あくまでも条文だけから見た新型ワクチン問題です。まず対象疾患が具体的にどうなっているかです。
第二条
この法律において「予防接種」とは、疾病に対して免疫の効果を得させるため、疾病の予防に有効であることが確認されているワクチンを、人体に注射し、又は接種することをいう。
これだけでも十分ですが、あえてまとめなおしますと、
一類疾病 | ジフテリア、百日せき、急性灰白髄炎、麻しん、風しん、日本脳炎、破傷風、8号指定 |
二類疾病 | インフルエンザ |
ここまで明瞭に指定されています。明瞭さは、
第六条
都道府県知事は、一類疾病及び二類疾病のうち厚生労働大臣が定めるもののまん延予防上緊急の必要があると認めるときは、その対象者及びその期日又は期間を指定して、臨時に予防接種を行い、又は市町村長に行うよう指示することができる。
2 厚生労働大臣は、前項に規定する疾病のまん延予防上緊急の必要があると認めるときは、政令の定めるところにより、同項の予防接種を都道府県知事に行うよう指示することができる。
第6条は臨時接種について定めた条文ですが、臨時接種の範囲もあくまでも、
-
一類疾病及び二類疾病のうち厚生労働大臣が定めるもの
- 2条2項8号の「前各号に掲げる疾病のほか、その発生及びまん延を予防するため特に予防接種を行う必要があると認められる疾病として政令で定める疾病」
- 二類疾病のインフルエンザとして臨時接種を適用する
現実の新型インフルエンザ対策を厚労省がどう判断したかと言えば、この予防接種法にある二つの選択枝を選ばず第三の道に進んでいます。なぜそうしたかの最後の判断の経緯は、政府の専門家諮問委員会の記録が手際よく抹殺されているようなので、検証が困難になっています。そこで一昨日読んでみた予防接種制度の見直しについて(第一次提言)から推理してみる事にします。
一類疾病・臨時接種と二類疾病の差はいろいろあるでしょうが、単純には国の勧奨と患者の努力義務の有無があります。どちらも抽象的な表現なのですが、これもまた大雑把に解釈してみます。
-
国の勧奨・・・国の公的関与(ワクチン価格、接種価格、ワクチン配給、優先順位など)が積極的に可能
努力義務・・・接種費用の公費負担
提言を読むと今回の新型ワクチンで厚労省がやりたかった方針が浮かび上がるような気がしています。とりあえず努力義務、すなわち公費負担は行なわないのが絶対の前提であったように考えられます。努力義務をしないという前提に立てば、予防接種法に適用するには二類疾病扱い以外になくなります。しかし公的関与は従来のワクチンより、より強力に行ないたかったと考えます。
国の勧奨とはどの程度まで指すかがよくわからないのですが、提言を読む限り、予防接種法に定める都道府県主体の公的関与ではなく、国がすべてを掌握する公的関与が今回の新型ワクチン対策にどうしても欲しいと考えたと思われます。つまりと言うほどではありませんが、
-
カネは出さないが、口は出す
どうも白紙委任契約から実際の接種いたる数々の混乱の一つの遠因は、
-
カネも出すが、口も出す
予防接種法に無い「カネは出さないが、口は強力に出す」を実運用上で行なうために強引な根拠にしたのは例の白紙契約です。皆様、よく覚えてられる様にあれはバタバタで成立しています。あれだけバタバタになったのは、時間不足、準備不足でそうなったとも見れますが、ここまで考えると人為的にバタバタにした可能性も十分あると見ています。
あの白紙契約は下手に時間をかければ、常識的な疑問が必ず出てきます。契約内容についての疑義や、予防接種法の規定にない強制力の問題とかです。これが医師会レベルででもゴネられたら、法的根拠が薄弱ですから厚労省にしても厄介になります。そこで契約内容を調べさせずに短期間で大量の白紙契約を結ばせる手段を取ったとも見れます。
契約後でも文句は言えますが、契約前に較べると対処しやすくなりますし、たとえ法廷闘争に持ち込まれても十分時間が稼げます。そもそも契約してしまえば、手間とヒマのかかる法廷闘争にまで持ち込む医療機関はそうそう出てきません。これが契約前に問題が大きくなると、肝心の接種機関の数の確保に支障を来たす懸念がありますから、あのバタバタ劇が必要であったとも考えられます。
白紙契約の舞台裏はともかく、新型ワクチンの運用は予防接種法に無い契約と言う根拠でもって強引に進行され、後で特別措置法をなんとか成立させて辻褄を合わせています。この運用は厚労省も「次は嫌だ」と考えたらしく、提言でドタバタ劇を予防接種法に取り入れる工作を始めているわけです。
こうやって考えていくと予防接種法改正の主眼点がわかりやすくなって来る様に感じます。提言に言う新臨時接種の位置付けは、
-
カネは出さないが、大いに口は出す
こういう時の予算確保の手続きの詳細も良くは知らないのですが、常識的に考えて、
これぐらいのステップが必要じゃないと考えられます。公費負担も全額国が負担すればこれで終わりですが、地方負担を求めれば、実際にこの通りであるのか、またこの通りであってもどこまでステップが進んだのかの証拠はどこにも残っていませんが、結果だけはわかっています。努力義務(公費負担)は消滅しています。つまり予算確保は出来なかったと言う事です。そのためアクロバチックな手法を繰り広げて、公費接種(努力義務)を行わずに公的関与(国の勧奨)を行なう事態となったと考えます。こういう事態があったとして、新型ワクチン接種の教訓として厚労省は何を学んだかです。推測の上に推測を重ねている部分は御了解頂きたいのですが、
- 新型接種を現行の予防接種法で運用したいと考え、さらに公的関与を深めようと思うとセットで公費接種の問題がついてくる
- 公費接種のための予算確保は容易でない事がわかった
どこかの大臣の「仮定の問題にはお答えできません」の答弁が出てきそうですが、予算さえ取れれば嬉々として公費接種にしたと私は考えます。真の問題は予防接種法の一類疾病8号に指定しようとしても、二類疾病の臨時接種で運用しようとしても、予算問題が障害となり、事実上死文化している点だと私は考えます。緊急事態に抜くべきはずであった伝家の宝刀は、
-
抜こうとしても錆び付いて抜けない
新型ワクチン問題で教訓とすべき事は、「次」の時にいかに伝家の宝刀を抜けるようにするかであるはずなのに、その手間を惜しんで二度とに使わずに済む便法を厚労省は設定しようとしています。こういうのを姑息とか、本末転倒と言うのじゃないかと思っています。もうちょっと付け加えれば、厚労省だけではなく政府の危機管理対策の姿勢の問題に通じると考えます。