医療情報の豆知識

今日取り上げる「医療情報」の意味は、内容ではなく情報そのものの意味です。もうちょっと狭く定義すると厚労省や政府が発表する医療関連情報と理解して下さればと思います。

私も今週になってインフルエンザ関連情報を取り上げましたが、そんなに注意して読まなくともソースがマスコミ記事である事がわかってもらえるかと思います。新型インフルエンザは、現時点ではワクチン情報に強い関心が寄せられていますが、医師であってもマスコミ情報以上のものは知らないのです。私は開業医なので医師会情報や自治体からの情報を手にする事もできますが、それでも知らないと言う事です。

この事は医療関係者以外の方には、どうも誤解をされている方がおられると感じています。ある医療政策が発表された時に、報道発表前にあらかじめ医療機関で周知されているとの思い込みです。つまり報道発表されるのは、医療関係者に先に周知され、準備万端整ってから行なわれるであろうの誤解です。

過去には1つぐらいあるのかもしれませんが、私の知る限り、そういう事例は見た事も聞いた事もありません。医療政策と言うか医療情報の発表手順は、

正確には存じませんので一部間違いがあるかもしれませんが、あくまでもまず報道発表が行なわれ、それから医療機関に順次情報が伝達される形式です。ですから新たな情報を受診中の患者から聞かされて驚いたり、テレビや新聞、さらにはネットで情報を知って慌てふためくなんて事は珍しくもありません。ですから現時点で医療機関に新型ワクチン情報を問合せをされても「わからない」としか返答できません。


個人的に遭遇したエピソードを2つほど挙げておきます。一つはまだ研修医の頃の話です。日曜当直と言うのをやっていたのですが、患者から突然問合せ電話が舞い込んで来ました。

    私の使っている薬は大丈夫か?
詳しく聞いてみると、ある薬剤に異物混入があり、とあるロットを緊急回収しているとの報道があったとの事です。前日の夕刊に掲載されていたそうですが、当時も今も朝刊しか取ってませんでしたし、前日はテレビも見るヒマはありませんでした。ネットも当時は普及はまだまだで、パソコン通信と呼ばれていた末期ぐらいです。要は全然「知らなかった」と言うことです。

その後はスッタモンダの騒ぎがあって、これはこれで懐かしい思い出なんですが、病院に公式のFaxが届いたのは翌月曜日でした。


もう一つは開業してからの日本脳炎予防接種中止の時で、あの時は朝にヤフーを見ていたら飛び込んできたニュースです。その日も予約が入っており、その日だけでなく予約が入っていたので、希望者へのお断りの電話に一日中追い回されました。希望者からは「・・・でどうなる」の質問があったのですが、公式情報が何も無い状態では返事を濁すしかなかったと記憶しています。

これも公式のFaxが届いたのはその日の夕方でした。


もちろん公式の情報が届けば、報道情報より幾分詳しい情報は入手できる事はあります。必ずしもそうでない事も多いのが苦笑するところですが、詳しいと言っても、具体的な医療機関としての対応の指示ぐらいです。それと、良くあるのは「結局なんて書いてあるのだろう」と読解に悩む事です。第一報はしばしば肝心なところが曖昧な表現になっている事が多いですからね。

ですからお願いなんですが、報道で公式発表されるまで新型ワクチン情報を医療機関に問合せるのは、出来れば暫くは控えて頂きたいところです。医療機関とて知っている情報は、報道情報以上のものは何も知らないと言う事です。

それとこれは難しい注文なんですが、報道記事も少し注意して欲しいところです。厚労省の発表と言っても、観測情報と正式決定に分けられます。観測情報は、まだ決定していないが「そういう方向に進みつつある」の記事です。たとえば新型ワクチン優先順位の報道がそうです。この事について報道されたから医療機関はもっと詳しい情報を持っていると思われたら大間違いです。

