新型インフルエンザ感染者の急増による医療機関の混乱を防ごうと、厚生労働省は「再診に限り、電話による診察のみで抗ウイルス薬の処方を認める」との新対策を、先月まで2度にわたって都道府県に伝えた。しかし、現場に行き届いていないことが20日までの同省の調査で判明、あらためて周知徹底を図る。
対象となる患者は、慢性疾患があり定期的にかかりつけ医の診断を受けている人と、過去に発熱などの症状があり、同じ医師の診察を受けたことがある人。いずれも医師が薬の投与に問題がないと判断することが条件。
処方せんは患者が希望する薬局に医師からファクスなどで送られる。患者には外出自粛を求め、家族らがタミフルなどの薬を受け取る。患者本人は医療機関に足を運ぶ必要がなくなる。
医師法20条は、医師が薬剤を処方する際、原則として患者に直接会って診察しなければならないと定めているが、厚労省は「過去に直接診察を受けた患者に限っての措置なので、この規定には該当しない」と判断。5月と8月にそれぞれ、この方式を認める通知を都道府県に出した。
うちの診療所ではあんまり関係のない話だったので失念していましたが、電話だけでタミフル処方は可能の話はあったと記憶しています。その後も新型対策の通知や通達はワンサカありましたからスッカリ忘れていました。忘れていた上に新型対策は前に出した対策に上書きするような方式を取っており、ある時点で出された対策もよほど注意しないと、その後に上書き変更されている可能性が常にあります。
電話で処方の話もどうなっていたかと思いましたが、共同記事を読む限り今でも健在である事が確認できます。
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5月と8月にそれぞれ、この方式を認める通知を都道府県に出した
国内において新型インフルエンザ感染者が増加していることを踏まえ、感染者が増加している地域においては、感染拡大を防止する観点から、慢性疾患等を有する定期受診患者等が発熱等の症状を認める場合に、電話による診療によりファクシミリ等による抗インフルエンザウイルス薬等の処方せんを発行すること等の対応が必要なことから、その取扱いに関する留意点を別添にまとめたので、貴管下の医療機関、薬局等に周知していただくようお願いします。
とりあえず
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感染者が増加している地域においては
日本の状況
第二段階(国内発生早期)
こうなっているのと矛盾するような気はしますが、この話はまえにやったのでこの程度にしておきます。具体的にどういう状況ならファクシミリによる処方箋が発行できるかですが、
(ア)慢性疾患等を有する定期受診患者の場合
(イ)発熱外来等への受診歴がある患者の場合
- 新型インフルエンザに罹患していると考えられる場合
事前にかかりつけの医師が了承し、その旨をカルテ等に記載しておくことで、発熱等の症状を認めた際に、電話による診療により新型インフルエンザへの感染の有無について診断できた場合には、診察した医師はファクシミリ等により抗インフルエンザウイルス薬等の処方せんを患者が希望する薬局に送付し、薬局はその処方せんを応需する。
- 慢性疾患等に対する医薬品が必要な場合
感染源と接する機会を少なくするため、一般的に長期投与によって、なるべく受診間隔を空けるように努めることが原則であるが、急速に患者数が増大している地域において医薬品が必要になった場合には、電話による診療により当該疾患について診断ができた場合、診察した医師はファクシミリ等による当該疾患に係る医薬品の処方せんを患者が希望する薬局に送付し、薬局はその処方せんを応需する。
インフルエンザ様症状があり自宅で療養する患者について、電話による診療にてインフルエンザと診断した場合には、診察した医師はファクシミリ等により抗インフルエンザウイルス薬等の処方せんを患者が希望する薬局に送付し、薬局はその処方せんを応需する。
読めばわかるように2つの状況においてFax処方が認められています。慢性疾患で定期followされている場合には、
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電話による診療により新型インフルエンザへの感染の有無について診断できた場合
5月時点と現在の相違点は「発熱外来等への受診歴がある患者の場合」への対応です。ちゃんと「等」となっていますから、発熱外来でなくとも良いとは解釈できますが、現在は5月時点と違い「発熱外来」が事実上機能していません。少なくとも新型が疑われたら根こそぎ発熱の外来のシステムはなくなっています。そうなれば「発熱外来等への受診歴がある患者」とは現在の情勢に読み替えれば「発熱にてどこかの医療機関に受診歴がある患者」になります。ただ記事にある
