昼の日記

5/19 13:23着信、神戸市医師会新型インフルエンザ対策本部よりの「新型インフルエンザ関連情報(第13報)」です。

  • 新型インフルエンザ対策本部緊急全体会議報告(5月17日(日)PM8:00〜)


       感染拡大が急速に拡がっており、第3段階「感染まん延期」直前、もしくはすでに突入しているいうのが共通の認識。そうなれば一般医療機関でもガイドラインに従い、対応可能なすべての医療機関で診療することになる。いつ宣言が出されるかが喫緊の関心事であり、十分な事前の備えがなければ市民も一般医療機関、薬局も大混乱になることは明らか。

       そこでどのような要件が整えば「まん延期」の宣言が出されても対応できるかという点を中心に非常に熱い議論が11時30分まで交わされた。


  • 上記で討議された留意項目について神戸市行政からの正式回答(5月18日 夜)


    1. Q:「まん延期」宣言された後、以前より最大の懸念材料だったタミフル等抗インフルエンザ薬の迅速・円滑な流通は保証できるのか?

      A:タミフルの流通(土日等の急配もふまえた各機関への対応について)

       5月18日午前、兵庫県疾病対策室稲田主幹に対し、早急にタミフルの流通状況の確認を要請。そして「まん延期」医療体制をとる場合は、薬問屋が十分にタミフルを供給できるよう、必要に応じて備蓄分を事前に放出して欲しい旨を依頼し、了解を得た。


    2. Q:発熱相談センターにおいて医療機関を相談する際に、受診される場合は、必ず受診予定の医療機関に対して電話連絡していただきたい。

      A:徹底いたします。また受診する際には必ず、事前に本人から当該医療機関に電話連絡するように広報します。方法としてはホームページ、メディアへの資料提供などを実施する。その他、様々な情報をできるだけ多くのメディアを通じて提供する。


    3. Q:発熱相談センターになかなかつながらない。機能拡充の努力が足りないのでは?

      A:国内発生時点で24時間対応にするとともに増設(3 → 7回線)した電話回線を、5月18日15時さらに増設(7 → 10回線)した。


    4. Q:協力病院の発熱外来が十分機能していないのでは? 機能拡充をお願いしたい。

      A:5月18日現在、協力病院7病院のうち6病院において発熱外来が設置されている。残る1病院についても5月19日朝から開始される。(5月16日午前中に開設依頼を行い、5月18日に設置状況確認済み)


    5. Q:診療の参考に資するため個々の新型インフルエンザ症例に関するさらに詳細な情報を随時提供していただきたい。

      A:別途送付するようにいたします。


    6. Q:医療スタッフの感染防護策の指針を示していただければ?

      A:「まん延期」においては、医療機関のスタッフがサージカルマスクを着用するなど適切な防護策をとってください。

何が要となって議論されているか理解しにくい方もおられるでしょうから、解説を加えると、H.19.3.26付に作られた新型インフルエンザ専門家会議の医療体制に関するガイドラインが背景となっています。現在の公式体制は第二段階ですが、これが間もなく第三段階に移行するとの前提での議論です。まず第三段階の定義ですが、

第三段階:新型インフルエンザ患者が増加し、入院勧告措置が解除され、当該都道府県内の全ての入院医療機関において新型インフルエンザに使用可能な病床を動員して対応する段階

もう少し具体的には、

 都道府県等は、疫学調査により患者の感染経路が追跡できなくなり、入院勧告による感染拡大防止及び抑制する効果が得られなくなった場合、又は感染症指定医療機関等が満床となった場合、新型インフルエンザに使用可能な病床を勘案しながら、国と協議した上で感染症法第19条に基づく新型インフルエンザ患者の入院勧告を中止する。

 第三段階では、全ての入院医療機関において新型インフルエンザ患者が発生、又は受診する可能性があり、こうした医療機関は各々の診療体制に応じて新型インフルエンザ診療を担う。

現時点では少なくとも「感染症指定医療機関等が満床となった場合」には該当し、現場では措置入院を中止しています。実質的には既に第三段階と言っても良いとおもいます。議論であがっている発熱外来は第三段階においてどう機能するかも定められており、

発熱外来の対応

  • 発熱外来においては、新型インフルエンザ患者とそれ以外の患者を振り分け、感染拡大を防止するとともに、患者の症状の程度から入院治療の必要性を判断する(入院勧告の措置は解除されるので、医学的に入院が必要と判断される重症者のみが入院の対象となる)。
  • 発熱外来においては、患者に入院治療の必要性を認めなければ、必要に応じて投薬を行い、極力自宅での療養を勧める。
  • 発熱外来においては、患者に重度の肺炎や呼吸機能の低下を認める等、入院治療の必要性を認めた場合、保健所等の協力を得ながら、医療機関への入院を調整する。
  • 上記の目的のための発熱外来の形態は、先述のとおり各都道府県等がその特性に合わせ決めてよい。

第二段階の機能と似ていますが、第二段階においては根こそぎ措置入院であったものが、症状に応じて入院の適否を振り分ける様に変わります。このまま読めば一般医療機関の仕事はこれまでと変わらないようにも思えるのですが、

