6月18日の感染地日記

6/16 19:24着信の神戸市医師会新型インフルエンザ対策本部よりの新型インフルエンザ関連情報(第26報)からです。

■神戸市長より感謝状とお礼のメッセージ

 6月14日(日)午前10時、矢田立郎市長以下、谷口保健福祉局健康部長、川瀬地域保健課長、白井予防衛生課長が神戸市医師会を訪問された。川島会長をはじめ神戸市医師会三役及び中神が応対し、市長より感謝状が手渡された。これまでの医師会の協力に対する御礼を述べられるとともに、5月19日の「まん延期直前」宣言を受けて、医療機関にお願いしてきた「まん延期に準じた診療体制」を解き、「弱毒性インフルエンザの小康期に準じた診療体制」に移行し、予想される第2は以降に備えていただくようにとのメッセージをいただいた。その後約30分懇談し、市長から32億の補正予算の中から、できる限り新型インフルエンザ対策(特に資器材の調達)に向けたいとの意向が示された。川島会長からも今後に備えて発熱外来用のテント等の調達・準備を受諾された。

■小康期に準じた診療体制について

 WHOからフェーズ6の宣言が出されたものの、神戸市においては流行も集団発生もなくなり散発的になってきた状況を踏まえ、市長のメッセージや下記の状況勘案し、「まん延期に準じた診療体制」(新型インフルエンザを心配する市民は全て発熱相談センターに連絡すること、医療機関受診に際して事前連絡すること、サージカルマスクの着用、時間的・空間的区分)は解除することにします。

 一般医療機関はもとより協力病院でも駐車場にテントやバスを利用した発熱外来の設置や入口での患者動線の区分、時間帯の区分、診療体制の強化など様々な努力をお願いしてきましたが、いつまでもこの体制を継続することは各位に対して極度の負担と緊張を今後も長期間にわたり強いることになりますし、また一般の慢性患者さんの受診抑制を回復する意味からも、これまでの診療体制を一旦解いて、各医療機関においてPPEや迅速検査キットの備蓄、抗インフルエンザ薬への対応等、第2派以降へ備えるべく体制を整えていただきたい趣旨であることをご理解ください。

  • 今後は流行状況に応じて迅速かつ機動的に拡大できるような体制にすることを前提として、発熱相談センターは継続設置するものの縮小し、また発熱外来は市民病院群に集約します。
  • 新型インフルエンザを強く心配する市民が発熱相談センターに連絡するの妨げるものではないが、医療機関の窓口で一律に全て発熱相談センターに回すという流れは解消します。
  • 現在のポスターは破棄していただき、現状にあったポスターを新たに作成中ですので、届き次第お貼りください。
 ただし、この度の教訓を生かし発熱や呼吸器症状を有するインフルエンザ様患者や感染症が疑われる患者等に対しては、咳エチケットの徹底や事前連絡のルール、動線の区分、隔離室の確保等の対応は各医療機関の事情に応じて、また各位の判断により今後も継続していただくことが望まれます。

PCR検査、希望する全医療機関で可能に

 神戸市行政との調整がつき、近日中に希望されていた全医療機関で可能になります。詳細は追ってご案内します。

現状は6月始めには既にそうなっていますから、そのまま追認され文書化されたというところでしょうか。このFaxが届いたのは6/16ですが、

    弱毒性インフルエンザの小康期に準じた診療体制
これに関しては厚労省とも折衝はなされているようです。6/17付共同通信(47NEWS版)には、

軽症は全地域で原則、自宅療養へ 新型インフル厚労省

 新型インフルエンザをめぐる国内対応の見直し案づくりを進めている厚生労働省は16日、軽症の感染者については全地域で原則、自宅療養とし、入院措置をとらない方針を固めた。感染の広がり度合いに応じた現行の地域分類を廃止し、重症患者やぜんそくなど重症化につながる疾患を持つ人への感染防止対策にシフトする。専門家の意見を聞いた上で、週内にも正式決定する。

 現行の国内対応は、地域を(1)感染者発生が少数(2)急速に患者数が増加−に2分類。(2)の地域では軽症者のみ自宅療養としているが、(1)の地域では症状にかかわらず入院措置をとるよう都道府県に求めている。

 見直し案ではこうした地域分類をやめるとともに、軽症患者は原則、自宅療養に切り替える。入院措置はとらず、感染拡大の恐れがある場合に入院させることが可能とするほか、重症化につながる基礎疾患のある患者は初期症状が軽症でも入院を考慮するよう促すとしている。

 また発熱症状がある人の治療について、現行は(1)の地域では発熱外来を設置する医療機関に限定しているが、見直し案では「原則としてすべての一般医療機関で診療を行う」とし、感染者の待合場所や診察時間を一般の患者と分けるよう促す。

