×0.68 = 4583億円(2009年度推定広告収入)
公表データで最高の2001年の9687億円の半分以下の47.3%にまで落ち込んでいるのが推定されます。これをグラフにしてみると、
2001年のピークの後にストンと落ちて、しばらく横這いでしたが、2006年度から加速度をつけて急落している様子がわかります。もう少しわかりやすい様に前年度との増減差をグラフにすると、
こうやってグラフにしてみるとまず2002年度に大きな広告収入の落ち込みがあったのがわかります。2002年といえば日韓共催のワールドカップがあった年なんですが、人間悲しいものでさしての記憶が残っていません。wikipediaも眺めてみたのですが、これほど広告収入が減る理由が思いつきません。誰か覚えておられる方がおられればコメント下さい。



とにもかくにも広告収入が10年足らずで半減してしまったのは公式データで確認できます。ではもう一つの収入の柱である販売収入はどうかです。販売収入は原則として販売部数に比例するはずなんですが、販売部数について信頼できるデータは皆無です。この闇の解明に取り組んだ方々がどれだけの報復を行なわれているかは、その事実さえ主要メディアが報じないぐらい徹底しています。

もう一度念を押しておきますが、今日分析するのはあくまでも公称データです。その点は誤解無い様にお願いします。まず販売部数の新聞協会発表の基礎データなんですが、これが少々厄介な物になっています。とりあえず1998年から2009年度までを表に示します。

年度 総発行部数 セット販売部数 朝刊単独部数 夕刊単独部数 朝刊総部数 夕刊総部数
1998 72409756 18739890 32952880 1977096 51692770 20716986
1999 72218040 18460759 33381465 1915057 51842224 20375816
2000 71896329 18187498 33702727 1818606 51890225 20006104
2001 71694148 18013395 33862600 1804758 51875995 19818153
2002 70815062 17616627 33900896 1680912 51517523 19297539
2003 70339887 17464928 33781260 1628771 51246118 19093699
2004 70363557 17341993 34066442 1613129 51408435 18955122
2005 69679565 17111533 33927821 1528678 51039354 18640211
2006 69099792 16789314 34047660 1473504 50836974 18262818
2007 68437399 16408728 34174558 1445385 50583286 17854113
2008 67206741 15715332 34403818 1372259 50119150 17087591
2009 65079993 14727162 34399779 1225890 49126941 15953052


解説を入れておくと総発行部数とは、セット販売の朝夕刊を2部と計算するそうです。朝刊単独とは朝刊だけを販売した部数であり、朝刊総部数とはセット販売の朝刊と単独販売の合計になります。ここで新聞社の販売部数がどの数字を示しているかですが、どうやら朝刊総部数みたいです。ただし全社が統一されているかと言えばわかりません。

データは11年分あるのですが、11年でどうなったかを示してみます。

年度 総発行部数 セット販売部数 朝刊単独部数 夕刊単独部数 朝刊総部数 夕刊総部数
1998 72409756 18739890 32952880 1977096 51692770 20716986
2009 65079993 14727162 34399779 1225890 49126941 15953052
増減数 -7329763 -4012728 1446899 -751206 -2565829 -4763934
増減率 -10.1% -21.4% 4.4% -38.0% -5.0% -23.0%


朝刊総部数を公称販売部数であると仮定すると、11年間の減少率は5%に過ぎないことになります。斜陽、斜陽といわれながらも公称部数で言えばさほど変わっていないと言えます。ただなんですが、朝夕刊のセット部数は2割以上の減少を示しています。これはどういう事を示唆するかと言えば、朝刊単独部数の増加も合わせて、
    朝夕刊セット購読 → 朝刊単独購入
こういうシフトが確実に起こっていると見れます。これは単純に夕刊総部数に反映され、夕刊単独販売部数も落ち込んではいますが、夕刊総部数はセット販売部数が減少した分だけ綺麗に減少しています。

部数で計算してみるとセット販売部数が401.3万部減少する代わりに、朝刊単独部数が144.7万部増加しています。差し引きすると256.6万部の減少ですが、これはほぼ朝刊総部数の減少に一致します。一致して当然なんですが、とにかく一致します。そうなるとこの256.6万部はセット販売から朝刊単独に移行しなかった部数と考えられます。言い換えるとセット販売減少分の401.3万部は、

