7/28付CBニュースより、
インフルワクチン接種、10月以降も当面国の事業で−厚労省案
厚生労働省は7月28日、新型インフルエンザ対策担当課長会議を開き、自治体などの担当者に10月以降のインフルエンザワクチンの接種事業の案を示した。それによると、継続審議となっている予防接種法改正案が成立し、同法上の新臨時接種を開始するまでは、国がワクチン接種の実施主体となり、医療機関は国とワクチン接種に関する委託契約を結ぶ。ただ、新臨時接種の開始後は市町村に実施主体が移ることを前提に、医療機関の確保や接種費用の設定は市町村が行うとしている。
予防接種法改正案では、今回のような弱毒性の新型インフルエンザを対象にした新類型を臨時接種に創設するとしており、厚労省は10月以降に始まる新型と季節性を混合したインフルエンザワクチンの接種を新臨時接種で実施する方針だった。しかし、同法案は先の通常国会では成立せず、継続審議になっている。
接種事業の案によると、現行の新型インフルエンザワクチンの接種事業を9月30日で終了し、ワクチンを接種する医療機関と国が現在結んでいる契約を同日で解除する。10月1日以降にワクチンを接種する医療機関は、9月中に国と新たな契約を結ぶ。ただ、予防接種法改正案の施行後1か月をめどに、市町村を実施主体とする同法上の新臨時接種を開始することを前提に、医療機関の確保は市町村が行う。また、新型インフルエンザワクチンでは国が全国一律に設定した接種費用も、市町村が設定する。
新臨時接種への移行に当たっては、新臨時接種が始まる前日に、国は医療機関との契約を解除し、新たに市町村が契約を結ぶ。
■優先接種対象者は設定せず
昨年の新型インフルエンザワクチンの接種に当たって設定した優先接種対象者や接種スケジュールは決めず、全国民を接種対象者にする。
副反応報告については、これまでと同じく、報告基準に該当する場合の厚労省への速やかな報告を求める。一方、接種を受けた人数の報告は、これまでと同じ手順とするが、10月1日以降に報告様式を簡素化するという。
ウンザリするような事が色々書いてあるのですが、この記事から拾い上げたいテーマは、
- 予防接種法改正
- 契約問題
- 今年の契約問題
とりあえず記事にある、
何か素晴らしいものでも作られるように感じてしまいそうですが、その実はドロドロしたものです。去年の新型接種は各種情報(アングラが主体です)では公費の臨時接種で対応する予定であったとされます。その傍証としてパーティボトルの大量生産があり、土壇場で突然登場した契約問題があります。では公費での臨時接種は現行法で可能であったかになりますが、予防接種法2条2項8号
前各号に掲げる疾病のほか、その発生及びまん延を予防するため特に予防接種を行う必要があると認められる疾病として政令で定める疾病
政令でさえ定めれば可能です。ついでに
第六条
都道府県知事は、一類疾病及び二類疾病のうち厚生労働大臣が定めるもののまん延予防上緊急の必要があると認めるときは、その対象者及びその期日又は期間を指定して、臨時に予防接種を行い、又は市町村長に行うよう指示することができる。
2 厚生労働大臣は、前項に規定する疾病のまん延予防上緊急の必要があると認めるときは、政令の定めるところにより、同項の予防接種を都道府県知事に行うよう指示することができる。
ところが2条2項8号に従った臨時接種は行われていません。理由は財務省に一蹴されたというのが有力です。このため理屈をひねくりだして公費接種から任意接種に変更しています。公費接種と任意接種の条文上の定義の違いは、
種類 | 準拠条文 | 定義 |
公費接種 | 2条2項 | 発生及びまん延を予防することを目的 |
任意接種 | 2条3項 | 個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の予防に資することを目的 |
どう違うんだと言いたいところですが、「まったく違う」と宣言して公費が不要な任意接種としています。現在2条3項に定められる予防接種はインフルエンザだけですから、従来のインフルエンザワクチンと全く同じ扱いになったかと言えば、そうでなかったのは御存知の通りです。ワクチンの供給ラグの問題があり、公的関与を公費接種と同等に行なおうとしました。これが契約問題になります。
では公費接種と任意接種で具体的にどう違うかですが、国の勧奨と努力義務があげられます。言葉が抽象的なので具体的に翻訳すると、
-
国の勧奨・・・国の公的関与(ワクチン価格、接種価格、ワクチン配給、優先順位など)が積極的に可能
努力義務・・・接種費用の公費負担
改正案ではこれまでセットであった国の勧奨と努力義務を切り離し、財務省との面倒な折衝が不要な新ジャンルを作ってしまおうと画策しています。具体的には、
* | 現行の臨時接種及び 一類疾病の定期接種 |
二類疾病の定期接種 | 新臨時接種 |
努力義務 | ○ | × | × |
国の勧奨 | ○ | × | ○ |