医療機関の対応

  • 感染症指定医療機関等以外において、新型インフルエンザ患者が発生、又は受診した医療機関は、協力医療機関として都道府県等に届出を行う。
  • 医療機関新型インフルエンザ治療の病床確保のため、すでに入院中の新型インフルエンザ及びその他の患者について、自宅での治療が可能な患者であれば、病状を説明した上で退院を促し、自宅での療養を勧める。
  • 医療機関は、空いた病床を用いて、重度の肺炎や呼吸機能の低下等を認め、入院治療を必要とする新型インフルエンザ患者の入院を受け入れる。
  • 新型インフルエンザ患者の入院については、一時的に新型インフルエンザ患者専用の病棟を設定する等して、新型インフルエンザ患者と一般患者とを物理的に離し、感染対策に十分配慮する。なお、この段階では、新型インフルエンザの確定検査を全症例に実施することはできないと考えられるので、患者の重篤度で分類して部屋を分けるなどの現場での工夫が必要である。
  • 医療機関は、待機的入院、待機的手術を控える。患者には緊急以外の外来受診は避けるよう啓発する。
  • インフルエンザ以外の医療も可能な限り維持できるよう、各医療機関は診療体制を工夫する。特に小児医療サービスの維持に努める。
  • 病診連携、病病連携は、地域の自助・互助のために重要である(都道府県等は地域の自助・互助を支援するため、平時より新型インフルエンザを想定した病診連携、病病連携の構築を推進することが望ましい)。

今の現場との差を考えて見ます。まず、

感染症指定医療機関等以外において、新型インフルエンザ患者が発生、又は受診した医療機関

これは現在の神戸では死文かと考えます。第12報にもあったように一般医療機関からの検体受付はしないとしていますから、一般医療機関が出来うるのは簡易キットでFluA(+)を確認する段階に留まります。現在のインフルエンザを症状だけで臨床診断するのは不可能です。ただですが、

なお、この段階では、新型インフルエンザの確定検査を全症例に実施することはできないと考えられるので

こういう文章もあります。そうなれば新型でも季節性でも治療方法は変わらないので、私のような開業医でもFluA(+)の診断のみで治療が出来るという解釈も成立します。本当にそうして良いのなら考えようによっては気楽ですが、そこのところの具体的指示と言うか決定事項がないのが隔靴掻痒の感がします。今回のような状況では独断による手続きミスを注意しなければならないのですが、結局のところ続報待ちになりそうです。

それとタミフル流通についてはあれこれ配慮されていますが、新型インフルエンザ診断のための第一歩と言うか、一般医療機関における検査の全てと言ってよい簡易検査キットが不足しています。不足と言うよりいつ底をついてもおかしくない状況です。これは町医者レベルだけではなく、元大学医@神戸様のコメントにあるように、

    今のところ、一般病院である当院ではFlu検出されておりません。
    発熱センターから近医受診を勧められた患者は流れてきますが。
    大学でも軽症例はキット検査自体をしない方向になっているようです。
    で、軽症例は全例帰宅させる、と。
    限られた武器ではしょうがないかと。
    ウチももうキットが・・・

たしかに神戸では新型インフルエンザ確認患者は増えていますが、患者の絶対数は少なく、1人のFluA(+)患者を発見するのに少なくとも10倍以上の空振りが必要です。「念のために」で既にかなり消耗していますから、市中の医療機関の在庫はあと僅かになっています。本来、今の時期はインフルエンザが終息し、わずかな残党に対して、シーズンの使い残しのキットで対応するぐらいの時期ですから、ある規模以上の大量消費が行なわれればすぐに無くなります。

神戸と大阪で必然的に大量消費が行なわれていますが、神戸・大阪のニュースを聞いて、全国各地で「念のために」の検査が増えているのはまず間違いないかと考えます。つまり日本中の検査キットの在庫が空になるカウント・ダウンが高々と鳴っている状態かと感じています。キットの残りが少なくなれば発熱外来に集められるのは当然でしょうが、一般医療機関とくに無床の診療所では事実上対応できなくなる可能性を考えています。

採血検査でインフルエンザの確認を行なうにも、たしか1週間弱程度(もう少し早いかな)は必要ですし、もっと早くなっても麻疹騒動の二の舞で、検査会社の試薬がすぐに底が付くのも容易に予想されます。一般医療機関が他の検査で確認できる範囲となれば、インフルエンザも含むウイルス性の感染症らしいのか、それとも細菌感染症らしいのかを見極めるのが精一杯です。この方法でもしばしば起こりうる混合感染となればお手上げです。

タミフルの心配も大事ですが、検査キットの心配もして欲しかったところです。もっともタミフルと違い自治体等に備蓄があるわけではありませんから、行政に要求してもどうにかなるものでは無いと判断したのかもしれませんが、現場の切迫した危機感としては深刻です。でも問屋筋に聞いても本当に無いと言っていましたから、来週あたりは診察だけで診断治療しなければならないかもしれません。

それでも「なんとかせよ」と言われれば、なんとかは考えるのですが、タミフルなどのインフルエンザ治療薬は検査結果に基づいて投薬しなければ保険審査で査定されますから、零細医療機関としてはこれもまた頭の痛い問題です。