たとえば9/8付共同通信を例に取ると、

厚労省が新型用ワクチン接種案 医療機関指定し予約制

 厚生労働省は8日、新型インフルエンザ用ワクチンの接種について、国と委託契約を結んだ医療機関で、原則として予約制で行うなどとする方針をまとめた。優先接種の対象者は、母子健康手帳や健康保険証などで確認する。

 ワクチンの供給量が限られ、優先対象者に確実に接種する必要があることから、国が直接関与することにした。都道府県や政令指定都市の担当者を集めて同日、都内で開催した全国会議で説明した。席上、厚労省は接種料金について全国一律としたい考えも示した。

 方針によると、地域の医師会が接種実施を希望する医療機関のリストを作成、機関数が不十分な場合は市町村が追加選定する。国はこれらの医療機関と委託契約を結び、10月中旬をめどにリストを公表する。接種は個人が医療機関に予約して受ける方式が原則だが、地域の実情により、医療機関以外での集団的な接種もあり得るとした。

 ワクチンは、生産量に応じて国が都道府県ごとの配分量を決定。都道府県は接種対象者の人数を把握し、医療機関ごとの配分を決める。

 優先対象者のうち妊婦や1歳未満の乳児の両親は母子健康手帳で、それ以外は健康保険証などで本人確認をする。基礎疾患(持病)のある人が、かかりつけ以外の医療機関で接種を受ける場合には、主治医が発行する「優先接種対象者証明書」を持参する。

 接種費用は実費相当額を徴収するが、低所得者については公費による負担軽減措置を検討する。

見出しに「厚労省」と書いてあるので決定事項のように早合点しそうになりますが、あくまでも「案」の報道記事です。報道内容もほんの少し注意すれば、

  • 方針をまとめた。
  • 席上、厚労省は接種料金について全国一律としたい考えも示した。
他にもありますが、現段階では厚労省が「案」を示し、案についての都道府県担当者への説明会を行なった段階である事がわかると思います。厚労省はおそらくかなり具体的な「案」を作っていると考えられますが、あくまでもまだ「案」段階で正式決定ではありません。出席した「都道府県や政令指定都市の担当者」には具体的な案を記載した参考資料を配布したと考えられますが、これは末端の医療機関には知らされません。

それとこれは少しだけ応用問題ですが、現在の政府・厚労大臣が「決定」まで進めるかどうかの考慮も必要です。理由は簡単で間もなく政府も交代し、厚労大臣も交代するからです。新型インフルエンザ対策には政治的側面もあり、正式決定は新政権・新大臣の下で行なわれる可能性が高いとするのが妥当かと考えます。

新大臣になっても根こそぎ方針が変わる事はないとは思いますが、政治的アピールのために小幅程度の手直しが行なわれる可能性は十分あります。案段階であればまだ柔軟に対応は可能でしょうが、現政権・現大臣の下で「決定」にしてしまえば、小幅と言っても変われば事務手続きの修正はまた時間が必要なことは多々あるからです。

こういう観測情報による記事内容は、あくまでも観測であり正式決定ではありません。医療機関に知らされる情報は正式決定したものに限られ、観測情報段階のものは全く知らされません。医療機関が知るのは、あくまでも正式決定されたものに対する正式通達のみであり、それも報道されてから1日程度のタイムラグがあると考えてもらった方が無難です。

情報によってはFaxぐらいではチンプンカンプンで、改めて後日に説明会があるとか、大部の参考資料が送られてくるなんて事も多々あります。裏舞台はそんなものなのです。

もちろん医師は医療業界の中の人ですから、ある程度のアングラ情報は持っています。たとえばこのブログのコメント程度の内容です。医師によっては「都道府県や政令指定都市の担当者」からの情報を入手する者もいるでしょうし、そこからのまた聞き情報もありえます。ただそういうレベルの情報は問合せに対して使えない情報です。問合せに使える情報は正式決定され、正式に通達された情報に限られると言う事です。


実はこれ、問い合わせ電話の多さに悲鳴をあげそうになっている当院スタッフからのお願いでもあります。どうか医療情報の豆知識として御参考にして頂ければ幸いです。