 このほか、想定される重症患者の発生数に応じた病床を確保するよう都道府県に求めることも検討しているが、正確な予測が可能かどうかが課題となりそうだ。

神戸と記事情報による厚労省案の簡単な対照表を作ってみると、

項目 神戸 厚生省案
発熱患者の受診 そのまま一般医療機関 たぶん発熱相談センターを通して一般医療機関
外来対応 指示としての患者区分は中止 患者区分を行なう
新型発見時 軽症ならそのまま自宅療養 軽症ならそのまま自宅療養
入院適応 必要に応じて感染症病床に 必要に応じて感染症病床に


あくまでも記事情報ですし、神戸が先行しているので最終的には神戸と同じになるかもしれませんが、現段階の情報では厚労省案は神戸の一つ前の段階を想定しているようです。それと入院時には感染症病床を用いるとしたのは「おそらく」です。記事中の病床確保の意味するところは他に考えようが無いからです。神戸でもそうなっているはずだと思います。

こういう路線を批判しようとも思いませんし、神戸では指示以前の現状として先にそうなっています。患者区分ひとつにしても、医療機関の設備の構造の問題から空間的分離が出来るところは限られ、患者の理解から時間的分離もままならないのが現実です。一部の医療機関で5月は努力したところはあると聞きますが、6月になっても続けているところは聞く限りはなかった(問屋筋の情報)そうです。


問題は確実に訪れる第2波の時です。いろいろとまた問題は出るでしょうが、とりあえず困りそうな問題が思い浮かびます。FluA(+)であっても軽症ならそのまま自宅療法になるのですが、受診時に軽症が治癒するまで軽症とは限りません。治療経過中に入院が必要になる事も当然起こり得ます。

その時にどこに患者を紹介入院させるかの問題が生じます。このあたりの現在の運用がわからないのですが、感染症病床は新型が適用であって、季節性であれば適用にならないかと考えます。外来受診時に全例PCR検査で鑑別できていれば良いのですが、そうは現実的は進みません。今の季節であれば全例検査も不可能ではないかもしれませんが、秋から冬の季節性流行期を迎えると物理的に不可能でしょう。

新型を誤って一般病床に入院させ、院内感染でも蔓延させたり、さらにはそれによる死亡でも起これば、さすがに大騒ぎが起こる可能性があります。中継車にヘリまで出るかはわかりませんが、それなりの大騒ぎが予測されます。神戸でも5月にFluA(-)の発熱患者の入院依頼をしたところ、いつもは快く引き受けてくれる病院(協力病院でない)に非常に渋られました。たぶん「間違って入院させたくない」からだと考えています。

そうなるとFluA(+)のみで入院が必要になった患者のルートとして、

  1. 発熱外来を受診
  2. PCR検査により新型なら感染症病床に入院
  3. 季節性なら・・・
季節性であったときに、どうなるかです。考えられるのは、
  1. 発熱外来を設置している医療機関が、自院入院ないし他の医療機関に紹介入院させる
  2. 発熱外来は季節性と診断時点で役目を終え、患者はかかりつけ医に差し戻される
常識的にはa.でしょうし、時刻によってはb.にするにも時間帯によっては現実には難しい事があるからです。ただしこの辺は新型の病原性の変化によって変わる部分が小さくないですから、その時になってみないと「わからない」としか言い様がないことです。新型の鑑別に発熱外来が忙殺されれば、他の病気まで一緒に治療を考える余裕が失われるという事です。

実際に発熱外来を受診した患者に聞いてみると、発熱外来は新型かどうかの鑑別に専念し、新型でなければ結果判明後に改めて普通の救急外来を受診するスタイルであったそうです。それでも普通の救急に回るからなんとかなりそうですが、これも現実問題として入院依頼の病院をどこに向けてお願いするかになります。すべて発熱外来を有する医療機関で入院加療できれば良いのですが、そこからさらに他の医療機関の病床を探すと言う手間が生じます。

すべては数の問題に帰着し、少なければさして問題なく処理されるでしょうが、多くなれば発熱外来の負担が増してパンクしかねません。第2波は5月の第1波に較べても期間は確実に長いですから、どうなるかを密かに心配しています。

こういう事も第2波までに考えてくれていると嬉しいのですが、やはり新型の入院は別格扱いが付いて回る限り、ある程度は出てくる問題です。それと神戸での実績では発見された初期の新型患者の半数程度がFluA(-)だったとされますから、これを教訓として生かすとなれば、FluA(+)の発熱患者だけではなく、FluA(-)の発熱患者であっても同様の事が求められる可能性が出てきます。

個人開業医レベルで気をもんでも、今の時点でどうしようもないのですが、第2波の秋の陣・冬の陣には、できれば神戸が被害担当艦にならない事を祈ります。春の陣ではあれだけ被害を担当したのですから、そろそろどこかに持ち回りして欲しいと思う小心者でした。