事務連絡ってなんだろう?

新型インフルエンザ対策に際して頻々と見られるのが、

    事務連絡
その数は5月以来100通は軽く越えています。お世辞にも行政内部の仕組みに熟知していると言えないのですが、従来は通達と言う形式がポピュラーでした。行政からの指示は
    政令、省令、告示、訓令、通知、公示
これらのものがあり、私は大雑把に「通達」という概念でまとめていますが、実際は指示を出す部署、レベルなどで細かく分けられます。通達の重みはこれまで何回か触れていますから、簡単にしておきますが、実質上法律に近い強制力があります。その割りに気軽にポンポン出されるのが通達ですが、それは今日の本題から外れるので置いておきます。

そういう通達と事務連絡はどういう序列関係にあるかです。漠然と通達同様の重みのあるものと解釈してきましたが、どうも従来の通達より重みは落ちるものであるらしい感触があります。調べかけたのですが、これがまたはっきりしません。そんな中でOKwaveの質問に興味が引かれる物がありました。質問は、

    行政用語 省庁発の「事務連絡」とは
そのものズバリの質問ですが、回答を2つ紹介します。ちなみにOKwaveの質問・回答とも、新型対策に関連してのものではなく、ごく一般的な意味での「事務連絡」です。それとどちらの回答者も行政関係に係りのある方のような印象がありますが、まず、

    「文書番号」が入った文書は「発送簿」に記載され、「いつ、どこに、だれが、送ったのか」記録されます。
    「事務連絡」の文書は記載されません。

    拘束力がないとか、正式でない、とかではなく、重要度があまりない、ということです。
    要は単なる連絡程度の内容だということです。

    また、同じ役所内に出す場合も「事務連絡」が多く使われます。

    拘束力がないとか、正式でない、とかではなく、重要度があまりない、ということです。
    要は単なる連絡程度の内容だということです。
ありゃりゃ、かなり位置付けが低い事を示唆します。「単なる連絡程度の内容」とは相当軽そうな印象です。もう一つは、

    薬食審査発第XXXX号 とかは(厚生省かな?)各地の保健所等に (例の餃子回収の様な) 命令/指示 など

    事務連絡、定例のルーチンワーク作業の変更、改定とかの指示など『外』では無く『内』側の話 で良かった…はず、です。

    何しろ10年近くブランクが有りますモノで、今 現在の”お役所言葉”も同じか?と、言われると自信有りませんが。

    『外』では無く『内』側の話 で良かった…はず、です
行政的に「内」と「外」の境界線があるはずですが、定義は存じません。常識的には「内」は行政内部のことであり、「外」はそれ以外になりそうなものですが、新型対策では厚労省から医療機関に事務連絡による指示が行なわれている様に思います。厚労省にとって医療機関監督官庁ですから、広い意味で「内」とは言えなくもないですが、この回答者の「内」はもう少し狭そうなニュアンスを感じます。


ソースがOKwaveなので根拠としてはやや寂しいのですが、事務連絡は従来の通達に較べてかなり軽そうな感触があります。軽いから無視しても良いとか、軽視しても無問題と言う気はありませんが、Fax処方の問題に事務連絡で構わないのかの疑問が湧きます。Fax処方には医師法20条が関連します。

医師法第20条

 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。

俗に無診医療の禁止とされているもので、これもまた通達(だったかな?)で例外規定が一部に定められていますが、かなり厳格に運用されます。今回の新型対策のFax処方の最新の指示は平成21年8月28日付事務連絡「新型インフルエンザ患者数の増加に向けた医療提供体制の確保等について」にありますが(わ〜ぉ、これも初めて見た)、

(イ)発熱等にて医療機関への受診歴がある患者の場合

 発熱等にて医療機関への受診歴がある患者が、発熱等のインフルエンザ様症状があり、自宅で療養できる患者について、医師が患者背景等を考慮して、電話による診療にてインフルエンザと診断した場合には、診察した医師はファクシミリ等により抗インフルエンザウイルス薬等の処方せんを患者が希望する薬局に送付し、薬局はその処方せんを応需する。

ここも実は巧妙に医師法20条を回避している部分がありまして、

つまり初診ではない事をある程度想定するような書き方を行い、再診時は「電話再診」という形式にしています。電話再診は診療報酬上認められていますから、無診医療に当たらないと解釈する事は可能です。可能なんですが、この文章のままでは、「医療機関への受診歴」に「同一の」の注釈がありません。お役所文はこういう時の定義のしかたは厳密ですから、無いという事は医療機関を変えても可能との解釈も成り立ちます。

ここを好意的に解釈するとその医療機関に初診であれば「電話初診」になり、医師法20条に明らかに抵触し、そもそも成立しないので書く必要がないと考える事も可能です。ですからFax処方はあくまでも電話再診の拡大解釈であり、医師法20条に抵触しないとしているとも考えられます。現実にも類似の事がないとは言えません。

小児科でしばしばあるのは、帰宅してみたら解熱剤が家に無かったと言うのがあります。大抵は診察時に確認するのですが、忘れる時もあり、親も「あると思っていたら無かった」はあります。そういう時に電話問合せがあり、追加処方として出す事はありえます。そういうのに類似したものと見なせない事はありません。

これも法に照らせばどうかとは思っていますが、最低限親は診療所に来ますし、来た時に何かあれば親の口から子供の病状を確認できますから、個人的にはなんとかお目こぼし程度に考えています。

ただ今回の対策のFax処方はシチュエーションがやや異なります。「発熱等にて医療機関への受診歴がある患者」は初診時に発熱はあるとしても、インフルエンザの診断には至らなかったのでインフルエンザ治療薬は処方されていないことになります。ところが、その後症状が変わり「インフルエンザ様症状」になっている想定です。つまり初診時と症状がかなり変わっているわけです。

そういう状態であっても電話再診によるFax処方で問題ないかと言えば従来では「ダメ」であったはずです。前日の受診であっても容態がかなり異なるからです。つうか医薬分業の建前上からも、患者に頼まれても医療機関調剤薬局に直接Fax処方を行なうのも好ましくなかったかと存じます。そういう従来の運用解釈に対し事務連絡で「処方可」としています。そもそも、そういう診療で良いのか悪いのかの問題は先日やったのでこれも置いておくとします。


問題は事務連絡の位置付けです。これまでの解釈なら医師法20条に抵触しそうな事柄を、事務連絡程度で可能にしても後に問題は残らないかです。つまり「単なる連絡程度の内容」の可能性がある事務連絡で医師法20条の運用解釈まで踏み込み、なおかつ後も問題にならないかです。どうか誰か詳しい方がおられましたら、行政用語としての「事務連絡」の位置付けや定義を教えてください。

全部かどうか確認するのが非常に困難なんですが、Fax処方に関連する厚労省からの指示は、

すべて「事務連絡」であるのが確認できます。どうせこれからもインフルエンザ対策としてワンサカ「事務連絡」があるでしょうから、はっきりしないと寝覚めが悪いところです。