新型インフルエンザ対策の今は?

これはちょっとでも目を離すと、実に難儀な問題になります。とりあえず厚労省HPの新型インフルエンザ対策関連情報を見ると、思わず失笑しそうになりました。

今でも「第二段階(国内発生早期)」である事が確認できます。総選挙で忙しくて手が回らないにしろ、なんとかならんのかと感じます。ここで問題なのは、大元の医療体制に関するガイドラインがどれほど生き残っているのかサッパリ見当がつかない事です。何段階かに分けて、かなりの方針変更が行なわれているのは承知していますが、完全にガイドラインから外れたのか、それとも部分的に生き残っている部分があるのかを確認するのは容易ではありません。

自分の記憶も自信がないのですが、ガイドラインはまだ生き残っているはずです。5月から6月に行なわれた対策は、あくまでもガイドラインの上に新たな方針や対策を次から次に貼り付けただけです。貼り付けすぎて元のガイドラインの対策が何であったかわからないぐらいに変わっていますが、あくまでもベースはガイドラインであったはずです。

ガイドラインが生き残っている証拠が厚労省のHPですし、私の知る限り新たなガイドラインが作成、採用されたとは聞いていません。それとパッチワークの末に出来上がっている現在の方針ですが、厚労省HPでも確認できる様に第二段階としての対策をひたすら膨らましたものです。この冬も第二段階のまま押し切る気かもしれませんが、入院を必要とする患者が増えれば、第三段階以降に移行すると考えるのが妥当です。

実際のところ現在の対策は実質第三段階になっています。第三段階は

新型インフルエンザ患者が増加し、入院勧告措置が解除され、当該都道府県内の全ての入院医療機関において新型インフルエンザに使用可能な病床を動員して対応する段階

こういう定義になっています。第三段階の対応のうち、発熱外来システムは破綻していますから、入院対応の部分だけ引用すると。

  1. 感染症指定医療機関等以外において、新型インフルエンザ患者が発生、又は受診した医療機関は、協力医療機関として都道府県等に届出を行う。
  2. 医療機関新型インフルエンザ治療の病床確保のため、すでに入院中の新型インフルエンザ及びその他の患者について、自宅での治療が可能な患者であれば、病状を説明した上で退院を促し、自宅での療養を勧める。
  3. 医療機関は、空いた病床を用いて、重度の肺炎や呼吸機能の低下等を認め、入院治療を必要とする新型インフルエンザ患者の入院を受け入れる。
  4. 新型インフルエンザ患者の入院については、一時的に新型インフルエンザ患者専用の病棟を設定する等して、新型インフルエンザ患者と一般患者とを物理的に離し、感染対策に十分配慮する。なお、この段階では、新型インフルエンザの確定検査を全症例に実施することはできないと考えられるので、患者の重篤度で分類して部屋を分けるなどの現場での工夫が必要である。
  5. 医療機関は、待機的入院、待機的手術を控える。患者には緊急以外の外来受診は避けるよう啓発する。
  6. インフルエンザ以外の医療も可能な限り維持できるよう、各医療機関は診療体制を工夫する。特に小児医療サービスの維持に努める。
  7. 病診連携、病病連携は、地域の自助・互助のために重要である(都道府県等は地域の自助・互助を支援するため、平時より新型インフルエンザを想定した病診連携3、病病連携4の構築を推進することが望ましい)。

第三段階の前提は感染症用病床がパンクした状態の想定で、一般病床を用いざるを得ない時の対応を書いていると考えれば宜しいかと思います。新型インフルエンザ患者の入院治療は感染法上は感染病床である事が原則だからです。これは8/27に舛添大臣が記者会見で説明した、

入院医療の確保

  • 一般病床等への入院
  • 定員超過の取扱の明確化

これに対応していると考えるのが妥当だからです。それでもって現在の対策がどうなっているかですが、どうやら6/19付のものが最終のようです。ガイドライン第三段階と較べてもらえれば良いのですが、まず外来部門です。