これならば、厚労省の関与は公費接種と同様に、予算は財務省と面倒な交渉は不要になると言うわけです。厚労省的には都合が良いかもしれませんが、なぜにこんな新ジャンルが必要かはよく考えれば不明です。今回のような事態はそんなに起こるものではなく、素直に公費による臨時接種にしておけば問題は無いはずです。すべては厚労省が手間を惜しんでいるだけと私は考えます。
それでも新臨時接種にはメリットはあります。案外知らない人が多いのですが、ワクチンの副反応による健康被害への補償は公費接種による一類疾病の方が手厚いというのがあります。国の勧奨と言う意味には、この補償が一類疾病と同様と言うのがあります。それなら意味があると言われそうですが、そもそも論が当然出てきます。
なぜに国の勧奨の有無で補償に差をつける必然性があるかです。もっと言えば、現行に含まれていない他のワクチンも含めて補償に差をつけなければならないかです。ここは異論も出てくるかもしれませんが、接種を受ける者にとっては、国の勧奨があろうがなかろうがワクチンには変わりありません。であるならば、予防接種法で本当に改正しなければならないポイントは違うはずです。私見ですが列挙してみると、
- 2条2項8号に定められる臨時接種をスムーズに運用できる関連法の整備
- ワクチンの種類による補償額の格差の是正
ちょっと笑ったのですが、
-
接種事業の案によると、現行の新型インフルエンザワクチンの接種事業を9月30日で終了し、ワクチンを接種する医療機関と国が現在結んでいる契約を同日で解除する。10月1日以降にワクチンを接種する医療機関は、9月中に国と新たな契約を結ぶ。
この契約は御存知の通り、契約内容も不明、契約考慮時間は長くて2〜3日、短い方では数時間の白紙委任で行なわれています。契約してから提示された契約期間なんて見事に空欄になっていました。それでも空欄だった契約期間の設定は厚労省の一存で決められるそうです。実に素晴らしい契約で、こんな契約が果たして民法として成立するかどうかが今でも疑問です。
それでもって契約書は国の一存で突然破棄され、新たな契約を結ばなければならないようです。おそらくですが、細部は去年の契約内容を踏襲するでしょうから、原則完全予約制とか、接種時の空間的・時間的分離みたいなものは残る可能性がありそうです。うちの職員が一番ウンザリしていたのは接種済証の発行です。あれは本当に手間がかかりますから、数をこなす医療機関では今年もネックになりそうです。
それとメーカー筋は「今年は無い」と明言していた返品問題ですが、これだって契約内容に変わりがなければ、いつ運用が変更されるかわかったもんじゃありません。さらにこれもメーカー筋が「ワクチン株の決定が遅れただけ」と説明している発注の遅れですが、これもまたぞろ「予定接種人数による配給」なんていつ言い出されるか戦々恐々です。
今年の契約は契約書を先に提示してくれるのでしょうか。また契約内容の細部の疑義について問い合わせる時間があるのでしょうか。今年も有無を言わせない白紙委任での即日回答を要求されそうな悪寒がします。
同じような項目名で芸が無いのですが、項目を分けます。今年の契約は複雑そうな手続きになっています。簡単にまとめておくと、
これから2回契約を結ぶ必要があるのですが、医療機関として現実として関心があるのは接種価格です。去年は接種価格が先に発表されて、後から卸価格が発表され、ギャフンとなったのですが、今年は逆になりそうです。その接種価格ですが、CB記事によると、-
新型インフルエンザワクチンでは国が全国一律に設定した接種費用も、市町村が設定する
それでもって問題は予防接種法の改訂法案がどれぐらいの日数で可決されるかです。さすがに厚労省も9月中の成立は予想していないようですが、10月の上旬に成立は可能なんでしょうか。10月になればインフルエンザ接種開始はカウントダウン状態になります。去年は繰り上がりましたが、例年なら10月の半ばぐらいからスタートします。
しかし市町村が決定すると厚労省が言っている接種価格は法が改訂されないと出来ないはずです。そうなればワクチン接種開始は法案審議の進行に左右される事になってしまいます。そうなると懸念事項は一杯出てきます。
誰でも予想していますが、秋の国会が平穏無事に進行するとは思えません。参議院では多数派の野党が手ぐすね引いて待っています。饒舌な代わりに失言や独断専行の多い現首相が何かやらかせば、審議全体がいつストップするかわからない状態です。騒ぎが大きくなれば問責決議案はいつでも可決可能な状態です。
ここで予防接種法改正はさしたる重要法案の位置付けではありません。審議が停滞すれば、与党サイドも法案を絞って可決を目指したりしますが、絞って可決を目指すリストに入るかといえば正直なところ疑問です。つまりと言うほどではありませんが、法案可決が大幅に遅れたり、結局継続審議や廃案になる懸念さえないとは言えない事になります。
もちろんどうなるかなんて、やってみなければわからないとは言え、今年も振り回される秋になりそうな悪寒がしています。とりあえず、あっと驚く激安価格が出てこないかだけを心配しておきますが、やっぱり激安だろうなぁぁぁ。