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過去に発熱などの症状があり、同じ医師の診察を受けたことがある人
もっともそうしなければ、電話でまったくの初診患者から「他の医療機関で発熱で受診したが、やっぱりインフルエンザと思うからタミフルくれ」と言われたときに苦慮する事になります。
記事を読みながら思ったのはやっぱり不親切です。慢性患者に対しては今でも事務連絡が生き残っているのはわかりますが、そうでない普通の人間に対しての対応は、発熱外来システムがなくなった現時点でどう運用されているか解釈の難しいところがあります。短期間で運用や解釈の追加通知が上書きされる世界ですから、5月の事務連絡を読んだだけでは、現時点でどうすれば良いのか解釈に悩みます。
ただ共同記事を読んで確認できる事があります。まず医師、とくに開業医なら非常に気になる査定の問題に係ることです。インフルエンザによるタミフル処方は原則として簡易検査を行った患者でなければならないの不文律です。共同記事が正しいと前提してですが、次のようなケースであればタミフルのFax処方が可能になります。
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前日に風邪症状で受診し、夜になりインフルエンザ様の症状が発現した時
つぎに実際の問題として嫌な点はあります。うちではFax処方を行った事がないのでわからないのですが、保険上の扱いはやはり電話再診になるのでしょうか。電話再診でも時間外加算等は認められますが、外来管理加算は認められません。外来管理加算の算定はまだ良いとして、診察時間内に電話再診を求められた場合には皆様どう対応されているのでしょうか。
そのたびに取り次げば、外来に幾ら患者が溢れていても飛び越えての対応になります。うちのようなツブクリでも少々の待ち時間が生じている状態で、電話再診の順番越えはどうかと思います。やはり外来の順番待ちに並べて、順番が来たら電話をかけられるのでしょうか。そうしないと外来で待たれている患者に対して不公平のようにも感じます。
さてと解説で寄り道をしているうちに話が飛んでしまいしたが、厚労省がFax処方の事をマスコミに強調したことにより、推測できる事が出てきます。Fax処方を強調するという事は、インフルエンザ様患者に対してのかなり幅広いタミフル投与を認めていると考えられます。タミフル投与に慎重な態度であればFax処方などは認められないからです。
タミフルの絨毯爆撃のような投与については今でも慎重論が医師の間に根強くあります。それでもFax処方を広く推進するならタミフル投与の制限を大幅に緩めなければなりません。緩めるにあたって理論的根拠が必要になります。やはり感染症の専門家がそういう方針を容認している方がやりやすいです。
学会の治療方針は医師の間である程度の権威がありますが、学会が治療方針を決めたからと言って、必ずしも厚労省はその方針に従う事はありません。厚労省は自らの都合が良い時は学会の方針を採用しますが、都合の悪いときには無視します。学会と厚労省の関係はそんなものです。学会推奨の治療方針であっても、保険報酬上は大きな査定を食らう事は珍しくもないという事です。
厚生労働省は18日、感染の疑いがある患者については、感染が確定していなくても医師の判断でタミフル等の治療薬を投与できることを改めて周知する通知を都道府県などに出した。
肝心の9/18通知の内容が現在も不明なんですが、医師の臨床判断でタミフル投与は可能としているのは間違いありません。医師の臨床判断は実際に診察した上だけではなく再診と言う条件さえあれば、電話で診察してFax処方も可能とのマスコミ発表を重ねて行なっています。そういう方針の根拠として日本感染症学会の緊急提言にある、
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S-OIV感染が少しでも疑われたら可能な限り早期から抗インフルエンザ薬を投与
新型対策の特徴は、従来の感染症治療と異なり、最初から国が診断治療方針に大きく関与しています。大きくどころか箸の上げ下ろしまで関与していると言っても良いかと思います。SARSの時にもそうだったかもしれませんが、あの時は事実上国内上陸は皆無でしたから、私が知る限り初めての大規模介入です。
そういう状況下では医師個人の意見や異論は通用しなくなります。通用しないとは厚労省の治療方針に反し、結果として不良であれば厳しい責任追及が待っていると言う事です。厚労省の治療方針に従っても安全とは言えませんが、従わなければ論外と言えばよいのでしょうか。連休明けの動きに注目したいのですが、長妻大臣が新型対策にどれぐらい関心があるのかもわかるかもしれません。