流れかな?

今日もまたインフルエンザでごめんなさい。少しだけ流れを振り返ると、まず9/7付CBニュース(Yahoo !版)にある正林督章・新型インフルエンザ対策推進室長の、

正林室長は、「今回のインフルエンザの場合、発症2、3日目でも(簡易検査で)陽性にならない場合がある」とした上で、「(検査結果が陰性でも)状況から考えて新型インフルエンザの可能性が高い場合、個々の先生の判断で新型インフルエンザとして診療することもあると思う。その状況によって対応が全く異なるため、何らかの基準をつくるのは非常に難しい」との考えを示した。

正林室長は検査キットの偽陰性リスクに対し、臨床判断によるインフルエンザ治療薬投与について言及しています。続いて9/15付日本感染症学会の緊急提言では、

  • 可能な限り全例に対する発病早期からの抗インフルエンザ薬による治療開始が最も重要
  • S-OIV感染が少しでも疑われたら可能な限り早期から抗インフルエンザ薬を投与
  • 抗菌薬と共に抗インフルエンザ薬の投与される確率が極めて高いわが国では、若年者ではウイルス性肺炎の重症化も細菌性肺炎の重症化もいずれも発現が少ないと思われます

インフルエンザ治療薬の積極的投与の提言と抗菌剤使用の有効性について言及しています。さらに9/18付読売新聞には、

新型インフルエンザに感染して死亡した横浜市の小学6年の男子児童(12)がタミフルなどの治療薬を投与されていなかったことを受け、厚生労働省は18日、感染の疑いがある患者については、感染が確定していなくても医師の判断でタミフル等の治療薬を投与できることを改めて周知する通知を都道府県などに出した。

今までも「感染の疑いのある患者」には臨床判断によりインフルエンザ治療薬は投与していますが、これをさらに推進する厚労省通知が出されたようです。今朝の時点で厚労省通知が残念ながら見つからなかったのですが、9/18付で平成21年度厚生労働科学特別研究「秋以降の新型インフルエンザ流行における医療体制・抗インフルエンザウイルス薬の効果などに関する研究」厚労省HPに掲載されています。そこには、

参考6 新型インフルエンザ診療ガイドライン (第1版)(日本感染症学会)

前にエントリーで取り上げたの緊急提言ですが、第1版も内容的には大差はなく、

Oseltamivirの投与の有無、あるいは開始の時期が、新型インフルエンザでのウイルス肺炎の合併に関係していると考えられる。またWHO治療ガイドライン上で、oseltamivirの投与により、肺炎のリスクが有意に減少し、入院の必要性が減ると述べられている。今回の新型インフルエンザの流行に際して、ノイラミニダーゼ阻害薬の役割は、季節性インフルエンザで周知されている発熱期間の短縮ではなく、重症化や死亡を防止することにある。

重症化防止の観点でインフルエンザ治療薬位置付けており、この観点の上で

日本で確立している迅速診断を実施し、早期にノイラミニダーゼ阻害薬で治療するというインフルエンザ診療を徹底して実施することが目指すべき新型インフルエンザ対策となる。健康成人、小児の重症化が問題となっているので、ハイリスク患者のみならず、すべての新型インフルエンザ患者に対して、ノイラミニダーゼ阻害薬の治療が必要である。

緊急提言ではこれがさらに徹底したものになったのは先日解説した通りです。こういう治療方針の時に議論になるのが耐性問題ですが、これについては、

Oseltamivir耐性の新型インフルエンザも少数ながら報告されている17)。OseltamivirでA型インフルエンザ患者を治療すると、治療開始後数日で、小児では5〜10%程度に、成人では1%以下に耐性ウイルスが出現する。しかしながら、出現した耐性ウイルスは、周囲に感染を起こすことはなく、2〜3 日で上気道から消滅する。また、耐性ウイルスが出現した患者の症状が重症化することはない。したがって、新型インフルエンザによる重症化のリスクを考えれば、oseltamivir治療の必要性の方が遙かに重要である。耐性ウイルスのサーベイランスは必要であるが、耐性の問題は、積極的なoseltamivirの投与を妨げるものではない。なお、昨シーズンに耐性のソ連かぜウイルスが世界的に流行した原因は、oseltamivirの治療により出現したものとは考えられず、自然変異により出現したもの、自然耐性(natural resistance)と考えられている。

簡単に言えば、耐性リスクより重症化リスクの方が現在は優先して考えるべきとしています。個人的に注目している抗菌剤投与ですが、

インフルエンザ罹患後には、持続的な発熱による脱水に基づく予備能の低下や、免疫能の変化などから、時に二次性の細菌性感染症の合併がみられる。実際に従来のパンデミックインフルエンザでは、死亡例の多くが細菌性感染症によると言われている。季節性インフルエンザ罹患後における細菌性感染症の原因菌としては、肺炎球菌、インフルエンザ菌黄色ブドウ球菌、モラクセラ・カタラーリスなどがみられ、新型インフルエンザ罹患後における肺炎球菌感染症もみられるとされる。日本感染症学会や日本呼吸器学会などの肺炎に関するガイドラインを参考に、適切な抗菌化学療法を行うことが重要であると考えられる。

緊急提言と同様にセット投与を行なえとまでは明記していませんが、抗菌剤投与の重要性をかなり強調していると感じさせる文章です。これも治療方針を考えるときに苦慮しそうなところです。



どうもなんですが、感染症学会の治療方針は厚労省も賛同している様に感じられます。現場的に重要なのは2点で、

  1. 感染症学会の治療方針で査定はどうなるか
  2. 感染症学会の治療指針に反してインフルエンザ治療薬の投与に慎重であった場合の結果責任がどうなるか
どちらも切実な問題であるのですが、9/18に出された厚労省通知の内容が気になるところです。おそらくですが、内容的にはそんなに踏み込んでいないような気がします。つまりはあくまでも「医師の判断」の比重を強くした表現であると推測します。しかし報道発表時点でマスコミに口頭で伝えるニュアンスとしては、「積極的投与」すなわち漏れなく投与の意味合いを強くしている気もします。

ところでなんですが、今朝の時点で追跡しきれなかったのですが、現時点の10代へのタミフル投与はどうなっているのでしょうか。確か新型なら投与を認める方針が出たとは記憶していますが、現在のサーベイランス体制では新型か季節性の鑑別は不可能です。不可能と言う前提で新型疑いだけで投与は可能なんでしょうか、それとも新たな通知、連絡等があったのでしょうか。

感染症学会はリレンザよりタミフルを強く推奨しているようなので、ここもインフルエンザ治療薬の選択に係る部分になります。情報をお持ちの方は宜しくお願いします。