  • 朝刊単独に移行したものが144.7万部
  • 新聞購読を取り止めた者が256.6万部
もっともなんですが朝刊総部数は2009年度でも4912.7万部もあり、また販売収入自体も2008年度までしかまだ公表されていませんが、1兆2308億円もありますから、さほどの減少とは言えない筈です。ちなみに1998年の販売収入は1兆2927億円で、2008年度はこれにくらべて619億円しか減少していません。


公称データだけで新聞の現状を分析すると、

  • 販売収入は微減
  • 広告収入は半減
  • その他収入は横這い
こうしか解釈のしようがありません。そうなれば斜陽といわれる新聞業界の改善策は、広告収入の改善が一番と言う結論にはなります。公式データでも広告収入が落ち込んだ分だけ収入が減少したになっています。新聞販売部数は夕刊の販売部数こそ減少しているものの、まだ5000万部近くあります。ネットなんかに手を出さずに広告媒体としての魅力のアピールに務めるのが手堅い戦略に見えてしまいます。

ただ問題は販売部数が額面通りであるかになります。これが完全に闇の中になっています。公称部数と販売収入がほぼ連動しているのは、考えようによっては「そうしないと拙い」はないかと言う事です。販売部数と販売収入はかけ離れた数字を公表できないのは誰でもわかります。そんな事をすれば、販売部数か販売収入のどちらかにウソが混じる事になります。

新聞社の公表データはあくまでも販売収入です。販売経費は発表されません。販売収入は販売部数に購読料を積算したものに原則的にはなりますが、1998年の1兆2927億円と2008年度の1兆2308億円が同じ経費で得られた収入かどうかは謎です。経費が同じなら微減ですが、経費が増大していたら販売収益は大幅減少になります。

おそらくですが販売部数は新聞社が販売店に売った分としては実数に近いと考えられます。販売収入も販売店に売った代金と計算したら公表金額に近いと考えられます。何が言いたいかですが、1998年と2009年度では、新聞社が販売店に売った部数は5%減ぐらいしか変わっていないことをデータを示しているんじゃないかと言う事です。

宅配が主力の日本の新聞の販売経路は、

    新聞社 → 販売店 → 契約者
この順番で販売され、代金はこの逆で回収されます。1998年と2009年度でも「新聞社 → 販売店」の売買は大きく変わりないにしても、「販売店 → 契約者」の売買が大きく減少している可能性があると言う事です。新聞社が公表しているデータは「新聞社 → 販売店」ですから見た目上は変動が少ない可能性です。

そこにどういうカラクリが行なわれているかですが、説明の必要も無いと思いますが、かの有名な「押し紙」です。販売店の実売部数以上を新聞社が販売店に売りつける行為です。押し売りみたいなものですが、かつてはそれなりに新聞社にも販売店にもメリットはあったそうです。新聞社にすれば公称部数の増大で、新聞広告の料金交渉で有利になれたそうです。

売店も折込広告を水増しした部数で受注できるメリットはあり、また押し紙もすべて持ち出しではなく、販売促進費補助金)のキックバックが新聞社からあり、差し引きすればプラスの時代もあったとは聞きます。


新聞を取り巻く状況が厳しいのは言うまでもありません。「新聞離れ」と総称されますが、別に私がここで新聞批判を展開したから起こっているわけではなく、社会現象として起こっています。また日本だけの特殊現象ではなく、先進国のほぼすべてに共通して起こっています。新聞の存在価値は他のメディアと同様にその影響力にあると考えます。

影響力の低下は広告収入の半減に如実に示されています。如実に示されるだけでなく確実に経営を圧迫しています。そうなると影響力を目に見えて示せるものは販売部数になります。これの低下が目に見えて起これば「新聞離れ」はさらに加速するのは誰の目にも明らかです。誰もが読んでいる、また新聞が記事にすれば日本人の誰もが知る情報になると言うのが死守すべき一線になります。