  1. 必要に応じて発熱相談センターは患者に医療機関を紹介
  2. 原則として全ての一般医療機関において外来診療を行う
  3. 院内感染対策を徹底し、基礎疾患を有する者等の感染を防止
  4. 自宅で療養する患者に対し必要な情報提供等を行う
  5. 医療機関以外に設置する発熱外来の必要性は、都道府県等が地域の特性により検討

これをチャートにしたのが、

おっと失礼しました、発熱外来は生き残っているようです。基礎疾患を有する者等も定義があり

*基礎疾患を有する者等

 妊婦、幼児、高齢者 、慢性呼吸器疾患・慢性心疾患・代謝性疾患(糖尿病等)・腎機能障害・免疫機能不全(ステロイド全身投与等)等を有しており、治療経過や管理の状況等を勘案して医師により重症化のリスクが高いと判断される者等。

この「基礎疾患を有する者等」も小児科医からすれば面白いところで、「幼児」は入っていても「乳児」は入っていません。乳児と幼児は医学的にも、行政的にも通常キッチリ分けられ、乳児が1歳未満、幼児が1歳から小学校入学以前を指します。幼児の方の幅はややあり、1〜4歳としたり、1〜5歳とする事も見たことがありますが、とりあえず乳児と幼児は別に扱われるのですが、乳児は入っていません。

ただ「基礎疾患を有する者等」のチャートも良くみれば不思議なもので、、

「基礎疾患を有する者等でない場合」に較べてシンプルですが、良くみれば実質のところ殆んど変わっていない事がわかります。ただ現実として困るのは、
    院内感染対策を徹底し、基礎疾患を有する者等の感染を防止
「基礎疾患を有する者等の感染を防止」と言われても、幼児がこれに含まれますし、小児科の患者の主体は幼児です。さらに主訴と言うか受診理由は、「発熱」である事が多数です。インフルエンザであることもあればそうでない事もあります。指導として「入口を分けたり、部屋を分ける、もしくは時間で分ける」なんて事がありますが、スペースの問題で事実上無理と言うのが本音です。

厚労省が半額助成をやっていますが、隔壁を一つ作るだけで消防法上の問題や空調の問題が生じます。さらには会計の問題からトイレの問題も出てきます。診察室への動線の問題も当然あります。おいそれとは対応できないのが正直なところです。だいたい発熱患者とそれ以外を分けても、発熱患者がインフルエンザかどうかもわからない訳です。

姉妹兄弟を連れての受診もありますし、連れてくるのが両親であると限っているわけではありません。付き添いできた祖父なり、祖母が「基礎疾患を有する者等」であるかどうかも確認して分けなければならないとされても、そこまでは途方にくれると言うのが本音です。もっとシンプルに母親が「妊婦」という事も珍しくありません。そんなに広大な診療スペースを持ち、豊富な人手を雇える経営状態には程遠いので困るところです。

それと診療所も困りますが、調剤薬局はどう対応されているのでしょうか。調剤薬局でも待ち時間がありますし、通常は診療所よりさらに狭いところが少なくありません。処方箋をみればインフルエンザかどうかぐらいは判断が出来るかと思いますが、ここで待合が一緒なら医療機関の努力が水の泡になる可能性もあります。調剤薬局の待合にも「基礎疾患を有する者等」が存在する可能性が高いと思われるからです。

とりあえず受診される時には、マスク着用でも訴えるぐらいしか手が無いところです。マスクもいつまであるかが問題なんですけどね。


次に入院部門です。

  • 原則として入院措置は実施しない
  • 感染症指定医療機関以外においても入院を受入れ
  • 院内感染防止に配慮した病床の利用に努力
  • 診療を行わない医療機関を検討(透析病院、産科病院等)