そのためには公称部数の維持が至上命令になります。それだけしか目に見える影響力の価値を証明するものがなくなります。


あくまでも推測ですが販売店の実販売部数は確実に減少しているはずです。販売店の実販売部数の減少をカバーするには、実販売部数の減少分だけ押し紙を増やして補うしかありません。新聞社にも余力はなくなっていますから、かつてのような win-win の関係など望むべくも無く、新聞社の収益確保のために、新聞社が押し紙により販売店から利益を吸い上げる収奪型に速やかに変化したとされます。

こうすれば新聞社は公称部数を維持できますし、販売店から利益も吸い上げられますから、現状の課題は糊塗できます。ただしどう見ても「タコが自分の足を食う」の世界ですから、あくまでも緊急避難的な対策であるべきはずです。しかし広告収入の減少にはまるで歯止めがかからず、実販売部数の凋落も止め処も無いのが実情と推測されます。

この10年間の販売部数の推移は、押し紙による公称販売部数維持のための壮大な消耗戦と見ます。それだけの消耗戦を展開したにも関らず、公称部数はジリ貧です。つまり公称部数の減少は、押し紙戦術を目一杯駆使しても補えない綻びと解釈するのが妥当と考えられます。総発行部数の対前年度減少数をグラフにしておきますが、

総発行部数は2009年度でも6500万部あるので、200万部の減少なんて誤差のうちみたいにも思えますが、数字としては単なる200万部ではなく、公称部数維持のための消耗戦の果ての200万部と見ます。また減少部数も2007年度からほぼ倍々ゲームで膨らんでいるのも薄気味悪いところです。


押し紙率については謎が余りにも多いので推測ばかりになりますが、公称部数は上述した通り「微減」です。新聞広告が減少したのは事実で、そのためだけかは不明ですが新聞社の経営はどこも苦しくなっています。新聞広告が減少した理由付けも様々に為されてはいますが、単純には「新聞広告のコストパフォーマンスが悪い」ではないかとされています。

理由としてはなんとなく納得するのですが、公称部数の減少に較べて広告費の減少は大きすぎるんじゃないかの疑問が出てきます。理由としてコストパフォーマンスが悪いは正しいとして、スポンサーサイドとして公称部数の割にはコストパフォーマンスが悪すぎるが本当の理由の様な気がしています。

スポンサーサイドの判断は投下した広告費に対する広告効果で行なわれていると見ますが、新聞協会データで推測できそうなデータはないかと考えます。これも新聞協会のデータですが、一世帯あたりの部数と言うデータがまとめられています。このデータの発行部数は朝刊単独部数とセット部数(これを1部と計算したもの)を足したもので行なわれています。

公称データでは、1999年に1.15部であったものが2009年には0.95部に減少しています。減少率としては17.4%になります。1999年から2009年の間に押し紙率がどう推移したかのデータなんてありませんから、2009年のデータからシミュレートしてみます。

公称部数 押し紙 実販売部数 世帯数 1世帯あたり部数
5035万2831 0% 5035万2831 5287万7802 0.95
同上 10% 4531万7547 同上 0.86
同上 20% 4028万2264 同上 0.76
同上 30% 3524万6981 同上 0.67
同上 40% 3021万1698 同上 0.57
同上 50% 2517万6415 同上 0.48


1999年の押し紙率ももちろん不明ですが、1世帯あたりの公称部数が1.15ですから、実販売部数での数字を仮に1.00と考えます。ここ10年で押し紙率は増えたと推測されます。2009年の広告収入は1999年の54.2%ですから、1世帯あたりの販売部数が広告収入に連動していると仮定すれば、押し紙率は40%前後ではないかと言う仮説は立てられます。

1世帯あたりの部数と広告収入が連動する根拠はありませんし、証明しようもありません。ただ新聞広告の特徴はS/N比は悪くとも広く薄くが特徴です。広さが落ちれば広告効果は必然的に落ちますし、スポンサーサイドの実感もまた低下するとは考えられます。2010年度のデータがどうなるのか、果たして公開されるのかも興味深いところです。


これぐらいデータを備忘録としてまとめておけば、また後日に使えると思っています。お付き合い頂いてありがとうございました。