外来部門で長くなったのですが、実質は第三段階です。それは良いのですが、公式の段階を第三段階にしたときに、またぞろ混乱が起こらないかをチョット心配しています。現在の対策はすべて第二段階の拡大解釈で構築されていますが、第三段階については原案のまま健在です。新政権が第三段階にしたときに、事務手続きで混乱しないことを祈るばかりです。


ところでなんですが、もう一度外来診療チャートを見直して欲しいのですが、

    原則:自宅
    例外:入院
こうなっています。言葉には裏表があるのですが、ある程度素直に取って「例外:入院」とは重症患者に限ると解釈できます。インフルエンザで「例外:入院」の対象になる重症とは具体的にどんな基準かになります。あくまでも参考ですが、国立感染症研究所がWHO情報として掲載した推奨された抗ウイルス薬の使用と言うのがあります。国立感染症研究所も意味なく掲載すると思えませんから、ここにある「重症化の徴候」は見ておいても良いと思います。

  • 活動中あるいは安静時の頻呼吸
  • 呼吸困難
  • 蒼白
  • 血痰もしくは着色した痰
  • 胸部の痛み
  • 精神状態の変化
  • 3日以上続く高熱
  • 低血圧
  • 小児では、重症化の徴候として、促迫呼吸や呼吸困難、注意力散漫、起床困難、遊ぶことへの興味の減衰なども含まれる。

ちなみにこれは医療機関受診のための重症化徴候であって、入院の基準となるものではありませんが、呼吸器症状をかなり重視している事はわかります。もちろん変な事を書いてあるわけではありませんが、「例外:入院」となるインフルエンザ患者の入院は呼吸器症状の増悪によるものを強く想定しているとしてよさそうです。

ここで真意の解釈に難しい点があった8/28付NHKニュース(魚拓)では、厚生労働省の対策として、

満床でも臨時に患者が入院できる態勢を整備する

この発言に対する考察はNHK記事のムックを参考にしてもらえれば嬉しいのですが、もしこの言葉が字義通りならどうなるかです。新型インフルエンザ対策として読んでいると、イメージとして新型インフルエンザ患者が病室以外のところで入院している状況を思い浮かべそうになります。

しかしよく考えれば、呼吸器症状のコントロールを行なうには正規の病室での治療が必要と考えます。一部の意見にあった「廊下でも・・・」では「例外:入院」の呼吸器症状の悪化した患者を治療するにはあまりにも不十分ですし、院内感染対策としてもあまりにも疎漏です。それこそ震災じゃあるまいしの世界になります。

そうなれば「廊下でも・・・」の世界になった時に押し出されるのは、インフルエンザ以外の患者という事になります。それも感染症以外の患者と考えるのが妥当です。インフルエンザの重症患者の入院が増えた時には、一般病室の比較的安定している患者が「廊下でも・・・」に押し出されると考えられます。折衝するのは病院側になりますから、もしそうなればさぞ大変だろうと感じています。

それと病室以外に患者を移動したら、8/28付CBニュースにあるように、

 また、入院基本料の算定に関して、廊下や処置室など病室以外に収容した場合の取り扱いについては、「入院基本料の算定はできない」とした上で、当該患者の処置などに対する診療報酬は、算定要件を満たせば算定できるとしている。

 さらに、新型インフルエンザの患者を入院させる病床を臨時的に確保したことで、看護要員の配置数や病床数が変動した場合、「既存病床に入院する患者について、7対1入院基本料を算定できるかどうか」については、留意事項通知「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」のただし書きに定めた通り、「暦月で1か月を超えない期間の1割以内の一時的な変動」の範囲内なら算定できるとした。

実際の事務連絡にはもうちょっと書かれているとは思いますが、DPCなどの包括医療との関連はどうなるんだろうとの疑問が出てきます。そこまでの阿鼻叫喚の世界が出現するのか、例年よりベッド回しに苦慮する程度で収まるのかは、本番にならないとわかりません。まあ、そうなればそうなったで、疑義照会と事務連絡、通達の嵐がまた一杯くるんでしょうね。